※この記事は2020年09月02日にBLOGOSで公開されたものです

プロ野球は観てるかい? テレビ中継もBSやCSがメインで、地上波ではたまにしか放送しないけど、先日(8/20)、日本テレビの「巨人×阪神」戦で変わったことをしてたな。「野球脳サバイバルナイター」とか言って、中継しながら解説者やゲストが一打席ごとにプレー結果を予想して、誰が一番当たるか競い合うんだ。

予想が当たった時のポイントが決まっていて、

・アウト    1P
・フォアボール 2P
・犠打犠飛   3P
・ヒット    4P
・ホームラン 10P

出演してたのが、山本浩二さん、中畑清さん、江川卓さん、高橋由伸さん、赤星憲広さん、あとアナウンサーの羽鳥さんと、クイズ王の伊沢さんって人。回が進むごとにポイントが少ない人が脱落して最終的に一番になったのは高橋由伸さんだった。

野球をじっくりと観たい人には余計な企画なんだろうけど、次のプレーがどうなるかって野次馬根性がつられてね、こっちも「おっ、当たった、ハズれた」って妙に面白かったよ。小刻みな野球賭博みたいなんだ。こりゃ、くれぐれもウラで金賭けないように注意しないとな。「ヒットに1000円」なんてさ、賭けちゃダメだよ(笑)。

少年の頃楽しんだ「野球くじ」の思い出

サッカーは勝敗を当てるtotoが定着してるけど、プロ野球は長い歴史の中で裏社会の野球賭博があったり、選手に八百長を持ち掛けた「黒い霧事件」のようなトラウマもあって、勝敗を自分で予想するタイプの「くじ」は導入が難しいよ。

でも、球界全体の振興のために「野球くじ」を導入しようって話は数年前から出てるんだよな。検討されているのはコンピューターが自動で結果を予想した券を買うシステムらしいよ。要するに宝くじと一緒だな。

俺ね、野球くじは大賛成だよ。試合を観ながら運も楽しむ、大いに結構。そもそも野球くじって俺がガキの頃にあったんだ。実際に球場で買ったよ。中学生の時分だから昭和23年(1948年)あたりだな。

俺は浅草に住んでたから、三ノ輪から都電に乗って御徒町で乗り換えて、春日町で降りて後楽園球場へ行くんだ。当時の都電には路線ごとに番号がついてて、春日町へ行くのは16番なの。これが赤バットの川上、川上哲治選手の背番号と同じだから嬉しくってね。「へへへ、16番は川上だぜ!」ってなもんでね。気持ちがウキウキとなるんだよ。

ゲタばきで後楽園球場の階段をカランコロンと駆け上がって、外野席で巨人の試合を観るのがとびっきりの楽しみだった。でね、当時の日記を今も持っててさ、そこにも書いてあるんだ。「野球くじを買ったらきょうは500円もうかった」って。俺はジャイアンツのファンだから、たぶん巨人が勝つ側のくじを買ったんだろうな。あれ? 当時の野球くじってどんな仕組みだったかな? ちょっと編集部で調べてみてよ。

編集部 ええとですね、その頃の「野球くじ」は・・・プロ野球の試合を対象に日本勧業銀行が発売した予想投票くじの一種だそうです。戦後まもなく1946年に開始され1950年ごろまで続きました。対象となる試合の「勝利チーム(先攻をA、後攻をB)」と「得点合計の下一桁」の数字を予想します。例えば巨人(A)4‐2阪神(B)という試合だったら、「A‐6」が当選となります。

おお、そうだったか。中々よく出来たルールじゃないか。このくじで500円が当たったんだな。当時の中学生には大金だよ。その金で帳面や鉛筆買ったんだ。勉強するふりしてまた野球観にいくためにな(笑)。

古い伝統だけが正しいということはない

話は戻るけど、日本テレビが放送してた解説者がプレーを予想しあう企画は、視聴者には賛否両論だったようだな。でもさ、普通に「巨人×阪神」をテレビで流しても今は視聴率も伸びないし、視聴率が出ないと放送機会は減っていくし、局側も必死なわけだ。あの手この手で視聴者を拡大しようってんで新しいことを試してるわけだ。そういうチャレンジに賛否両論は付きものだよ。

そうそう、こないだ(8/6)原監督が11点差のついた負け試合の終盤で、野手の増田大輝選手を投手に起用して賛否両論になったよな。原監督からしたら控え投手を少しでも温存したいっていう采配だった。それに対して、いくら負け試合でも控え投手を使わないとは何ごとだ、伝統あるジャイアンツがそういう采配をするとはけしからん・・・って声がOBの伊原春樹さんや堀内恒夫さんから上がった。一方で、巨人からメジャーに行った上原さんやカブスで活躍するダルビッシュさんは原監督の采配を支持してた。

まあ、巨人の伝統って話もわからなくはないけど、俺は原監督の肩を持つよ。今年はコロナで試合日程も大幅に変更されて、試合数も120試合か。客席もあんな感じで、何から何までこれまでと違う非常時でのペナントレースだ。心身の調整だってあるし、選手のやりくりは大変なんだろうよ。負け試合をいかに有効に戦うかも監督の手腕なんだから。

それにその試合、増田選手は投手でアウトを二つとって、その回を押さえちゃったんだろ。だいたいさ、プロに入ってくる選手って多くが中学高校時代にエースで四番なんだから、投手経験のない素人をいきなり起用したわけじゃないんだよ。

なんだ編集部? 増田選手は高校時代は投手だったと資料に出てる? なっ、そうだろ。それにファンからしたら、11点差のゲームであっても、増田選手がマウンドに上がるという珍しいシーンが観られたわけだ。そういう変わった選手起用って中々観られないもんだよ。ファンは「俺、あの試合観たんだよ」って自慢にもなるよ。

これ、寿司屋に行ったら途中でシャリが切れちゃって、クロワッサンにイクラ乗せて出てきたようなもんか?(笑)。寿司にアボカド巻いたカリフォルニアロールなんてのも、寿司の伝統がない海外で生まれたんだよな。古い伝統だけが正しいってことはないんだよ。

俺の盟友だった立川談志はまだ20代の頃に、落語家の先輩たちが伝統を守るという固定観念で、古い落語を教わったままやり続けてる姿を見て、それは落語ファンには通じるけど多くの大衆に通じなくなっていくことになると憂いたんだ。もっと現代の大衆に通用するものに工夫しないとダメだと。それを「伝統を現代に」ってフレーズにして、談志はことあるごとに口にしてたよ。

そんな談志だけど、俺が「カレーパンが好きだ」って話になったとき、談志が「あんなもんよく食えるな」って言ったんだ。カレーパンに文句つけるってのがスゴイよね(苦笑)。

談志はカレーが好きで自分でもよく作ってたし、インドにも行ってカレー食ってたし、カレー屋をやってるインド人の店主からも「師匠、師匠」ってやたら慕われてたよ。だけどカレーにはライスが一番、カレーライスが一番だって頭なんだな。カレーパンを邪道のように見下すような言い方だったよ。

でも、カレーパンにはカレーパンならではの美味さがあるわけだ。俺からすればカレーライスが伝統なら、カレーパンは現代。まさにカレーパンこそ「伝統を現代に」って話の具体例だよ。なのに、談志はカレーに関してかたくなだったなぁ。カレーだけに辛口だったってことかな?

(取材構成:松田健次)