「任せられる仕事が減ってきている」専門家に聞く 障害者雇用水増し問題の背景 - BLOGOS編集部PR企画
※この記事は2018年10月12日にBLOGOSで公開されたものです
障害者の雇用数水増し問題。先月、裁判所や衆参の議員事務局でも水増しが発覚し、司法、立法、行政の3権すべてで半数前後の水増しがあることが発覚した。先導すべき国の機関で「数合わせ」が横行する背景には何があったのか――。
約30年間障害者の就労支援に携わり2003年から高知県で福祉事業所を運営し、2014年から日本財団公共事業部に所属するシニアオフィサー・竹村利道氏に聞いた。
水増しの原因?障害者向けの仕事を作りにくい中央省庁
水増しが横行した背景について、竹村氏は「絶対に許されないこと」と前置きをした上で、「省庁では業務のアウトソーシングが進みすぎて、障害者への仕事の切り出し方が難しい状況にあるのではないか」と指摘する。
各省庁では積極的な民間委託や事務作業の効率化が進む。受付や施設の管理業務は警備会社などへの民間委託が主流になった。作業のベースを紙からICTに置き換え効率化を図る「脱・紙」の動きも進んでおり、厚生労働省は今年8月、答弁作成など国会関連の業務見直しを始め、大臣や幹部への説明をタブレットなどで行うことを打ち出した。
竹村氏は、「業務の効率化が進み、公務員試験に合格していない人たちに任せられる仕事がそもそも減ってきている。知的障害者が分析、企画、立案といった仕事を担うことはまずできない。紙のシュレッダーやコピー取りといった事務作業自体も減ってきており、障害者に任せられる仕事が少なくなってきている」と説明する。
企業だけが持っている障害者の「受け皿」とは
2017年に法定雇用率を達成した民間企業の割合は、19年ぶりに50%を超えた。企業が法定雇用率を下回った場合、「雇用納付金」という名の「罰金」を支払うほか、社名を公表されることもあり、民間企業からは「企業が頑張っているのに省庁は何をしているんだ」という憤りの声も上がる。一方、竹村氏は「企業には特例子会社という『受け皿』がある一方、省庁にはその手段はなくかなりの難しさがあるはず」と指摘する。
特例子会社は、大手企業などが厚生労働省の認可を受け設立する子会社を指す。障害者の従業員数が5人以上、全従業員数の2割以上など一定の条件を満たす必要がある。
竹村氏は説明する。
「特例子会社は本体とは給与体系が別で、業務内容も本業とはあまり関係のない軽作業が大半です。それでも仕事を生み出していたら、親会社が雇っていることにしてカウントしましょうという、いわば滑り止めのような役割を果たしています。
一方、官公庁の場合はそういった滑り止めがないので、すでにアウトソーシングしてしまった以上は切り出せる仕事が枯渇しており雇用ができません。こうした状況の中で、障害者への仕事を作るというのは大変です。こうした現実を踏まえると、障害者雇用における課題は、省庁だけにとどまらないと思っています」。
活用難しい障害者 専門家が語るトレーニングの必要性
ならば、省庁が仕事をうまく「切り出し」、障害者が働きがいのある就労の場を作るためにはどうしたらいいのだろうか。
この問題を解決するポイントとして、竹村氏は「仕事を生み出す手伝いを専門家がしていく必要がある」とし、就労移行支援事業所など福祉事業者側との連携を挙げる。
就労移行支援事業所は、就職を目指す障害者の訓練などを行う施設で、全国に約3400の事業所があり、約3万5000人(今年1月現在)が利用している。
竹村氏は「身体障害者の場合一般採用試験に努力するという人が現れてほしい。特別扱いで、試験も通ってない、スキルもない、パソコンも使えないのに雇ってくださいというのは省庁にとっても活用が難しいと思います。障害者側にも努力は必要」と現状を指摘。
「業務が多忙な中、既存職員も手取り足取りは支援できないと思うんです。一方で、事前に雇用の業務内容を伝えられ、『トレーニング期間はこういうことを視野にいれながらきました』となれば、雇用主としての指導の時間が減りますし、バリバリとまではいかないけれど即戦力になります。
