※この記事は2018年11月15日にBLOGOSで公開されたものです

10月7日に放映された『HUGっと!プリキュア』(テレビ朝日系列)に「帝王切開」が登場し話題になった。作中では帝王切開をネガティブにとらえている母親に対し、産婦人科医が「帝王切開はつまずきじゃないわ。立派なお産よ」と励まし、これに対してTwitterなどでは称賛の声が相次いだ。

実際、日本では帝王切開の割合が年々増加している*1にもかかわらず、「お腹を痛めて産んでこそ一人前の母親」「陣痛の痛みを乗りこえてこそ愛情が湧く」といった考え方が根強く残っており、帝王切開で出産した母親たちが偏見にさらされることも少なくない。

帝王切開は邪道?周囲の心ない言葉に傷つく母親たち


帝王切開は楽している? 医療的措置だと理解してもらえないことも

母子の安全を優先して行われた帝王切開であるにもかかわらず、麻酔を使用した、普通分娩ではない…という理由で「楽をした」と認識されることもあるという。

産婦人科医「出産は命がけであることを、まずは知って」

実際に帝王切開になるのはどのような場合だろうか。47年のキャリアを持ち、これまで15,000例以上の出産を診てきたガーデンヒルズウィメンズクリニックの牛丸敬祥院長に話をきいた。

ガーデンヒルズウィメンズクリニック 牛丸敬祥院長

――日本の分娩件数は減少していますが、帝王切開の割合は増加傾向にあります。その理由を教えてください。

ドクターによって多少方針の違いはありますが、現代では経膣分娩(下から産む)でリスクが大きいと想定される場合は、リスク軽減のために帝王切開を選ぶ傾向にあります。リスクが上がる高齢出産が増えていることも一因だと言えます。

――帝王切開が行われるのは、どのような場合でしょうか。

逆子が一番多いですね。その場合は、お母さんに治すための「逆子体操」に取り組んでいただいたりしますが、それでも治らないこともあります。もちろんそれはお母さんが責められるようなことではありません。

――そんな中でも「普通分娩でなければお産じゃない」などの偏見がいまだにあることについては、どう思われますか?

当院では、最近はそういう話は聞かなくなってきましたが、帝王切開はほとんどの場合、他に選択肢がない中で行われます。そのように母子の安全性を優先して行われた帝王切開を批判するのは、非常識だと思います。

どんな出産でも母親は命がけ。わたしも今まで多くの出産に立ち会ってきましたが、赤ちゃんが無事に産まれると毎回ほっとします。どんな方法であれ無事に出産ができたならば、まずは「無事でよかった」と考えるのが普通ではないでしょうか。帝王切開手術で身体に傷を作ってまでがんばった女性たちを、責めないでほしいですね。

――帝王切開への無理解は、学ぶ機会のなさにも原因があるのではないでしょうか。

そうですね、当院でも帝王切開になる可能性が高い方に対しては事前にお伝えしています。しかしすべての妊婦さんに最初から帝王切開の話をしても、不用意に怖がらせてしまうことにもなりかねないので、そのバランスは難しいと感じます。

そして家族など周囲の方々は、妊婦さん以上に学ぶ機会がないと思います。せめて「帝王切開になったのには理由がある」ということは知ってほしいですね。

――帝王切開だったことに対して周囲からの心ない言葉に傷ついたり、後ろめたさを感じたりしている女性たちにアドバイスをお願いします。

本当によくがんばったね、と声をかけてあげたいですね。後ろめたく思ったり、自分を責めたりする必要は全くありませんよ。


いまだに女性たちを苦しめる、帝王切開への偏見や思い込み。少しずつでも正しい知識が広がり、辛い思いをする女性たちがいなくなることを願ってやまない。

【BLOGOS福岡編集部】

【参考文献】
*1 2.医療施設の動向 -Health Care Facilities - 厚生労働省
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/130-28_2.pdf