新・立憲民主党が本気で政権交代を目指すなら共産党と組む覚悟を - 毒蝮三太夫

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※この記事は2020年09月21日にBLOGOSで公開されたものです

菅さんの新内閣、出そろったメンバーを見ると安倍内閣を引き継ぎつつ、各派閥にも目配せした顔だ。俺はね、現実に即したバランスのいい人事だと思うよ。コロナ対応の只中だし、人事を刷新しすぎるよりも実務の継続を優先ってことだろうね。

菅さんも安倍さんがやってきた人事の効果も落とし穴もさんざん間近で眺めてきてさ、叩いたらホコリが出て文春砲にズドンとやられちゃうとか、そのたびに官房長官として尻ぬぐいのような苦い言い訳をしてきたわけだから、うかつな人事をすると足下をすくわれるってのが身に染みてわかってんじゃないの?

ここからは実務だからね。安倍さんを引き継ぐって言ってたけど、少なくともいいとこだけを引き継いでほしいよ。菅さんって仕事が早いんだってね。決めたらやっちゃう。実行力がある。「ふるさと納税」だとか「Go Toキャンペーン」だとか、決めたら押し通しちゃう。

そういう押しの強さがここからのコロナ対策、経済対策に吉と出るか凶と出るかはわからないけど、庶民の目に菅さん効果が見えてきたら、菅政権も長期政権になるかもな。

菅さん見てて今さらながらだけど、もしも日本の新しい首相が「岸田さんの整った顔」「石破さんのがっちりした体」「菅さんの頭」という三人のいい所を合わせた人物だったら良かったなあ~って夢想してるよ(笑)。

それで思い出したんだけど、バーナード・ショーって知ってる? アイルランドの劇作家でノーベル文学賞も取った人だけど、皮肉屋でね、色んな箴言やジョークが残ってる。

彼に惚れたアメリカの女優が彼にプロポーズしたときの話が伝わってるよ。女優がこう言ったんだ、「もし私たちが結婚すれば、あなたの優秀な頭脳と私の美貌を持った子どもが生まれるわ。早くそういう子どもが欲しいの。私たち結婚すべきよ」。

するとショーはこう返した、「カンベンしてくれ、もし俺の顔とキミの頭を持った子だったら目もあてられない」・・・アハハハハ、見事な返しだね。この話、立川談志が好きでよく言ってたっけ。

政権交代を目指すなら共産党と手を組む覚悟を

自民党の顔が変わったけど、野党にも大きな動きがあった。立憲民主党と国民民主党の一部が合わさって合流新党になったよ。新しい立憲民主党だな。党首は枝野さん。衆参合わせて150名になった。

この合流新党だけどさ、どうも以前の民主党の残像がチラつくんだよな。小沢一郎さんとか野田佳彦さんとかさ。あのときの民主党は寄せ集めが空中分解しちゃったからな。今度も同じ轍を踏まないか心配だよ。

小皿同士が集まって、ひとつの大皿になれるかどうかだ・・・。まさに器の問題。党首である枝野さんの器、主要な執行部たちの器、これがあの頃の民主党からどれだけ成長して強くなっているか。なにしろ自公っていう大皿は強いからね。

でね、野党の最大の目標は何だって言ったら「政権交代」だ。その点で今の合流新党である立憲だけど、俺はまだまだ甘いと思う。自公に対抗していくなら最終的には共産党だって合流しないとダメだ。新立憲は共産党と手を組む、枝野さんと志位さんが握手する、ふたりともカバみたいな顔してんだろ、似たもの同士なんだからそれぐらいしないと(笑)。

俺は最近の政治を見ていて「一番まともなこと言ってるな」って思うのが共産党だったりするよ。それはさ、大企業とお仲間ばかりが潤うんじゃなくて、決して特別なことでなく、ごく普通に暮らしたいと思う庶民の側に立っていこうって主張が伝わってくるんだよ。

俺さ、50年以上もラジオの中継で町に出て、そこに住む人々と喋ってきた。庶民の声を毎日この耳で聞いてきた。景気がいいね、景気わるいね、儲かってるよ、そこそこだよ、生活は大丈夫、いやいや苦しいよ、給料上がらねえな、増税カンベンしてよ・・・色んな声を聞いてきた。どれも庶民のホンネだよ。まあこの20年は「景気わるいね」が大半だった。

