なぜ基地問題は沖縄だけが背負うのか…国民全体で議論が必要だ~玉城デニー沖縄県知事インタビュー - BLOGOS編集部
※この記事は2018年12月20日にBLOGOSで公開されたものです
翁長雄志前知事の死去に伴い9月30日に投開票された沖縄県知事選で、過去最多の39万6632票を獲得して当選した玉城デニー知事。BLOGOS編集部は、玉城知事の単独インタビューを行い、基地問題についての考えや経済政策、選挙戦で飛び交ったフェイクニュースといった幅広いテーマについて話を聞いた。【取材:島村優】
フェイクニュースが飛び交った県知事選挙
-県知事就任おめでとうございます。フェイクニュースが飛び交う選挙戦となりましたが、そうした情報について当事者としてどのように見ていましたか?
私も普段からFacebookやTwitterを見ていて、様々な意見があることは理解していますが、今回は選挙前から選挙期間中にいたるまでフェイクニュース、ヘイトスピーチがたくさん見られたなと思います。
聞いたところでは「玉城デニー」で検索すると8割がヘイトやフェイクニュースだったと。自分で検索してみても、これは違うだろうという情報が広く拡散されている状態で、そうしたことに対しては法的手段も取らせていただきました。
-フェイクニュースにはどういった対応が必要だと思いましたか?
今回の知事選では、地元2紙(琉球新報・沖縄タイムス)やファクトチェックを専門に行う団体が、様々なニュースをリアルタイムで検証し、多くのフェイクニュースを取り除いていました。
私の元にもその団体から確認が来て、こうしたことはとても重要だと思いましたね。私しか知らない事実は、私自身が伝えるしかありません。
起きていない、言っていないことを、さも実際にあったことのように言われ、それがなかったこととして証明できなければ、それはあったのと同じだ、ほらやっぱりあったじゃないか、というのがフェイクニュースの論理です。
-起きてないことを証明する必要があるんですね。
ただ実際には起きていない、言っていないことを証明することほど難しいことはないんです。そのため、今回の選挙戦では地元2紙やチェック団体が時間をかけて確認してくれたことはすごくありがたいと思っていました。公平で民主的な選挙を担保する上では、こういう作業は非常に重要になってくると思います。
-演説などの現場で、有権者がフェイクニュースに影響されていると感じることはありませんでしたか?
現場では渾身の力を込めて政策を訴えていましたから、その話を聞いた人たちには玉城デニーが伝えていることを受け取っていただいたと思います。
そこで相手候補やその支持者はこう言っている、それは違います、私はこういう風に考え、こういう風に行動しています、といったことは現場でも言う必要があります。
-自身の口でもフェイクニュースは否定すると。
様々な形で、どれがファクトで、どれがフェイクなのかを、沢山ある情報の中から見極めていただくことは非常に難しいかもしれません。それを当事者として言っていかないといけないというのは、これからの選挙運動ではもっと民主的な形、SNSなども利用した形にしないといけないのでは、ということは痛切に感じました。
-沖縄では選挙戦が激しいイメージがあります。選挙の度に、相手候補の支持者と自身の支持者との分断は広がっていくと感じますか?
