「夜の街」でひとくくりにするのは言葉として雑 - 『ホスト万葉集』対談:ホストクラブ経営者・手塚マキ×歌人・俵万智 - BLOGOS編集部
※この記事は2020年08月29日にBLOGOSで公開されたものです
コロナ禍で大打撃を受けた新宿・歌舞伎町。そこに生きるホストたちの思いを載せた短歌を集めた歌集『ホスト万葉集』(短歌研究社、講談社)が発売された。
発起人である「スマッパ!グループ」の手塚マキ会長と選者である歌人の俵万智さんが同書について対談。前半ではホストたちがハマった「短歌」の魅力を語ってもらった。
後半はコロナ禍で「夜の街」と記号化されてしまった現在の歌舞伎町に生きるホストたちの思いがテーマ。二人は「ステレオタイプな言葉ではひとくくりにできない“人間”がここにいる」と語る。
手塚マキ会長 × 俵万智さん 対談ダイジェスト動画
31文字だとなぜかホストたちの多様性が見えてくる
俵:世の中で歌人と呼ばれる人も、短歌だけを詠んで生きているわけではなく、それぞれの生活と並行して歌をつくっています。そういう意味では、ホストとして生きていることと並行して歌がある。今回の歌集ではそれがすごく感じられました。
手塚:切り取り方が人ぞれぞれで面白いですよね。同じ景色見てても、全然違うものを感じるわけですから。
俵:ホストという記号ではくくり切れない多様性がある。それが、この本で伝わったらいいなと思います。ステレオタイプなイメージで理解しようっていうんじゃなくて。
手塚:コロナ禍のこのタイミングでこの本が出た大きな意味のひとつですね。「ホスト」や「夜の街」みたいにくくられるけれど、みんな一人一人顔があるんだということを、上手に伝えることができない人間たちが多いのは事実。それが31文字の歌だとなぜか顔が見えてくる。それが短歌の力だったんじゃないかなと僕は思います。
コロナ禍の歌舞伎町を詠んだ『ホスト万葉集』の最終章
俵:最後の章「だけど、I♡歌舞伎町」はコロナ禍でZoomを使った歌会で詠まれた歌を集めた章ですが、やっぱりみんなの実感がこもっていて、すごくリアルでいいと思います。例えば看板の歌なんかとても好きでした。
俵:あと、私が歌会で点を入れた歌では
という歌。
あのにぎやかな歌舞伎町の人が減っている感じを、「歩きやすい」って詠んでいる。すごく的確な捉え方だなと思って。
手塚:収録されていないものでは、カラスがいないことを詠んだ歌もあって、面白いなと思いました。結構、みんなちゃんとコロナ禍での歌舞伎町の風景を見てましたよね。
思わず「あっ」 コロナ禍でホストたちが詠んだ普遍性
手塚:例えばずっと歌会に参加している朋夜(ともや/APiTS所属)。普段はすごくぼんやりしている子なのに、歌会には必ずちゃんと真面目に参加して、どんどん上手くなっている気がするんですよね。
俵:朋夜くんはすごく上手くなってる。自粛期間中の歌で
と詠んでいましたね。これなんかはすごい普遍性があって。ステイホームしてるのに、仕事や生活のルーティンの時間になると「あっ」て何かなる感じ。これはホストではなくてもこの時期にみんなが感じたような感覚だと思うんですよね。
あとは、
この「すき焼きつつきつつ」は句またがり(※)なんですが、いつのまにか習得しててすごい。しかもそのビールがコロナだというちょっとユーモアも漂わせつつ。
※句またがり:ひとつの語が二つの句の切れ目をまたぐもの
手塚:コロナビールを使うところが面白いですよね。こういうどんどん上手くなっている子がいると僕はやっぱりうれしいですね。
俵:だから、何回も歌会に出てトレーニングをしてると、例えばみんなですき焼きを食べながらコロナビールを飲んでるときに、歌会の場じゃなくても、ぱっと心が立ち止まれるようになるんですよね。
手塚:なるほど。
俵:その瞬間が身に付いていったら、もうどんどん雪だるま式に言葉や技術が増えていくと思います。
「お客様のために」 前向きな存在であり続けるという使命感
俵:他にはゴジラ前がすごく閑散としてる歌とか。
自粛期間中ってつらい日々だったと思うんだけど、みんなユーモアを忘れずに詠んでることがすごく良いことだと思います。
手塚:みんな元気ですよね。あんまり落ち込んでなかった(笑)。
俵:へこんでもいられないっていうかね。
手塚:前向きですね。前向きな存在であり続けるという使命感もあるかもしれない。暗いやつは怒られるみたいな。
毎月5日が売り上げランキング開示で、グループ全員で集まってナンバー10が発表された後、一言ずつ話すというのをやっているんです。でも4月5日の発表時はもう集まれなかった。だからYouTubeでしゃべらせたんですけど、そのときに一人一人が意外にこの仕事に対してのプライドを持ってることが分かったというか。
「こんな今だからこそ、お客様にちゃんと寄り添え」みたいなことを売れっ子たちがみんな言うんです。それは物理的に寄り添うんじゃなくて、精神的に不安を感じているお客さんを支えるのがホストなんだからと。だから、自分が不安だと言ってるやつは全然いなかった。
