菅氏は安倍総理の絶賛に21% 石破氏は自らの信条に42% 3候補者の演説を分析すると… - BLOGOS編集部

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※この記事は2020年09月08日にBLOGOSで公開されたものです

安倍晋三首相の後任を決める自民党総裁選が告示された8日、立候補者が自身の考えを述べる「所信発表演説会」が開かれ、石破茂元幹事長(63)、菅義偉官房長官(71)、岸田文雄政調会長(63)=届け出順=の3氏が登壇した。それぞれ20分ほどの演説内容を分析すると、安倍政権の継承への賛否や新型コロナウイルスへの対応、さらには憲法改正の是非など、立候補者のカラーが浮かび上がった。

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第2次安倍政権で幹事長を務めた菅氏、政調会長の岸田氏はそれぞれ21%、12%もの時間を割いて、アベノミクスなどを安倍政権の実績としてPRした一方、政権とは距離を置き続けた石破氏は直接的な評価は避けた。

また、新型コロナ対策などには具体的な政策が打ち出されたものの、来年度の開催が予定される東京五輪・パラリンピックの方針や、発生から10年を迎える東京電力福島第1原発事故の対応などについてはほとんど言及されなかった。

20分強の講演 石破氏は42%を自身の信条に

分析対象は、8日の所見発表演説会での3氏の発言内容について、テーマごとに費やした時間を独自に測った上で割合を出した(小数点以下は四捨五入)。発言時間は石破氏が20分20秒、菅氏が18分45秒、岸田氏が21分6秒だった。

最初に登壇した石破氏は全体の42%の時間を<政治家としての信条や実績>に割いた。軍事に精通したイメージとは異なる平和への思いを語りかけた。

石破氏は、「時代認識について申し上げます」と断った上で、1914年からの第一次世界大戦や、世界恐慌、45年に終戦を迎える第二次世界大戦を挙げ、「我々は、戦争を絶対に起こしてはならない」と強調。

さらに、軍部を中心に戦争へと突き進んでしまった戦前を振り返り、「個の利益を全体の利益に優先した時、国は悲劇の道を歩む。そのようなことを、決して繰り返してはならない」と呼び掛けるなど、非戦への思いを示した。

菅氏は地方、岸田氏は国民の声を重視

続く菅氏は、<政治家としての信条や実績>に29%を費やした。自身の生涯を振り返りつつ地方活性化への思いに触れ、さらに、政治家としての実績もPRした。

町工場で2年働いてから大学に進学したことや、38歳で横浜市議選に初当選して政治家としての道を歩み始めたことを紹介。「市民の声に応えていくには地方分権を進めていかなければならない。そうした思いで国政を目指した」と47歳での国政転身への思いを振り返った。

自らの目指す社会像については、自らのキャッチフレーズとなりつつある“自助・共助・公助”に加え、“絆”の言葉を用いた。

最後に登壇した岸田氏は、具体的な政策の紹介に時間を割き、<政治家としての信条や実績>は17%と、他の2人より少なかった。

岸田氏は、自民党が民主党(当時)に大敗した第45回衆院選(2009年)を振り返り、自民党が国民の声に直接向き合う姿勢に転換したと指摘。「さまざまな悩みが、声が日本中にあふれています」と語って、国民の声を政治に反映させる重要性を説いた。

また、大学受験で三回不合格となったことなど自らの失敗エピソードを明かし、「チームに参加する、協力してくれる人の心がわかるようになった」と政治家としての心構えを語った。

菅、岸田氏は安倍政権を高く評価 石破氏は言及せず

3氏のスタンスの違いが最も明確に浮かび上がったのが、7年8ヶ月に及んだ第2次安倍政権への評価だ。政権批判をもいとわない石破氏は今回の演説では直接的に評価を下さなかった一方、政権幹部として安倍首相を補佐した菅、岸田の両氏は、十分な時間を割いて安倍政権の実績をPRした。

菅氏は演説の冒頭、「安倍晋三総裁に対し、この場をお借りし心からの敬意を表すると同時に、その卓越した指導力と判断力にあらためて最大限の賛辞を送る」と述べた。さらに、コロナ感染や災害による犠牲者を見舞う言葉に続いて、再び安倍政権下での内閣官房長官としての職を振り返り、「安倍総理が進めてきた取り組みをしっかり継承し、さらに前に進めたい」と安倍政権を継承する考えを明確に示した。

菅氏の場合、安倍政権の評価や継承に関する発言は全体の5分の1を占めた。

岸田氏もスタンスは菅氏と同様だ。冒頭の「卓越した指導力と判断力にあらためて最大限の賛辞」との文言は菅氏と完全に重複したほか、「内閣総理大臣として7年8ヶ月にわたって重責を担われ、今日の礎を築いた」と評した。さらに、演説中盤にはイギリスの経済誌の評価を引用し、「数々の輝かしいレガシーを残された」と絶賛。安倍政権の方針を継承する考えを見せた。