省庁の職員が庁舎内のトイレそうじをしているとは思えません。たとえば、この部分のアウトソーシングをやめれば、障害者を5人は雇えると思います。他にも、聴覚障害を持つ人に筆談での受付業務をお願いすることもできるはず。このように福祉事業側の人間が切り出し方をサポートしながら考えることで、各省庁で60人分程度の仕事を切り出せるのではと思います。
少しずつ切り出していくと『業務上のこの部分の、議事録は取れるんじゃないの?』と踏み込んでいくことも可能になっていきます。大切なのは福祉事業側の専門家が省庁に寄り添うこと。障害者側の準備も今はまだ十分ではないと思っています。『パジャマのような服を着て出勤してはいけない』など、仕事の手前の社会的なマナーをまず送り出す側が教える。
雇っていないからといって省庁を非難して北風をばんばん吹かせるよりも、『コートをかぶせて一緒に考えましょう」ということだと思います』(竹村氏)
ロボットごしに受付も 重度障害者が活躍するために必要なこと
竹村氏は新たな取り組みとしてテクノロジーの活用も挙げる。そのひとつが重度障害者による遠隔操作で動く分身ロボット「OriHime」だ。
「このロボットを活用することで、重度障害者が在宅で省庁の受付係を担うことができます。執務室の中では狭すぎて動けないけれども、受付なら十分可能です」と竹村氏は自信をのぞかせた。
だが、ロボットの導入には制度改正が必要だという。労働時間が週に20時間未満の場合、短時間勤務職員となり障害者雇用としてカウントされないからだ。
竹村氏は「この人が働く1時間は、すごく価値のある1時間だと思うんです。制度が改正されれば、1日8時間のひとつの仕事を4人でシェアすることが可能になる。新しい働き方がどんどん広まるといいと思っています」と期待を寄せる。
障害の有無に関わらず、AIやICTの導入により「働き方改革」が進み、人々の働き方は大きな変化の途中にある。
竹村氏は語る。
「障害者雇用率があるから雇わないといけないというコンプライアンスで縛られるのは本来の姿ではありません。
障害者雇用を理想とする社会のあり方は、この人材不足の社会において、障害者という人材を活用したくなるような、「人財」として障害者を雇用したくなるようなものではないでしょうか。その結果として雇用率が3%に達しましたという組織があってもいいし、業態が違うので1%でしたという組織があってもいいと思っています。
ただ、それは理想で、雇用率を外して『みんなでがんばりましょう』と言ってもそうはならない状況なので、現時点では『宿題』として数字は必要だと思っています。
チョーク製造の『日本理化学工業(川崎市高津区)』という会社では雇用率が70%を超えますし、食品容器製造の『エフピコ』(福山市)という会社はもはや障害者雇用なくしては成り立たないと思われるほど労働力として定着しています。
雇用率ありきでない社会を作っていきたい。そのためにもいま求められるのは、批判ではなく、現実的な対応ではないかと思っています」
就労支援フォーラムNIPPON 2018
障害のある人の“はたらく”について真剣に考える「きづき」「まなび」「であい」「きっかけ」のプラットホーム「就労支援フォーラムNIPPON」が12月8、9日に開催される。
就労支援フォーラムNIPPON 2018 フォーラム5回目を迎えて、成果と課題を検証する ~SEASON 1 完結編~
日時 2018年12月8日(土)13:00-18:30[18:50-20:50 ナイトセッション]
12月9日(日)9:00-16:00
会場 ベルサール新宿グランド
(東京都新宿区西新宿8-17-3 住友不動産新宿グランドタワー1F)
※お問い合わせ:就労支援フォーラムNIPPON 運営事務局(オスカー・ジャパン株式会社内)
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