ハガキからTwitterへ ラジオにおけるコミュニケーションツールの歴史 - 西原健太郎
※この記事は2018年10月01日にBLOGOSで公開されたものです
秋らしい気候というより、雨が続いていて肌寒い日が続いているこの頃、みなさんいかがお過ごしでしょうか?私はというと、この10月から弊社の組織が若干変更になるのに伴い、会社の名刺を刷新すべく、そのデザインを詰める作業をしています。今年できたスタジオの地図を載せたり、海外で配る時もわかりやすいデザインにするなど、悩ましい日々を送っています。ところで名刺といえば、社会人が外の世界と繋がりを作るための、コミュニケーションツールでもあるわけですが、ラジオ番組にもリスナーと繋がるための、様々なコミュニケーションツールがあります。古くはハガキ・FAX、最近だとメール・Twitterなどがそれに当たります。そして、そのツールは時代に合わせて変化してきました。というわけで、今回はラジオ番組におけるコミュニケーションツールの歴史を、紐解いて行こうかと思います。
聴取者と番組をつなぐコミュニケーションツール
ラジオ番組における最も古くからあるコミュニケーションツールといえば、『ハガキ・手紙』です。これしか交流手段がなかった時代は、人気番組によっては週に100通以上のハガキが届いていました。今でもハガキで投稿するリスナーは一定数おり、番組宛に毎週ハガキが届きます。ハガキや手紙の一番の利点は、「リスナーが自由に伝えたいことを表現できる」という事だと思います。想いを文字で表現することも、イラストで表現することも、ハガキや手紙であれば簡単にできます。また、ハガキや手紙は、送る為にリスナーがお金を払わなくてはいけないということもあり、1通1通のハガキ・手紙に込められた想いが、パーソナリティに強く伝えられます。
余談ですが、放送局から放送されているラジオ番組は、2018年現在でも必ず番組の最後でハガキの宛先を読み上げます。これには聞いている放送局がどこの放送局なのか、リスナーに知ってもらう意図がある…ともいわれています。
ハガキ・手紙の次に現れたツールといえば、電話回線を使って送信する、『FAX』です。文字や絵を送ることができるという点は、ハガキ・手紙と同様なのですが、FAXの最大の武器は、速達性の高さ。番組を聴きながら書いた文章を、すぐに番組に届けることができます。これはラジオ業界的には画期的で、FAXの登場後、生放送番組ではリスナーにその場でテーマを与え、FAXで送ってもらう、『生FAX』コーナーが生まれ、ラジオ番組のスタンダードになりました。
FAXに続いて登場したのが、ネット回線を使って文章をやり取りする、『メール』です。FAX付き電話機は当時高額だったこともあり、実際に自宅にFAXがある世帯は、そんなに多くありませんでした。それに対し、メールはPCはもちろん、携帯電話(現在ではスマホ)からも送ることができました。しかも通信料はごく僅か。それにより、より多くのリスナーが簡単に、かつダイレクトに番組にメッセージを送ることができるようになりました。各番組も、こぞってメールアドレスを取得し、メールでメッセージを受け付けるようになりました。ハガキからメールへ。ラジオの投稿ツールは、より手軽なものに変化して行きました。
でも、ラジオ番組のコミュニケーションツールとしてメールが登場したのは、実はここ15年くらいのことだったりします。私が過去に書いた台本を見返していると、2000年代初頭は、まだまだハガキが全盛で、メールアドレスの記載がない番組台本もたくさんありました。今でこそ当たり前の『メール』ですが、ラジオの歴史的にはつい最近出てきた文化なのです。
Twitterの「実況」がラジオの生命線
そして現在、ラジオ番組におけるコミュニケーションツールのトップに君臨するのは何か…。それは、メールではありません。最近の10代の中には、LINEの送り方は知っていても、メールの送り方を知らないという人もいるのです。なので、現代のラジオ番組では、メール投稿を受け付けてはいますが、メジャーなコミュニケーションツールは別にあります。『Twitter』です。正しくは、Twitterを使った『実況』が、2018年のラジオ業界では、最もメジャーなツールになっています。『実況』というのは、やったことがない人に向けて説明すると、「番組を聴きながら、その感想をツールを使って書き込む行為」の事を指します。もともと実況という行為は、匿名掲示板で流行っていたのですが、その頃は実況という行為は、まだまだアンダーグラウンドな行為でした。物好きな一部の人がひっそりと行なっているだけだったのですが、それが一気にメジャーになったのは、Twitterの「ハッシュタグ」の存在が大きいでしょう。
ハッシュタグを使う事で、同じ話題を共有できるというTwitterの機能は、ラジオ番組の実況にぴったりで、今では番組側が「公式ハッシュタグ」を用意し、「ぜひ聴きながら実況してください」とアナウンスする番組もあります。ラジオは一人で聞くメディアから、みんなで感想を共有するメディアになっているのです。
では、これからのコミュニケーションツールは、何が主流になって行くのでしょうか?インスタグラム・TikTokなど、現在も様々なツールが生まれています。日本で最も普及しているコミュニケーションツールはLINEですが、LINEには実は、ラジオ向けに開発された「オンエア機能」という機能があります。これは、番組公式アカウントと友達になり、LINEのトーク画面に感想を書き込むと、番組側のPCにまとめて届くというシステムなのですが、現在使っている番組が少なく、あまり知られていません。
LINEの「オンエア機能」は使いづらい
私が担当している番組、文化放送「阿澄佳奈のキミまち!」では、このLINEのオンエア機能を使っているのですが、ツールとしてはまだまだ改善の余地があると思います。生放送中にリスナーの声を伝えるには、リスナーであるユーザーの投稿を一覧で表示し、流し見できることが大事なのですが、LINEのオンエア機能はその辺のインターフェースが使いにくく、現在番組では、「投稿を印刷する」という最もアナログな方法で、オンエア機能を運用しています。Twitterの実況の場合は、パーソナリティの前にタブレットを置き、そこにハッシュタグ検索をかけたものを表示すれば良いのですが…。この辺の機能は、ぜひ今後使いやすくしてほしいなと思います。「若い世代のラジオ離れ」が叫ばれるようになって久しいですが、若年層にラジオを聴いてもらうためには、交流ツールの進化も必要不可欠だと思います。そして、ラジオ放送が続いて行く限り、リスナーとの交流ツールは、時代に合わせて変化して行くべきだと私は考えます。