いろいろな考えを持っている人がいる中で、全てが同じになることは難しいと思います。右側で活動している方、左側で活動する方、どのような思想信条も否定されるものではなく、私もそのうちのどれが良いか悪いかをいう立場にはありません。
ただ私が思っている思想信条の中から、できるだけ多くの方々に政策が届けられるよう県知事としてどういう役割を果たすのか、そういうことが求められていると思います。
-異なる意見を持つ人にも、自分の考えを伝えていくことが大切だということですね。
いろいろな意見がある中で、玉城デニーはこういう沖縄を進めていきたい、沖縄の姿を描いていきたい、ということをしっかりと伝え、そのためにはみなさんにこのような形で協力していただきたい、といったことを真摯に訴えることが選挙における候補者としての役割なんだろうなと思いました。
日本政府の努力は全く見えない
-沖縄県知事として、任期中に実現したいことを教えてください。
まず沖縄にとって一番大きな日常の問題は米軍基地です。米軍が日米地位協定(※)によって排他的管理権を持っているということは、その恣意的な運用を認めているということ。こういうことはあってはならない。
※日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約第6条に基づく施設及び区域並びに日本国における合衆国軍隊の地位に関する協定。米軍が基地の管理権を持つことや米軍の出入国の保障、課税免除、軍人、軍属らの刑事裁判権などについて規定している。
そのために日米地位協定の抜本的な改定と合わせて、沖縄にこれ以上米軍基地が作られないように、辺野古の新基地建設に反対している意義を理解していただけるよう情報発信をしていきたいと思います。
もう一つ、沖縄県が現在、一丁目一番地で取り組んでいるのは、子どもの貧困問題です。子どもの問題は、子どもの問題ではなくその子を取り巻く家庭環境や学校、社会の環境すべてが関わってくるものです。私たちは、そういったあらゆる面に目配り気配りをしながら、この貧困から立ち直っていけるよう、子どもたちを支えていきたいです。
-知事選でも普天間基地の閉鎖、辺野古移設反対を訴えていましたが、改めて米軍基地についてのデニー知事の考えを教えてください。
基地反対について、私が一番訴えたいことは辺野古の新しい基地の建設、そしてそのための埋め立て工事は断念するべきだ、ということです。この6~7割の県民の思いは揺るぎません。
このように訴えている理由は、戦後73年経ってもいまだに、日本の0.6%の面積しかない沖縄県に日本の70%あまりの米軍基地が集中させられているためです。このことは何度も何度も訴えているのですが、返還や移設については全てアメリカと日本の政府間の協議によって進められており、沖縄県民の積年の思いや願いがなかなか伝わっていないということがあります。
沖縄に基地を置いておくことがアメリカにとって必要、その理由として沖縄のアジアにおける地理的優位性は揺るがない、といったことが挙げられますが、まるで我々沖縄県民が抗うことができないといった論調になっていることが非常に残念だなと思います。
-日本政府の動きについてはどうお考えでしょうか。
これまでにも米軍は様々な返還計画を進めていますので、日本政府がその計画に則って、また県民の要求・要望を同じ国民の声として、計画の中に折り込んでいけば、もっと早いタイミングで基地のない平和な取り組みができたのではないかと思います。
安倍総理は「自分たちが出来ることは全力でやる」とおっしゃっています。ただ、普天間飛行場の運用停止(※)は2019年2月が期限ですが、それに向かってどれだけ努力をしているのか、ということが沖縄県民からは全く見えない。
※2014年に政府は沖縄県に普天間飛行場の「5年以内の運用停止」を約束。 11月に政府側は移設作業が遅れていることを理由に運用停止は難しいと説明している。
それどころか、現職の防衛大臣は「仲井眞知事と埋め立て工事をする前提での約束ですよ」というニュアンスのことすら言葉にするようになっています。
いったいどこに「県民の思いに寄り添う」という総理の言葉の実行が担保されているのか、全く理解することができません。これが一番大きな問題だと思います。
-なるほど。辺野古移設反対はどのように進めていきたいですか?
ですから私たちは、しっかりと政府との対話を続け、その中で沖縄の基地問題解決に向けた方法を真摯に考えなければならないと思います。そうあってこその、日本における民主主義の成熟であると、それを願って声に出しているわけです。
-「日本の民主主義の成熟」というご指摘がありましたが、沖縄の基地問題に沖縄県外の人はどのように関わってほしい、関わるべきだと考えていますか?
