※この記事は2018年09月22日にBLOGOSで公開されたものです

岩崎友彦監督「クライングフリーセックス」を9月12日に鑑賞、エロバカバカしさの向こう側にある爆笑至福のゾーンに連れていかれた。これぞ『映画』だとのけぞった。その断片を知れば胸騒ぎ止まらなくなるか、呆れて溜息吐き出すか、どちらかだろう。

< 映画「クライングフリーセックス」STORY >

敵地潜入しミッション遂行の朝、諸事情抑えきれずに性交してしまい、ワケあって局部が抜けなくなってしまった男女コブラとナオミ。そんなふたりに秘密組織の銃弾が襲い掛かる。

コブラとナオミは全裸で下半身が立位・櫓立ち(=駅弁ファック)なスタイルでつながったまま、ハードな逃走劇に身を投じる。

果たしてふたりはこのピンチをいかにして切り抜けるのか? 

そしてセックス進行形な下半身の行方はどんな結末を迎えるのか!

下半身が常に結合しているというハンデ

ナオミ役にバイリンガル女優の合アレン、コブラ役に格闘家でイタリア系アメリカ人俳優のマイケル・ファンコーニ。ふたりの役柄は潜入ヒットマンで、全身はフィジカルに絞られ、股間結合したままのエロさと彫像的肉体美が拮抗し、いやらしさ、逞しさ、くだらなさ、それらが三位一体となってハードバトルを展開する。

メインディッシュはアクションだ。まず、つながりながら走って逃げる行為がいかにみっともないかを知らされる。そもそもつながりながら走るとこんなことになるなんて知りもしなかった。これまでどんなAVも林修先生もチコちゃんも教えてくれることがなかった未知の扉が開く。

そして、前代未聞な結合アクションの世界が繰り広げられる。

・敵に囲まれ銃口を向けられたらどうするか
・車で逃げる際に運転席がどうなるか
・二人まとめて縛られた状態からどうなるか
・刃が振り下ろされたらどう対処するのか

下半身がつながっているというハンデをいかにしてアドバンテージに反転させるか。そのアクションがことごとく、いい。なるほど、そうなるか、そうするか、そうしたか、唸りながら爆笑する。

アクション監督は熊王涼。上映後のトークショーで熊王がこのアクションは「つながりもの」というジャンルだと説明していた。確かに「つながりもの」というジャンルがアクションの世界にはあるだろう。だがそれは、手錠や皮紐などの拘束具でつながっていたり、ケガ人の手を引いていたり幼児を背負っていたり、納得のいくまっとうな理由ありきが前提のはずだ。

しかし、男女の下半身が結合したまま抜けないという、社会的良識の元に封印されてきた背徳の「つながりもの」に岩崎監督は目覚めてしまい、熊王涼が息吹をふきこんでしまった。覚醒したこの「つながりアクション」は爆発的に新鮮で、何だかホントにもう、身悶えた。これは、初ブルース・リーや初ジャッキー・チェンの衝撃に匹敵していい事件だ。

劇中の会話は、ほぼ全編が英語。日本語字幕が付く。メイン言語が英語になることでハリウッドアクションのパロディ感を醸しながら、作品を覆うナンセンスで無国籍な胡散くささを増していた。

上映時間15分の「愛おしい問題作」

製作予算は20万円。「カメラを止めるな!」の低予算(300万円)ぶりも耳に新しいが、20万円は低すぎる。主演ふたりがほぼ全裸なので衣装代がかからないとか、そんなコストカットがあったとしても、あまりに低予算過ぎる。

劇中の背景やカーアクションや被弾場面など、ほとんどのシーンを支えるのはチープなCG合成&アニメだ。これはテレ東で放送中の「テレビ野郎 ナナーナ」がハイエンドに見えてしまうぐらいのチープなCGであちこち安っぽいのだが、このユルさも笑いを底上げする要素になっている。