僕はみんなのことを心配していたんですけど、みんなは自分のことよりも、お客さんたちのことを考えてるというのはすごく感動しました。
俵:この自粛期間中も「自分磨きの時間だ」とマキさんがおっしゃって、みんなで歌会を続けてやってるんですよね。だから、この時代の証言者になっていくような歌も結構生まれました。
ホストの宿命 お金の重さを抱えて詠む歌に期待
手塚:歌会は絶対に続けましょう。このコロナ禍もそうだし、ホストは売り上げが上がって、売れれば売れるほどやっぱり悩むんです。お金が入ってくるかもしれないですけど、お客さんに使っていただければ使っていただけるだけ、金の重みが増えていく。
結構、重い気持ちを抱えている子もいるので、ひとつのホストの壁ではあるんですが、そこで何を詠むのか楽しみでもあります。
俵:その重さはやっぱりお金の重さであり、思いの重さであるわけですよね。
手塚:そうですね。
五音・七音の魔のリズムで伝える核心の言葉
手塚:仮に1人1時間ずつインタビューしても、多分大して何も見えてこないと思います。だけど、短歌だとこんなことを考えているんだなというのが伝わってきますよね。
俵:不思議ですよね。ひとつには短いということがあると思います。何文字でもよければ、ぐるぐるぐるぐる回って本質に近づけないこともありますが、31文字しかないとなれば、いきなり核心の言葉を探すしかない。探させちゃうという力が短歌にはあると思うんですよ。いろんな余計なものをそぎ落とさせる力も与えてくれるっていうか。それは大きいと思う。
手塚:ちょうどいいですね。
俵:あとは五音・七音という、この魔物のようなリズム。これに乗せると自分の何でもない言葉が輝き出すという、そういう喜びがありますよね。
手塚:五七五だけだったら、例えば標語をつくるときなんかで、触れる機会が結構あるじゃないですか。でも、その後に七七を付ける機会ってあまりない。僕も1回もつくったことなかったですし。やってみないとやっぱり分からないというのは不思議です。
俵:俳句との違いは季語に加えて、七七の部分ですよね。そこに思いを乗せられるスペースがある。直接乗せることができるから、思いを形にしたい人には向いてると思います。
手塚:俵さんは俳句をつくる機会というのはあるんですか。
俵:誘われて何回か句会に出たことはありますけど、すごい下手だった。ビリとか。やっぱり、思いを乗せたくなるんですよね。だからすごい欲求不満になっちゃうし、向いてないな(笑)。
手塚:僕のイメージだと、俳句は心の1枚の景色をどれだけ短い言葉で描写するというか、風景を想像させるというか。風景画をちゃんと描くのが上手な人みたいなイメージです。だからすごく難しそうだと思っていました。短歌の場合はもう少し自由度が高いという。
俵:そうですね。あと、大きな違いは、短歌は相聞(そうもん)、恋愛の歌がど真ん中のテーマとして王道ですが、俳句の場合は恋の句というジャンルはありますが、メインではありません。それはとても象徴的なことだと思います。
手塚:だから、ホストたちは本当に短歌に向いてたわけですね。
俵:絶対に向いていたと思います。
記号ではひとくくりにできない一人一人の人間の顔が歌集のなかにはある
手塚:今回、書籍化するにあたって、もっと直すのかなと思ってたんですよ。でも、そんなになかったですね。
俵:ちょっと、「てにをは」を整えるのを了解取って直すぐらいかな。
粗削りであっても、その人のビビットな言葉のほうが、結局、力を持つ。私たちがきれいに整えちゃっても、迫力がそがれるというところはあると思います。
『ホスト万葉集』は純粋な歌集としてまず楽しめる。そして例えばホストクラブに行ったことはないけれども、どんな世界か覗いてみたいという人にはすごく良い入門書になると思う。
今の時代に即して言うと、「ホスト」とか「夜の街」ということで、記号としてひとくくりにするというのは、言葉としては雑だと思うんですよね。
じゃあ、そうじゃない、記号でひとくくりにできない一人一人の人間の顔がここにはあるよっていうことが、この歌集を通して伝わったらいいなと思います。
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応募方法
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- BLOGOS (@ld_blogos) 2020年8月29日
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応募受付期間
2020年8月29日(土)~9月2日(水)
当選者発表日 9月3日(木)
発表方法:応募受付終了後、厳正なる抽選を行い、発送先のご連絡(個人情報の安全な受け渡し)のため、運営スタッフから個別にご連絡をさせていただく形で発表とさせていただきます。当選者様にはBLOGOS編集部から9月3日中に、Twitterのダイレクトメッセージでご連絡させていただきます。