菅氏も改憲への意欲 石破氏は想定外の5%のみ

<憲法改正・安全保障>については、石破、菅の両氏が明確に考えを示した。

得意ジャンルともいえる石破氏だが、割いた時間は5%。2012年に討議決定した党憲法改正草案について「もう一度みんなで読もうではありませんか」と呼び掛けた上で、最初に政党の役割を憲法に明記する必要性を指摘した。

続けて、自衛隊について「国の独立を守るためのもの」と明言した上で、「最強の組織であればこそ、司法・立法・行政による厳格な統制は必要」と持論を展開。「憲法改正は国民が決めるものである以上、党は先頭にたって議論を深め、一刻も早く憲法改正に取り組むべき」と会見を打ち出した。

菅氏も改憲への姿勢は石破氏と同様で、重視している<地方活性化>に迫る8%を費やした。改憲について「自民党立党以来の党是」と説明した上で、「与野党の枠を超えて、建設的な議論を行っていくべき」と述べた。

岸田氏は日米関係、日中関係にとどまらず、「マルチ外交が大事になってくる」など外交政策を発表したものの、改憲への見解は示さなかった。

3氏とも地方活性化に強い思い いずれも10%弱

<地方活性化>では、各候補者ともに10%弱の時間を割き、重要視している姿勢をのぞかせた。

石破氏は“東京一極集中”の弊害を繰り返し強調した。「(東京は)食料を作らず、エネルギーを作らず、出生率は全国最低。そこに、人が集まる、モノが集まる、金が集まる。そういう日本国は持続可能なものなのですか」と語気を強めて疑問を投げかけた。

その上で、「東京の集中の利益を、限界を超えたとするならば、首都直下型地震、少子高齢化、東京の持っている負担をいかにして減らすか、地方にいかにして雇用と所得をもたらすか」と具体策を示しながら、「地方創生に私はもう一度全身全霊で取り組み、新しい日本を作る」と誓った。

菅氏は<政治家としての信条や実績>で政治家としての初心が地方にあることを訴えたのに加え、ふるさと納税を導入したエピソードを「官僚の大反対を押し切って成立させた」などと紹介。「地方を大切にしたい、日本のすべての地方を元気にしたいという気持ちが脈々と流れている」とも語った。

被災地の復興支援にもわずかに言及したほか、インバウンドの誘致や農産物の輸出促進に力を入れる考えも示した。

岸田氏は5%を充てた<デジタル化戦略>と並行して、<地方活性化>に言及した。デジタル化やリモート化に伴って「東京や大阪にいなくても働くことができ、情報が得られる」と現在の状況を説明し、「地方にとってのチャンスがめぐってきた」との表現で、地方活性化への思いを伝えた。

3氏の演説 振り返ってみると

今回の3氏の演説を振り返ると、石破氏は<政治家としての信条・実績>に42%と半分近くの時間を費やした点が際立っている。第一次世界大戦からの史実を紹介した上で、軍事に精通した印象とは裏腹の非戦の思いを強調して伝えた。

自身の地盤である鳥取県でも参院選で採用されている「合区」の問題に点に踏み込むなど<地方活性化>への思いもアピールした。他にも、自身の政治家としての理念への共感を求めつつ、各テーマにおいても具体的な政策を紹介していた。

最有力と目される菅氏は18分45秒と演説時間は最も少なかったが、自身の生い立ちや地方への思いを丁寧に語って、“庶民派”をアピール。<新型コロナ対策>にも14%と十分な時間を割いたのに加え、<安倍政権への評価>も21%と、安倍総理の後継者としての存在感を示した。

目立ったのは<政治家としての信条・実績>のうち、実績の紹介だ。東京・赤坂の迎賓館の開放日数を増やしたことや、災害時のダム活用などをPR。他にも携帯電話の値下げを進める考えを示し、「現場の声に耳を傾け、何が当たり前なのか、見極めて判断をし、そして大胆に実行する。私の信念は今後も揺らがない」との言葉は説得力を与えた。

岸田氏は、安倍政権への高評価を繰り返したのに加え、<経済政策>や<新型コロナ対策>などで、具体的な政策の紹介に時間を割いた印象だ。他の2人と違って、<政治家としての信条・実績>より、格差の是正や最低賃金の引き上げといった<経済政策>の紹介が上回った。

<デジタル化戦略>に言及した点は、「デジタル庁」新設を訴えた菅氏と共通だが、民間にもデジタル化を進める考えや「データ庁」の創設についても言及した。演説の終盤では、「保守」との言葉を3回繰り返して政治スタンスを主張したのが印象的な一方、「野球でもさまざまな失敗に出会った」など身近さもアピールした。