【牛丼チェーン3社は出店戦略で明暗】コロナ禍の好調企業にみるニューノーマル・ビジネスへのヒント - 大関暁夫

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※この記事は2020年09月01日にBLOGOSで公開されたものです

新型コロナウイルスの感染拡大から約半年が過ぎました。企業業績への影響については、各社の3月決算数字にも若干うかがえていましたが、ここにきていよいよ政府の緊急事態宣言を受けた自粛期間を丸々飲み込んだ4~6月の数字が出そろってきました。

多くの企業が苦戦を強いられる中、意外な好業績先もいくつかみてとれます。そんな企業を中心に、ウイズコロナを前提としたニューノーマル・ビジネスのヒントを探ってみます。

ビジネスのオンライン化でモノタロウが好調

ウイズコロナ対応におけるニューノーマルの代表格と言えるのが、テレワーク化の浸透です。目に見える影響は、オフィスに通勤する回数が減る、オンラインワークが増えるなどでしょうか。

オフィスに行く回数が減ることで、対面面談による商談が減りビジネスがオンラインで進む比率が高くなりました。これまでBtoCで先行したECビジネスの世界に、BtoB EC時代到来の兆しが見えてきました。

BtoB ECサイトを運営するモノタロウが好調です。同社の1~6月決算では、経済界の活動が低調だったにもかかわらず、売上で20%増、利益は23%増で過去最高を記録しています。

何より注目は、登録会員数がわずか半年間で72万口座も増加したことです。これは年間目標の8割を半期で達成したことになり、大半は4~6月の3か月間の増加です。

企業規模の大小を問わず、ネットでのBtoB購買がニューノーマル化しつつあるわけであり、BtoBビジネスを生業とする企業は早期のECルート確立が今後のビジネス進展を左右すると言えるかもしれません。

家電量販店が好調のなかビックカメラが振るわない理由

自宅でのオンラインワークが増えると何が起きるのかと言えば、行き着く先は究極の職住近接であり、自宅時間が増えることによる新たな消費の創造につながります。

分かりやすいのは、PC販売や家電製品の売り上げ増です。PCはテレワークの広がりの影響と言えますが、他の家電製品の売上伸展は家時間の増加により、その時間をより快適に過ごしたいというニーズが形になって表れたと言えます。

エアコン、大型テレビ、冷蔵庫などの大型家電の売上が増加し、家電量販店ヤマダ電機、ケーズデンキ、エディオン、ノジマの大手4社は、4~6月で早くも黒字転換し前年比でも軒並み増収増益となっています。

そんな中で注目したいのは、ビックカメラが3~5月の第3四半期で減収減益であることです。好調な上記4社との違いは、核店舗の立地です。

ビックカメラの店舗配置が都市部中心であるのに対して、4社は郊外店舗が中心。自粛生活で都心部への移動が減ったことで、自宅近くの郊外店舗に感染予防の観点から安全性の高い自家用車で乗り付け買い物をするというのも、もうひとつのニューノーマルになりつつあると言えるでしょう。

ビックカメラを含め大手各社はどこも近年EC販売にも力を入れていますが、大型家電については依然としてECよりもリアル購買優位という傾向が強いということもここから分かります。

牛丼チェーン3社も出店地域の違いで明暗

郊外店舗が優勢なのは、家電業界だけではありません。全般的に苦戦が強いられている外食業界でも、その傾向の一端がうかがえます。

店舗内飲食が依然として低調傾向の中、今や外食界の国民食とも言われその業績推移が注目される牛丼チェーン。吉野家、松屋、ゼンショー(すき家)、大手3社の第1四半期の決算が出そろい、3社とも赤字決算にはなったものの、中身には濃淡が出ました。

吉野家は、年間売上はで前年比約20%減で損益も赤字の見通し、松屋も今期中の回復は難しいとして赤字前提で通期の業績予想を未定としたのに対して、ゼンショーは赤字幅が小さく、通期では売上でほぼ前年並みにまで回復し、損益でも黒字を確保できるとしています。