日米安全保障体制は、沖縄だけが担う問題ではないんです。日本とアメリカ全体の計画ですから、国民の皆さんもこの安全保障体制を認めているのであれば、応分の責任を分担していただかなければいけない。「自分も当事者の一員なんだ」ということを分かっていただきたいのです。
日米地位協定の改定について考えても、これは日本とアメリカの間で結ばれている協定ですから、決して沖縄県民だけに適用されているわけではなく、日本全体、国民にとって影響がある、誰の身にも同じような責任や課題として持たされているものだと考えていただければと思います。
-基地がないから、遠い沖縄の話だから、ではなく自分のこととして考えてほしいということですね。
そうです。もし自分の子どもが米軍関係者による事故に遭ったら、もし米軍機が自分の住む家の近くの民間地に墜落したら…といったことも起こる可能性がないとは言えませんよね。こういうことを想像していただければ、国民の皆さまにもなぜ沖縄が基地を減らしてほしいと言っているのか、なぜ日米地位協定を改定してほしいと言っているのか、もっと理解してもらえるんじゃないかと思います。
そうしたことを理解した上で同じ国民としてどういう声を上げなければならないのか、政府に何を求めなければいけないのか、ということを一人一人ができる行動につなげていただきたいなと。
好調な観光をどう県民に還元させるか
-「6~7割の反対」とお話ししていましたが、沖縄でも県民全員が辺野古への基地移設に反対しているわけではないと。
はい。ただ、私は今回の沖縄県知事選挙で辺野古の新基地建設の是非が最大の争点の一つだと訴え、その上で新基地建設反対の私が相手候補に勝ったということは、明白な県民の意思の表れだと考えています。ですから、私は自分の責任として、新基地建設反対を政府に要求していく立場であることは貫いていく、というように考えています。
-県知事選では、基地に反対する人が知事の支持に回った一方で、若者を中心に経済政策に期待する人々の票が対立候補に流れたと言われています。デニー知事はどのような経済政策を進めていきたいと考えていますか?
最近の沖縄県の経済では、平成29年度の観光客の入域数が過去最高で、この数字は5年連続で更新されています。このインバウンド、アジアから訪問する人たちのダイナミズムを取り込む経済的な効果が、有効求人倍率や完全失業率の改善につながるのではないかと思います。
アジアに対しての経済戦略を今進めている段階で、同時に沖縄21世紀ビジョン(※)という計画も進めています。
※県民の意見を集約して作られた沖縄振興の総合的な基本計画。
この2つを合わせて世界水準のリゾート地を形成し、「東洋のカリブ」としてフライ&クルーズといった観光体験も作っていきたいと思っています。また那覇空港の第2滑走路建設も進めていますが、これが完成すれば、経済にもたらす影響を県民の皆さまにももっと感じていただけると思います。
-やはり観光が柱になるということですね。
はい。こうしたことは選挙期間中も訴えていましたし、さらにその経済効果で生まれてくる利潤・利益は「誰一人取り残さない社会を実現する」という政策にも生かしていきたいと考えています。
ただ利潤・利益を得るだけではなく、それを社会に還元させていく。それが県民の皆さまが順調な経済を実感出来る、結ばれた施策の形として理解していただけるのではないかと考えています。
-観光が好調な一方で、地元の人からは「自分のところまでお金が届いてこない」という声もよく聞きます。県外などの一部の大きな企業ではなく、県民全体に還元させるためにはどのような方法があるのでしょうか。
観光立県という言葉に表されるように、沖縄ではものづくりでも、企画・営業でも、多くの県民が観光から連なる裾野に携わっています。お土産を作る、といった分かりやすい形だけではなく、様々な関わり方があります。
いろんな分野の方々が、今、参画している場面から観光とつながることができる。これが、私たち沖縄県が高い目標を持って努力していきたいと思っているところです。例えば、ホテルで滞在している人が沖縄の県産食材を食べたいと思ったときに、魚や野菜、和牛といった食材をもっと提供できるツールに育て上げていくことは行政の責任でもあると思います。
歴史上の城主に憧れた少年が県知事に
-デニー知事が考える沖縄の魅力はどういうところですか?
