「いつまでもいい時の自分に引っ張られていると、次に進めない」新日本プロレス・棚橋弘至が語る40代の覚悟 - BLOGOS編集部

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※この記事は2018年09月20日にBLOGOSで公開されたものです

新日本プロレスのエースとして、長年に渡りプロレス界を牽引して来た棚橋弘至選手。この夏には3年ぶりのG1クライマックス王者に輝き「棚橋復活!」の見出しが踊ったのは記憶に新しい。

そんな棚橋選手の初主演映画「パパはわるものチャンピオン」が9月21日(金)に公開。プロレスラーとして、父として、スクリーンから何を伝えるのか。男・棚橋弘至に話を聞いた。【取材:田野幸伸・蓬莱藤乃 撮影:弘田充】

棚橋:どうも、100年に一人の逸材!棚橋弘至です!

-まずはG1クライマックス優勝、おめでとうございます。

棚橋:あ、そこからですか(笑) ありがとうございます。

-初主演映画の公開を控えたこのタイミングで3年ぶりのG1優勝。本当に棚橋さんは持っているなと思いました。

棚橋:責任感ですね。いい意味でプレッシャーになりました。プロレスでちゃんと結果を残して、さらに主演映画も控えていて…、これってサイコーにカッコよくないですか?

-現実がそれこそ映画のようです。

棚橋:本当に一番いい流れで来ているなと思いました。今から映画のタイトルを『パパはG1チャンピオン』に変えてもいいですね。G1のGは僕が演じた悪役レスラー・ゴキブリマスクのG!って、こんなこと言ってると、いつか怒られます(笑)

-映画公開が控えている中、G1でカッコ悪い負け方はできないという思いはありましたか。

棚橋:プロレス以外の仕事が増えていく中、イベントに来てくれたファンの方に「プロレスも頑張ってくれ」と言われたことがあって、それがグサッと胸に刺さっていました。

ファンの方が会場に応援に来てくれるのは、棚橋に活躍してほしいし、勝ってほしいから。今回は映画の仕事が忙しかったこともあるけど、それを言い訳にしちゃだめだと思ったことがG1の優勝につながったんだと思います。

いつの時代にもある世代交代の波

-映画予告編にもある「マスクを取ったー!」というシーンを見たときに、三沢光晴さん(2代目タイガーマスク)が試合中にマスクを脱いだときのことが思い浮かんできました。

棚橋:川田利明さんがマスクのヒモを解いてね、実況席が「何やってんだ!」って慌てて。

-棚橋さんは2004年に三沢さんとGHCタッグ王座のベルトをかけて対戦しています。

棚橋:日本武道館でした。三沢・小川組、こっちは永田・棚橋組。

-ちょうどあの時の三沢さんと今の棚橋さん、41歳で同じ年になられているんです。まさにレスラーとして脂がのった年代になってきましたね。

棚橋:世代間の闘争は、いつの時代にもある。今はオカダの台頭があって内藤(哲也)の人気が出てきて、外国人選手のケニー(・オメガ)も上に上がってきて、それは新日本プロレスにとってはすごくいいことです。

-この作品では世代交代でヒールのマスクマンになった「元エース」を演じています。実際のリングでも世代交代を間近で見ていて、映画と現実とがオーバーラップすることもあったと思いますが、主人公の大村という男をどういう気持ちで演じられましたか?

棚橋:主人公の大村孝志はエースと呼ばれてきましたが、ケガを負ってマスクマンをやることになりました。でもエースの記憶というのは強い。どうしても今の自分を受け入れられない。時代が変わっていく中で、今の自分を受け入れられるかどうか、というのが実はこの映画の隠れたテーマだと思うんです。

いつまでもいい時の記憶(=自分)に引っ張られていると、次に進めない。大きくは父と子、家族の物語ですが、僕らの世代が見ると、今の自分を受け入れて、次に進めるのか?という裏テーマも大村という男の姿を通して感じることができると思います。

今の自分には捨ててきたものしかない

―今の自分を受け入れるために、捨ててきたものはありますか。

棚橋:捨ててきたものしかないです。捨てることによって変わってきたと思っています。僕は昔、藤波辰爾さんのファンで、クラシックなレスリングのスタイルが好きだったのですが、それでは万人受けしないと思ったので、誰にでも分かるようなプロレスをやってきたつもりです。自分の好きだったプロレススタイルを捨てたことがまずひとつ。

それから練習・試合・プロモーションでここ10年くらいほぼ無休でやってきたので、家族との時間を犠牲にしてきました。久しぶりに家に帰ると、子どもが小さい頃はもう立っていたとか、もう話すんだとか、びっくりすることだらけ。もっと写真やビデオをいっぱい撮っておけばよかったなと後悔しています。

-映画のようにお子さんの運動会や学校行事に参加する機会は?