この違いはゼンショー運営のすき家が他の2社に比べて、店舗展開面でロードサイド立地が多いという事情が貢献しているようです。

「コロナの恩恵」で窮地を脱したメルカリ、ZOZO、DeNA

自宅時間が増えると今の時代やはりネット接続時間が増えるようで。コロナ前に拙稿でも取り上げている、苦境に陥っていた一部企業には、「恵みのコロナ」となったようです。

例えば、上場来赤字続きのフリマアプリのメルカリ。自粛期間以降、巣ごもり需要の高まりで、4~6月の第4四半期で上場後初の営業黒字を計上し、6月決算通期ではまだ赤字が残るものの売上が前期比48%増となり、一転次期での黒字化が見えてきました。

また昨秋、日の出の勢いから一転した業績頭打ちから、ソフトバンクグループのZホールディングスに売却された衣料通販サイトZOZOTOWNは、純利益で前期比47%増を計上。3期ぶりに最高益を更新し再び成長軌道に戻ったといえる好調さをみせています。

メルカリ、ZOZOは買い物系ですが、買い物系以上に「恵みのコロナ」となっているのがゲーム系です。この恩恵を最大限に受けているのがDeNAでしょう。

3月決算では売上の3分の2を占めるゲーム事業が振るわず上場来初の赤字に転落し、先行きに不安を抱えていました。

しかし、4月以降スマホゲームが絶好調となり、状況は一変。4~6月の純利益が前年同期比約4倍という大躍進を遂げています。

同社第二の柱であるベイスターズ球団を軸としたスポーツ事業が、コロナの影響でプロ野球開幕が6月にずれ込みかつ入場制限付きでの開催となった大きなマイナスがありながらのこの躍進からは、ゲーム事業の絶好調ぶりがうかがわれます。

ゲーム系に関してはソニーの4~6月決算でも、オンライン対戦会員が340万人も増えるなどして、純利益増加に大きく寄与したことが報じられています。

健康意識の高まりで健康志向食品が好調

もうひとつ外食が軒並み苦戦する中で、好調企業目白押しなのが食品業界です。ポイントは2つ。

ひとつは自宅時間が増えるということから、在宅昼食としてのインスタント食品、自宅仕事の合間を埋める菓子類、夜の家飲み向けおつまみ類です。インスタント麺の日清食品は純利益昨年同期比2.1倍、米菓の亀田製菓が同2.2倍、おつまみのなとりは同78%増益、ポテトチップの湖池屋も同75%増(すべて4~6月)を計上しています。

そしてもうひとつは、コロナに勝てる日常的な健康づくりという観点から、健康志向食品が好調であるということ。

明治ホールディングス(明治乳業)は、オフィス街のコンビニ向け売上が大きく落ち込んだものの、免疫力を高める機能性ヨーグルトの伸びでカバーして、4~6月の営業利益は前年同期比12%増となっている点は注目に値します。

在宅時間の大幅増に着目したビジネスに勝機

冒頭の話に戻りますが、ウイズコロナへのビジネス対応によって一番目に見える変化は、テレワークの増加でしょう。

すなわち、ウイズコロナに伴うニューノーマル化として一番大きく変わるのは時間を使う場所の変化であり、その影響が早くも大きくビジネスを左右していると感じられるのです。

しかも、大手企業の多くがオフィス勤務とテレワークの併用をニューノーマルとしつつある今、この流れはもはや逆行しないと断言できます。

今さらですが、このテレワーク化の流れを改めて数字的におさえてみると、例えば週3日通勤という勤務状況がテレワークに振り替わるだけで、通勤時間を含めて一人当たり「1日10時間×3日=30時間」がオフィス時間から在宅時間に移行するわけです。

ここで重要なことは、このテレワークの進展と並行してジョブ型雇用の導入というものがセットで進行するであろうという点。

すなわちこの30時間は、ジョブ型雇用により仕事とプライベートの比率を変えられる30時間であるとも捉えられ、自己努力で仕事を効率化できるなら30時間に占めるプライベート時間の比率は高めることができるわけなのです。

ならば、在宅における仕事の効率化とプライベートタイムの充実を手助けすることが、自宅ワーカーたちから歓迎されるであろうことは想像に難くなく、ここが今後ニューノーマル・ビジネスの肝になるのではないかと思うのです。

現状の好調企業が、そのどこにヒットし、どこにまだ伸び代(しろ)があるのかを見極めていくことが、ウイズコロナの企業マネジメントにおけるニューノーマル・ビジネス構築のヒントになりそうです。