NHK「紅白」元部長ばかりではない!TV局はセクハラ三昧 - 渡邉裕二
※この記事は2018年10月09日にBLOGOSで公開されたものです
「紅白」責任者が停職3ヶ月の懲戒処分
放送業界がセクハラ、パワハラ問題に揺れている。
先ごろは、NHKで音楽・バラエティー番組などを担当してきた元制作第二センター・エンターテインメント番組部長のI氏が、局内でのセクハラ行為で停職3ヶ月の懲戒処分を受けていたことが発覚した。
I氏は、2016年に関連会社のNHKエンタープライズ(NEP)から部長として復職。年末の「紅白歌合戦」の総責任者を務めた16年と17年は、2年連続で有村架純を司会に抜擢したほか、一昨年は宇多田ヒカル、昨年は安室奈美恵と桑田佳祐を〝目玉〟として引っ張り出したことで知られる。芸能音楽畑が長く、エンターテインメント番組部長に就任してからも、NEP時代に自ら立ち上げたBSプレミアムの音楽番組「The Covers」にはこだわりを持ち続けていたという。
局内での評判は「気さくだった」「官僚的ではない」など、意外に悪くはなかった。しかし過去の行動を振り返ってみると、部長に就任した時は前任者の息のかかった者を外す冷酷さも持つ。プライドが高く、〝独裁的〟な部分が見え隠れしていた。
そんなI氏に異動の噂が出始めたのは今年4月。もっとも異動したとしても通常の〝定期異動〟と言えなくもない。ただ2年間の「紅白」の実績もあっただけに、一部からは「異動はないかもしれない」との声も出ていた。一方でI氏自身は「もし異動するなら2020(五輪)関連の部署への希望を出していた」ようだが…。
それが、6月になって出た人事は編成局への異動。
確かに役職的には〝主幹〟という立場で「異動と言っても立派な出世コース」である。しかも、職位もアップしたのだが、現実は「どうも具体的な職務はなかったようですからね。制作現場に携わってきた立場としてはショックだったはずです」(関係者)。
この人事に一部からは「なぜ?」と不思議がる声もあった。
それが7月になるや「どうも体調を崩しているようだ」なんて言われるようになった。
「よほど異動がショックだったんだろうね」。
業界内でも、そう言われていたのだが…。それが、今になって振り返ると、その人事の裏に実は「パワハラ疑惑が隠されていた」というわけだ。
しかも、関係者によれば、セクハラは昨春に起こり、今回の人事の1年前に被害女性から訴えがあったという。
NHKによれば、その被害女性は「局員」だそうで、NHKの内部調査で「セクハラが確認できた」ことから、8月になってから「停職3ヶ月」の処分を下したという。
当然、下世話ながらも被害女性は「誰なのか?」ということになるが、局内からは「どうやら上司と部下の関係だったらしい」「酒好きだったから、飲みに行って強引に迫って行為に及んだ」など、さまざまな〝憶測情報〟が飛び交っていた。
この流れから想像できるのは、当初、訴えを受けた関係者が実は、セクハラをウヤムヤに済まそうとしていたのではないかということだ。女性が、どこのセクションの誰に被害を訴えたのかは分からないが、おそらくI氏の立場も考慮した上で、出来るだけ穏便に示談で済ませ、定期異動させることで納得させたかったのかもしれない。
が、その「異動先」に被害女性が納得しなかったのだろう。
「女性の気持ちからしたら、どこか地方局への異動であれば、あるいは説得に応じていたとも考えられなくはないですけどね」(NHK関係者)。
ちなみにI氏の処分について、NHK広報局では「『ハラスメント防止規定』を定め、厳正に対応しています。セクハラに該当する行為があれば、内規に従って厳正に対処しています」と説明しているが、果たしてNHKがどこまで毅然とした対処を考えていたのかは疑問である。まあ、NHKとしては、ここまで問題を大きくしたくなかったと言うのがホンネだろう。
挙げればキリがない放送業界のセクハラ・パワハラ
それにしても、放送マンのセクハラ、パワハラなんていうのは、NHKに限ったことではない。ハッキリ言って民放テレビ局も他人事だと笑ってはいられない。
TBSの元ワシントン支局長・山口敬之氏による、ジャーナリストの伊藤詩織さんへの「レイプ事件」などは論外だが、現実には局内でのセクハラ、パワハラは、その大小はあれど日常茶飯事だと言っても過言ではないだろう。
最近では、元NHKアナだった有働由美子が新キャスターとなって華々しいスタートを切った日テレの報道番組「ZERO」が挙げられる。
この番組で有働とともに出演が内定していた、報道局所属で解説委員の青山和弘氏が、同局の女性社員と女子大生アルバイトの2人にセクハラをしていたことが発覚。急遽、番組からの降板が発表されたことが記憶に新しい。
「女性社員に対して肉体関係を迫ったばかりか、女子大生アルバイトには、何度もホテルや家に誘っていたそうです」(放送記者)。