であるとしても、この映画を20万円で作りあげるなんて…。製作費の支出明細が公開されたらどんなに食い入って凝視してしまうだろうか。

上映時間は15分。短い。15分だから20万円なのか20万円だから15分なのか、この両論は離れがたく結合しているとしか言いようがない。

さておき、この15分というショートサイズがもたらすのは全編無駄のない疾走感だ。見始めたと思ったらあっという間にラストを迎え、エンディングでナオミが峰不二子よろしくな構図を見せて映画は終わる。期待値高め過ぎた「ミッション:インポッシブル フォールアウト」の焼け残りが、この「クライングフリーセックス」で完全燃焼してしまった。

上映時間15分の新作映画、その入場料は500円。この料金設定すらも愛おしい問題作にして大傑作だった。

52歳の監督による、下ネタ界の大きな一歩

あらためて思う。「全裸で、男女下半身つながったまま、戦う」という着想は、これまでに誰かが何処かで薄く妄想したこともあるだろう。だがこれを明確に作品化して世に放ったフロントランナーは「クライングフリーセックス」であること、そのあたりを少しだけ掘ってみる。

①「全裸で」何かする――。この「全裸〇〇」の発想はエロも笑いもすでにかなり出尽くした状態だ。こと「全裸で」で「戦う」に条件を絞った場合、アダルト映像界隈のヒロイン(女捜査官、女刑事、女スパイ)モノは「戦う」ことよりも、捕縛され全裸にされ辱めを受けるエロが主だ。また、コミック界隈でのヒーローが全裸で戦闘する場合、それまで結合していた女性はすぐに分離される。つながったまま戦うことはない。なぜならその行為はバカバカしいからだ。

②「男女下半身つながったまま」――、これは膣痙攣からの救急車搬送という都市伝説として、古くから更新されないままのエピソードだ。

やはり、「全裸で、男女下半身つながったまま、戦う」――、というアイデアの具体化は岩崎友彦監督による大いなる一歩、シモネタ界のジャイアント・ステップだ。

岩崎監督いわく「アイデア自体はけっこう若い時に思いついていたけど、これを若い時に作っていたら人格を疑われるだろうと思って(これまで控えていた)」そうだ。監督は1966年生まれ、現在52歳。こんな中二病と映画サークル病を二重にこじらせたようなアイデアを50歳過ぎてから作るモチベーションの若々しさに頭が下がる。

そして監督はすでに、このCFS(もはや略すが「クライングフリーセックス」)のバージョンアップを視野に入れ、ハリウッドでの「長編化」を(真顔と半笑いで)公言している。そして、あの男女に「さらに過酷で恥ずかしいミッション」を託すというから、もはや期待しかない。

CFSは新宿ケーズシネマで9月8日から一週間上映され、のべ868人の観客動員を記録した。熱心なリピーター(通称「セクサー」)も多数続出したという。今後は横浜ジャック&ベティ(公開日未定)、名古屋シネマスコーレ(10月6日~19日)で観ることができる。

8月末に観客動員100万人を突破した「カメラを止めるな!」に比べれば、868人がどういう数字かリアルだろう。CFSが投じた波紋はまだまだ微小だ。だが、この作品は世界に直結していると思う。クールジャパンの辺境から「ニッポンのエロバカバカしいはここまでの高みに到達した」と世界に向けて誇れる『映画』だ。

DISNEYにもMARVELにも川村元気にも作れない(作らない)、「クライングフリーセックス」というEE(Erotic Entertainment)の高みは、世界のEEマーケットを驚かせるだろう(と妄想)。あのカーチェイスを見たらジョージ・ミラー(マッドマックス 怒りのデス・ロード)も「イワサキニヤラレタ」と頭をかきむしるだろう(と妄想)。

公式サイト内にわずかな予告編がある。15歳以上の方、気を確かにしてからどうぞ。

<追記>
主演の男女、合アレンとマイケル・ファンコーニは、実生活でもパートナー同士であり、この作品の撮影後に入籍を果たしたそうだ。素晴らしき哉、結合。