いまだ公表されない新元号 - 赤木智弘
※この記事は2018年11月11日にBLOGOSで公開されたものです
大分県統計協会が発行した「県民手帳」に印刷上のミスがあったという。
来年5月1日に天皇の生前退位と次期天皇の即位に伴う改元が行われるが、5月以降の年号も「平成」にしてしまったそうだ。(*1)
ちょっとしたおもしろニュースのような感じではあるが、そもそもこのようなことが起きた原因は政府の改元に対する無責任な態度にある。大分県統計協会は政府に損害賠償を求めるべきだろう。
そもそも、天皇陛下が生前退位の意向を表明なされたのは、平成28年8月8日のことだ。(*2)
このような、かなり早い時期に意向を表明なされたのは、国民生活への影響を考えてのことである。
にもかかわらず、あーたらこーたら言いたれて、新年号を未だに出し惜しみしているのが我らが日本国政府である。
実際、カレンダーを始めとする、様々なところで元号を用いる印刷業界や、元号を扱うコンピュータのシステム開発の現場は、早いうちからの元号の発表を要請していたが、発表のないまま、もう即位まで半年である。
もちろん、すでに来年の手帳やカレンダーは、5月以降の元号無きまま印刷を終えている。
肝心の新元号の公表は早くても次期天皇即位の一ヶ月前になるようだ。(*3)(*4)
そしてその一ヶ月前の根拠は「国民生活への影響を考慮」「税金や社会保障などの情報システム改修を混乱なく進めるには1カ月程度が必要」とのことであるが、この印刷ミスのような支障はすでに発生している。
もう、システム屋さんは2000年問題と同様の緊急シフトを前提に、平成31年4月の予定を組んでいることだろう。願わくば次の年号が3文字以上で無いことを祈るのみである。(せめて次の元号の文字数くらいは、すぐにでも公表してはどうだろうか?)
しかもそれすら確実な決定ではなく、未だに即位後の公表を求める勢力もいるらしい。
正直、1ヶ月程度、早かろうが遅かろうがどうでもいいので勝手にして欲しい。
たかだか1ヶ月で情報システム、しかも最新のOSならまだしも、未だに古いコンピュータやソフトウェアが動く行政システムの改修が済むと思っている方がどうかしているのだ。
そんなわけで、政府の新元号に対する対応は実に国民をバカにしている。
何れにせよ、すでに、天皇陛下の国民に対する配慮を、現政府が潰してしまったのである。実に呆れる他ない。
しかし、こうした政府の生前退位と改元に対する情けない対応は、国民の元号に対する意識を変えつつある。
政府は「広く国民に受け入れられ、日本人の生活に深く根差したものになるよう」と語るが、これだけ右傾化していると思わしきネットにおいても、元号に執着している様子は見られない。
社会学者の古市憲寿氏がTV番組で元号廃止を提案した(*5)そうだが、いつもならこうした発言を取り上げて「反日社会学者ガー!」と盛り上がるはずのネットも、ほとんど反応が見られない。
むしろ、元号を使わずに効率的な西暦にするべきではないかという意見がよく見られるのが現状だ。気の利いた会社なら、そうしたケアレスミスを防ぐためにすでに書類に元号を使わなくなっているだろう。
少なくとも、公文書を扱わない場所で元号を使用する必然性はなく、カレンダーに元号を記載する必要もない。せいぜいA4用紙の紙のサイズと同じように、手帳の早見欄にでも書いておけばいいだけの話である。
そして、無事改元が行われても、今度は「過去に平成の表記で書いた年が間違われる問題」が発生する。元号で書かれた来年以降の表記は「平成35年」や「平成50年」のように、平成が続く前提で書かれている。
「次の元号元年」=「平成31」=「2019年」ということは来年であればみんな覚えているだろうが、次の元号になってから時間が経つにつれ、年号計算の換算は怪しくなっていく。年号の読み間違いでの問題も起きかねない。
政府はそうした失敗による損失も、自分たちの責任ではないと、国民にこれからも押し付け続けるのだろう。
*1:県民手帳「平成」のまま 1万冊以上発行、回収へ(毎日新聞)https://mainichi.jp/articles/20181105/k00/00e/040/240000c
*2:象徴としてのお務めについての天皇陛下のおことば(宮内庁)http://www.kunaicho.go.jp/page/okotoba/detail/12
*3:新元号公表、改元1カ月前を想定 政府(日本経済新聞)https://www.nikkei.com/article/DGXMZO30635650X10C18A5MM8000/
*4:元号公表「1カ月前想定」 システム改修準備で菅氏(共同通信)https://this.kiji.is/430568511301338209?c=113147194022725109
*5:古市憲寿氏、元号廃止を提案 一方で「もっとたくさん変えてもいい」(デイリースポーツ)https://www.daily.co.jp/gossip/2018/11/09/0011805501.shtml