あと俺ね、千葉にある聖徳大学で介護や福祉の道を目指す学生を20年以上も教えてるんだ。現場で必要なお年寄りとのコミュニケーションだったり、俺が経験してきたことを若い子たちに伝えているの。だけど年々、その道を目指す若者が減ってきている。高齢化社会でお年寄りは増えて介護士は必要なのに不足している。不足するにはわけがある。就業条件がよくない。給料が安いんだ。若い子が頑張りたいと思っても頑張れないんだ。

で、ずっと自民党は何してきたかっていうと、アベノミクスの財政出動で株価を支えて、大企業や金融屋を支えてきた。いわゆる富裕層はアベノミクスの恩恵にあずかった。でも中小企業や庶民はその実感がない。介護士不足の問題には、海外からの働き手で穴埋めしようってことをしてる。要は安い労働力が第一で、自国の若者を育てようとしないんだ。日本ってそういう国でホントにいいのかなって思っちゃうよ。

新総理の菅さん、国の基本は「美女・淑女・熟女」って言ってたね、あれ、違った? ありゃ「自助・共助・公助」か(笑)。「自助・共助・公助 そして絆」っていうの? 菅さん、そのフレーズをずっとスローガンにしてるんだろ。これ、自助がまず先なんだよな。自分のことは自分でしろ、金が無いのも生活が苦しいのも自己責任、すぐ国に頼りなさんなよ、ってことを言ってるわけだ。

でもさ、この社会で普通に生活するのに、20年以上も不景気のままで、賃金は安い、結婚も不安、子育ても大変、消費税は上がる、年金は減る、そういう日本にした国の責任は後回しで「自助・共助・公助」なんて言われてもな・・・。

その点、共産党は真逆。まず公助ありき。いざというときには国が助けるから安心して暮らしましょうって、そういうこと言ってるよ。

それに共産党って、国から各党に分配される政党交付金をずっと受け取らないんだよな。偉いと思うよ。あれって元は税金だろ。納税してる国民からしたら、いつのまにか自分の納めた税金が議席の多い与党に多く配分されちゃうわけだからな。

もし共産党が政党交付金を受け取ったら、年間10億円ぐらいになるんだろ? なのに「この金はスジが通らないんで受け取れませんな」って、武士は食わねど高楊枝、落語で言えば「井戸の茶碗」だよ。

なんかやけに共産党を持ち上げてるな(笑)。俺はどこか特定の党に肩入れするつもりはないよ。しいて言うならG党だからネ。ジャイアンツだけはガキの頃から84歳になるまでずっと支持してるよ。

清濁併せ呑まなければ政権は取れない

いずれにしても野党は政権を担えるような大きな器になることだな。その点では自民党を見習うべきだよ。党内で派閥があったり利権でせめぎあったりしてても、選挙で勝って政権を取るためには小さく別れず、主義主張をいったん横に置いて大きく固まることを知ってる。

公明党だってそうだよ。与党に居続けるために色んな矛盾を抱えてるよ。例えば沖縄の辺野古基地なんか、地元沖縄の党本部は反対、党首である山口那津男さんの党本部では賛成。与党であるためにはナンデモアリなんだから。

政権を取るってそういうことを避けられないんだよ。よく言えば柔軟、わるく言えば節操なし。清濁併せ呑んで大きな塊になるチカラがないとダメなんだ。

そんなことを考えてるとさ、江戸時代の徳川幕府ってのがいかに凄かったかしみじみ思うね。敵味方別れて関ケ原や大坂の陣があって、そこから譜代だ外様だって振り分けながらひとつにまとめて、15代まで続いちゃうんだからね。

あらためて野党は、いかにして与党が嫌がることが出来るかだな。新たな立憲民主党は共産党も含めての選挙協力は絶対で、全選挙区で与野党の一騎打ちを見せてほしいよ。もっともっと大きくなっていかないと選挙で菅さんに大負けするよ。

とにかく与野党が伯仲してくれないとな。与党が強すぎると政権や官邸が何でもゴリ押ししちゃう。コロナ対策でマスク2枚配るとか、バカバカしいことに税金と役人を浪費することになっちゃう。ああいうのはうんざりなんだよ。

俺が望むのは、正直者がバカを見ない社会だ。正直であることで泣きを見るようなバカげた社会はゴメンだよ。そのためにも野党がしっかり大きく固まって、与野党で天下分け目の関ケ原となるような選挙になってほしいね。

(取材構成:松田健次)