沖縄の魅力…挙げればキリがありませんよ(笑)。まず沖縄の温暖な気候は、他府県から、特に寒さが厳しい地域からやってくる方にとっては大きな魅力ですよね。
冬場でもゴルフをしたい人はいますが、沖縄であれば年中青々としたコースでゴルフをすることができる。11月の下旬でも25℃あるので、かりゆしウェアで街中を散策することもできる。
最近ではリゾートウェディングも好調です。例えばウェディングで家族の皆さまと沖縄に来て、そこで滞在しながらリゾートを楽しむ、それもホテルだけではなく体験型のツーリズムが整備されているので、楽しんでいただくことができます。
-温暖な気候や海というイメージはやはり強いですね。
あと住んでいる人間としては、「沖縄が沖縄であること」を満喫するだけでも沖縄の素晴らしさを満喫してもらえると思います。
-沖縄が沖縄であること、とはどのようなことでしょうか。
例えば、海岸に行って泳ぐわけでもなく海からそよぐ風を受けて、その場にいること。それだけでいいと思うんです。私たちウチナーンチュ(沖縄人)も、疲れた時には何もない場所に行って、ただ時間だけを過ごすことで癒されることがたくさんあります。こうした、あるがままの沖縄の形を味わっていただきたいです。
そこからさらに沖縄を感じたいのであれば、近くにある沖縄そば屋に行ってソーキそばを食べてもらえばいいですし、歩いて行ける距離にも沖縄の魅力を感じていただける場所はたくさんありますから。ぜひご自分の足で、目で、肌でその雰囲気を感じてほしいですね。
-知事のお気に入りの場所はどこですか?
そうですね、山原(やんばる・沖縄本島北部の原生林)で見る星空、晴れている日には満天の星空が手に取るように目の前にある光景はとても素晴らしいなと思います。
あと僕は小さい頃、うるま市の西原というところで育ったんですが、そこには世界遺産に登録されている勝連城跡があります。ここは阿麻和利(※)という城主の伝説があるんですけど、小さいころからそこに登って、360度のパノラマの景色を見ては「いつかは阿麻和利になるぞ」という思いを持ったものでした。
あまわり。勝連城の10代目城主で海外貿易により勝連に繁栄をもたらした。勝連城跡は2000年にユネスコの世界遺産に登録。
-阿麻和利に憧れた少年が、沖縄県知事になったということですね。
あと私が住んでいたところは、当時は離島だったんですけど、与勝半島から海中道路(※)を渡っていく風景ですとか、島で見るエメラルドグリーンの海も良いなと思いますね。
※本島中部のうるま市と平安座島を結ぶ約5kmの道路。
他にも、私の母は伊江島の出身で、本部半島(※)からフェリーで30分ほどの距離の、タッチューという岩山が特徴的な島なんですけど。その島でレンタサイクルを借りてのんびりと回ると時間が違うんです。まるで本島と2時間くらい時差があるかのような(笑)。
※沖縄本島北部から西側に突き出した半島。本部町、今帰仁村、名護市の一部が含まれる。
-ぜひ行ってみたいと思います。
何もしないことも旅の楽しさなので、ぜひ1日のスケジュールの中で30分や1時間でも、そういう時間を味わってほしいと思います。どこでその時間を過ごすのか場所を探すのも楽しいですよ。
-これから取り組んでいく難しい課題を前にして、今の気分を音楽で例えると何でしょうか?
ロックンロールですね。
ついこの間は話題の映画『ボヘミアン・ラプソディ』を見せていただきましたが、選挙期間中の入場曲は「We Will Rock You」でしたし、気持ちを盛り上げる時に聞いている曲はFoo Fightersの「Best Of You」ですね。あるいはNickelbackの「When We Stand Together」です。我々がともに立ち上がる時。
こうした曲を聴くと気分もアゲアゲで、よし前進するしかないぞ、という思いになります。
-そういった音楽を聴いて活躍されることを願っています。本日はありがとうございました。
どうもありがとう。Keep on Rock’n Roll !!