青山氏は、東京大学文学部を卒業後、日本テレビに入社。政治部記者として活躍、国会官邸キャップやワシントン支局長も歴任してきた日テレのサラブレッドだった。元TBSの山口氏同様に安倍晋三総理からの信頼が厚く、「安倍さんとホンネで話した700時間」(PHP研究所)などを出版してきた。それが、番組リニューアルを前にネットニュースの「NEWSポストセブン」が、パワハラを報じたことから「即時に降板の処分が下された」という。
一部情報では、日テレは青山氏のセクハラを把握していたというから、もし事実だとしたらタチが悪いと言うしかない。
発覚後、青山氏は日本テレビホールディングスの経営戦略局グループ推進部に出向することになったというのだが…。
この他にも、これまたNHK出身のアナウンサーで現在はフリーの登坂淳一氏は、今年4月からスタートしたフジテレビの報道番組「プライムニュース イブニング」のメイン・キャスターに決まっていたのだが、NHK時代のセクハラ疑惑を「週刊文春」に報じられ、泣く泣くキャスターを辞退した。
登坂氏は、NHK時代に〝麿(まろ)〟と呼ばれ人気があったが、その一方で「セクハラがNHKでも有名だった」(関係者)そうで、それが理由なのか「退職前は札幌放送局から鹿児島放送局に異動させられていた」とも噂されている。
そういった意味では「いくらNHK出身だからといって、彼と所属契約したホリプロはもちろん、報道番組のメインキャスターに据えようとしたフジテレビの上層部も〝身体検査〟が甘かった」(スポーツ紙の放送記者)。
ちなみに、この「プライムニュース」では、他にもメイン・キャスターの反町理氏にも女性記者へのパワハラ疑惑が発覚していた。
また、フジテレビでは、2年前の16年、制作局第二制作センター長だったN氏が、レコード会社で〝局担〟と呼ばれる、女性宣伝担当者にセクハラ行為して問題になったこともあった。同局の音楽特番「FNSうたの夏まつり」の打ち上げで、N氏がレコード会社の女性担当者2人の胸を触るなどセクハラしたことが、やはり「週刊文春」で報じられた。この時は、その行為が余りにも悪質だったことから「レコード会社が、フジテレビに対して正式に抗議をしたとも言われています」(関係者)。
N氏は当時、音楽番組のトップで、多少のことがあっても「(女性宣伝マンは)黙っているしかなかった」と言われるだけに、常習性が窺われた。
「N氏は、この他にも新人の女子アナにキスをするなどセクハラが問題になったこともありました。局前で行われていた野外フェスのVVIP席(VIP席の上ランク)で行為に及んだらしいのですが、理由はどうであれ、セクハラもここまできたら犯罪です」(プロダクション関係者)。
N氏は現在は事業局に異動しイベント関係を担当しているというが「フジテレビはセクハラに甘い」と陰口を叩かれても仕方がない。
こういったセクハラは、当然と言うべきか地方局にも波及している。
今年の4月。日本テレビ系の「熊本県民テレビ」では、社長が〝セクハラ〟で解任されるという前代未聞の出来事もあった。「複数の女性へのセクハラとパワハラ行為があった」と言うが、もはや、ここまで来ると呆れるばかりだ。
「解任された社長は、バラエティー『行列のできる法律相談所』のほか、ドラマでも『星の金貨』などを手がけるなど、日テレ時代は有名プロデューサーでした。結局、仕事は出来るが、遊びも派手というひと昔前の制作マンだったんです」(ライバル局の若手制作マン)。
ここで挙げたのは、ほんの一部の出来事だが、現実は「バレなきゃいいんだよ」感覚が横行していると言ってもいい。
しかし、今回、問題になったNHKのエンターテインメント番組部長のI氏に至っては「酒好きだったが、行動には慎重な奴だった」というだけに、何があったのかが気になるところ。しかも、「懲戒処分」が発覚したのが2ヶ月経ってからというのも意図的なものを感じる。あるいは「紅白」にターゲットを絞った情報リークだったのかもしれない。
「この時期は、『紅白』の司会や出場者が噂され始めるタイミングです。そんな時に『紅白』の責任者だったとか、司会選考がどうだとか言われたら、どうしても制作現場が萎縮してしまいます。しかも、今回のネタの一報は『共同通信』だったことも理解に苦しみます。と言うのは『共同通信』にとってNHKは最大の〝お客様〟ですからね。そんなNHKのネガティブな人事情報を『共同通信』がスッパ抜くなんてこと自体、本来は有り得ない。もちろん、受信料で経営しているわけですから、NHKが事実を隠すこと自体も問題ですが、それ以上に、どんな狙いがあるのか、NHKの内部で何かが起こっているような気がしてなりませんね」(芸能関係者)。
大袈裟でもなく、NHKの元エンターテインメント番組部長のセクハラ問題は、〝平成〟最後の大晦日の「紅白」にまで影響を及ぼすことは間違いなさそうだ。