「地震の片付けよりも客を迎えるのが優先」震度6強のむかわ町、観光シーズンを前に準備急ピッチ - BLOGOS編集部
※この記事は2018年10月04日にBLOGOSで公開されたものです
9月6日未明に発生した北海道胆振東部地震で、震度6強を記録し1人が死亡、252人がケガをしたむかわ町。80軒以上の建物が全壊し、依然として避難を強いられている住民が残っているが、それでも多くの人が生活の落ち着きを取り戻し始めているという。震災から約1か月、現地の様子を取材した。【取材:BLOGOS編集部 島村優】
目抜き通りに建つ店舗兼住宅の多くが全壊
むかわ町で特に被害が大きかったのは、むかわ駅前から役場周辺を結んでいる大通りだ。道路の両側には飲食店や商店が並ぶが、一階が店舗、二階が住宅という構造の建物が多く損壊した。
同じ通りで寿司屋を営む大豊寿司の二代目・鈴木祐介さんによると、全壊した古い店舗兼住宅の建物は、「間口が広く見えるように柱を抜いていた建物が多く、大きな地震に耐えられなかったのでは」という。
損壊したビルには二次災害を避けるために危険度を記した赤い紙が貼られている。赤色は住むことができない「危険」を示す紙だ。
大豊寿司も外見上は被害がないようだが、建物四方の柱に亀裂が入り半壊と認定された。中心にある柱が二階を支えたため倒壊を免れ、住み続けられる程度の被害で済んだ。
少しずつ地元に戻る日常
住居の被害が大きくなかった人たちの元には、少しずつ日常が戻り始めている。
町役場近くに位置する特産物直売所の店内には、地元の名産・ししゃものほか、朝獲りの地元野菜が多く並んでいた。
「地元の人たちも少しずつ生活が落ち着いてきているのか、毎日畑へ出てたくさんの野菜が届けられます。むかわ町には多くのボランティア参加があったため、非常に助けられました。また、意外にも道内の人が観光に来てくれることが多かったですね」と話してくれたのは、直売所で働く店員。
町役場周辺では地震直後から陸上自衛隊第7師団が活動。簡易入浴施設の設置や毎日の炊き出しで避難住民に感謝されている隊員たちの表情も明るい。
「確かに住民の方も少しずつ日常を取り戻しているように思います。もちろん、我々としてはまだ避難されている方がいらっしゃるので、まだまだ気を抜くことができません(活動中の隊員)」
ししゃも店「辛かったのはやはり停電」
「むかわ町では地震発生から約3日、停電になっていました。もちろん携帯電話が充電できないなど自分たちの生活面でも大変でしたが、電源が復旧するのを待っているうちに全てダメになってしまう可能性がある冷凍ししゃもをどうするかが緊急の課題でした」
大正12年創業のししゃも専門店「カネダイ大野商店」の代表・大野秀貴氏はそう振り返る。
地震発生時、店舗近くの住居で寝ていた大野氏は、大きな揺れを感じて飛び起きたという。安全を確保するためにすぐ屋外に出るも、停電のため周囲は暗闇。
住宅から海岸までは2kmしかない立地のため、まずは災害放送で津波情報を確認し、何度かの強い余震に耐えながら日の出を待っていたという。電話は混雑して繋がらず、家族や知人の安否確認はできなかった。
明るくなってから店舗・工場を確認すると、冷蔵庫や機械が倒れて様々なものが散乱していた。ただ、それ以上に差し迫っていたのが冷凍庫内の商品の保存方法だ。
「停電している間は当然ながら冷凍庫も使えません。しばらくは温度が低くても、すぐに温度が上がってししゃもが全てダメになってしまう。そんな時、いち早く電源が復旧していた苫小牧の冷凍庫が借りられることになりました。そこからは社員総出でししゃもをピストン輸送して難を逃れました」
カネダイ大野商店は、地震から6日後の9月12日には営業を再開。地震後にはむかわ町を応援しようと全国から通販での購入が相次いだという。
10月からはししゃも漁のピーク
ししゃもは、アイヌの神様が鵡川(むかわ)に柳の葉を流したとされる伝説からアイヌ語で「柳の葉の魚(ススハム)」と呼ばれ、その発音が変わり現在の呼び名になったとされる。
むかわでは平成7年に町魚に制定され、現在も神々へ豊漁祈る「シシャモカムイノミ」という儀式が行なわれるなど、地域の名産品としても知られている。10月からはししゃも漁が解禁され、例年はむかわ町に多くの観光客が訪れる。カネダイ大野商店の前にも1時間以上の行列ができることがあるそうだ。
「これからの時期、特に10月中旬のししゃもは脂がのって美味しいんですよ。毎年、北海道のあちこちからお客さんが訪れます。また今年は、恒例のししゃも祭が復興祭として開催されることが決まりました。漁が解禁されているこの時期に、現地でしか食べられないししゃも寿司もぜひ味わってください(大野氏)」
「身の回りのことよりも客を迎える準備を」
先述した大豊寿司は、実はむかわ町で最初にししゃも寿司を提供した店だ。39年前にオープンした同店だが、先代の大将が生のししゃもを使った握りを考案した。
店舗も半壊扱いで罹災証明書が発行されたが、地震から1週間後には営業を再開している。
「初日はネタが揃わないこともあって、お客さんには全て無料で食べてもらいました。特に告知をしたわけではないんですけど、地元の人や県外から来ていた人など40人ほどが来てくれました(大豊寿司の鈴木氏)」
生活は落ち着いたのかという質問に対しては「少しずつですね。(住居として使う)二階はまだ片付いてないし、柱の亀裂も本当はどうにかしないとなんですけど、まあ暇になったらやりますよ」と話す。
地元の寿司屋として、ししゃも寿司の発祥の店として、むかわ町に訪れる客を迎える準備は整えておきたいという。
「今は身の回りのことよりも、10月になったら増えるお客さんを迎える準備を優先したいですね。毎年、ししゃもを食べにたくさんの人が当店にも訪れます。まだ大変な状況の人はいますが、それでも町の多く人は少しずつ日常を取り戻しています。気軽にししゃもを食べに遊びに来てほしいですね」
この時期にしか食べられない、絶品のししゃも。むかわ町は新千歳空港から1時間ほど距離なので、北海道を訪れる際は少し足を伸ばしてみてはどうだろうか。