「行政には温度差感じる」ショークラブ・バーレスク東京に聞く、″夜の街″の苦しい現状 - 村上 隆則

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※この記事は2020年09月02日にBLOGOSで公開されたものです

8月3日、新型コロナ感染者数の増加にともない、東京都は酒類を提供する飲食店を22時閉店とするように要請し、都内の繁華街の灯はふたたび消えた。以前は多くのビジネスマンや観光客で毎夜賑わった東京・六本木も例外ではなく、現在も人影まばらな日々が続いている。

この街で2013年にオープンしたエンターテイメントショークラブ「バーレスク東京」は、きらびやかな衣装に身を包んだ女性ダンサーたちのショーが見られることで脚光を浴びた。ショークラブは新型コロナ下でどのような対策を取っているのか、現在の状況を取材した。

新型コロナの影響で休業に 家賃1500万円など固定費がのしかかる

新型コロナの感染が拡大しはじめた3月28日、バーレスク東京は政府による緊急事態宣言が発出される前に休業を決断した。当時の状況について同店プロデューサーの内藤良太氏はこう話す。

「休業中は経営的には厳しい状況でした。歓楽街のなかでも、バーレスク東京は固定費が高く、家賃だけで約1500万円。それに加えてスタッフと、130人いるキャストの生活をどう守るかが課題。ひとまず、当面は影響が続くと覚悟して、スタッフ総動員で対策をはじめました」

当時の状況を、在籍するキャストたちはどのように見ていたのだろうか。7年間この店で働くキャストのLunaさんは、「お店が突然休業になって、踊る場所がなかったので、家で何をすればいいのかわからず、最初の頃は絶望的でした」という。

経営的な課題だけでなく、店はエンターテインメントの世界に飛び込んだキャストたちにとっても自分自身を表現するための大切な場所だった。

「バーレスクに入ったのは歌が歌いたかったからなんです。新型コロナで店が休業になって、思いっきり歌える場所がなくなった。自分にとってこの場所がどれだけ大事だったか、自粛期間中にあらためて気付かされました(キャスト・ふたばさん)」

休業期間に入って間もなく、店では見通しが立たないなかでの試行錯誤がはじまった。

休業中はライブ配信とグッズ販売に注力 感染対策を充実させ営業再開

4月、店は少しでもキャストの収入の足しにすることを考えてECサイトを制作、チェキをはじめとした各キャストのグッズ販売をはじめた。あわせて、Instagramを利用したライブ配信もスタート。5月には、店内に複数のカメラを導入し、ライブ配信サービス「ZAIKO」を利用した無観客でのライブ配信をスタートした。この間、キャストもSNSへの投稿を活発化することで、収益化の後押しをしたそうだ。

バーレスク東京が店をふたたび開けたのは6月5日。席数を制限する形で営業を再開した。店舗の入り口には客の全身に消毒液を噴霧するゲートを設置。エントランスではマスクを着用したスタッフが手指の消毒と検温をおこなうなど、感染対策にも力を入れている。

ショーの内容も、新型コロナの影響を受け以前とは変わっている。いままでは客をステージに上げたり、客からの歓声をショーに取り入れたりしていたが、そうした演出はほぼなくなった。

新型コロナ前のバーレスク東京は、飲み会後のサラリーマンなどが主な客だったが、オンライン配信の反響もあり、「地方からもたくさんのお客様が来てくれている(キャスト・KAZUKIさん)」など、新たな変化が起きているという。キャスト側も、客前でショーができるようになり、「お客様の目の前で踊れるようになったことがなにより嬉しい(キャスト・MANAさん)」と、喜びを感じているようだ。

「行政には温度差感じる」22時以降も営業続けるワケ

現在、バーレスク東京は22時で閉店とはせず、それ以降も営業を続けている。その理由について聞くと、東京都の要請には従っていない形になるが…と、内藤氏はこう答えた。

「22時からがこの仕事のゴールデンタイム。これまでの主要なお客さんだったサラリーマンなどはほぼゼロで、7月だけでは売上も回復していない。そんななか22時で閉めると、経営的にはとても耐えられない。ワイドショーなどでは『夜の街』など、特定の業種を名指しで批判しているが、その影響をわかっているのか」

内藤氏は続ける。

「感染対策は、正直なところ、やりすぎなくらいやっています。経費はかさむが、お客さんに安全だと感じてもらうためには必要なこと。この先、withコロナという状況が続くなかで、少しでもお客さんに戻ってきてもらいたいし、オンラインを通じて新たなお客さんにリーチしていけるよう努力していくつもりです」

行政も支援策は打ち出しているが、その内容にも疑問を感じているという。

「行政にはやはり温度差を感じます。現状の金銭的な支援だけでは難しいのはわかりきっているのだから、営業ができるような方法も模索して欲しい。1ヶ月の要請とはいうが、飲食店をやっている人間には1週間が命取りになる。六本木も、どんどん店が減っています。私たちがいまどんな気持ちでやっているか。どんな工夫をしているか、政治家のみなさんにも一度見に来て欲しい」

厳しい状況にあるなか、内藤氏が痛感したのは、スタッフやキャストと作り上げてきたこの空間の価値だった。

「歌や音楽、ダンスが好きで集まってきている私たちにとって、ここは夢のような場所。それがコロナによって休業したことで、突然奪われてしまったような気持ちになったんです。難しい状況にあるのはわかっていますが、どうにかして守っていきたいと思っています」