棚橋:学校の旗持ち当番や絵本の読み聞かせをやりました。でも、『旗持ち当番、やりました』とか、僕はいちいちツイートするんです。そういうことをアピールしながらベストファーザー賞を獲りにいって、実際に2016年に頂きました! 獲りに行って本当に獲った最初の人物です!

プロレスラーの世間からのイメージって、デカいとか怖いとか大食いとかじゃないですか。ベストファーザー賞は家庭的で優しくてという真逆の印象。その相反するふたつが結ばれた瞬間です。レスラーのイメージをまたひとつ良くしてしまいました(笑)。プロレス界全体が僕を表彰してもいいですよね?

-ベスト・ファーザー賞を意図的に獲りに行くのもすごいですし、ホントに獲っちゃうのもすごい(笑)

棚橋:実は絵本の読み聞かせをやっている中で、今回の映画の原作となった絵本「パパはわるものチャンピオン」とも出会っていたんです。

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-絵本に出てくるスター選手は棚橋さんそっくりですよね。

棚橋:この「ドラゴンジョージ」ってスター選手は俺がモデルじゃん、って思いながら読み聞かせしていました。

-それがまさか悪役のゴキブリマスクの方をやることになるとは…?

棚橋:思わなかった! ゴキブリマスクを実際に演じながら、10年前だったら棚橋がドラゴンジョージでもいいかもしれないけど、新日本プロレスのリング上の流れと絵本の中、どちらも時は流れたのだなと思いました。ちなみに、場外からリングインする時のゴキブリみたいな動きは、僕の案が採用されたんです。

いつまでもプロレスラーと名乗っていたい

-主人公はケガをして一線から引いても大好きなプロレスを続けたいという気持ちで頑張っています。いつまでプロレスを続けるべきか?現役にこだわるべきかというのもひとつのテーマだったのではないでしょうか。棚橋さんの中では、現役はどこまでとお考えですか。

棚橋:ケガが続いた時は、どこまで現役生活を出来るかなとネガティブな気持ちにもなったりしましたが、生涯現役でいいかな、いつまでもプロレスラーと名乗っていたいなと今は思っています。

-鈴木みのるさんは50歳で今回のG1に出場されていました。藤原組長(藤原喜明選手)には50歳からがレスラーとして脂がのって来る時期だと言われたそうですが。

棚橋:『週刊プロレス』に藤原組長のコーナーがあって、僕が誌上で質問したら『レスラーは50から脂がのって来るんだ』って。それを見て「そっか、俺はまだ脂がのってなかったんだな」と、反省しました(笑)

-じゃぁファンはまだたっぷりプロレスラー棚橋弘至を楽しめますね。

棚橋:まだっていうより、これから全盛期じゃないですか。棚橋弘至がボーナスタイムに入ってきたかなって感じです。

-いちプロレスファンとしては、今現在のプロレスが映画として残ったということに、とても価値を感じます。棚橋さんはどんな思いでプロレス界を引っ張り続けてきたのでしょうか。

棚橋:プロレスラーになって有名になる、という思いがあって、テレビに出るというところまではイメージしていましたけど、まさか映画の主演の話が来るとまでは思い描いていませんでした。頑張ってきたことがこういう形になったのはすごくうれしいです。

撮影中、真壁(刀義)さんからは『ここまで来たな』という言葉がありました。真壁さんはつらい時代でも常に前向きな言葉で選手全体を引っ張ってきた方なので。プロレス界が盛り上がらないと映画までたどり着けないですから。

そしてもう一つ。今回はプロレスファンも見に来て下さると思うんですけど、プロレスを見たことのない方が映画館に来られて、迫力満点の試合のシーンを見てくれる。この映画がきっかけでプロレスにも興味を持ってもらえればと思います。

プロレスというジャンルがあって、映画というジャンルがあって、その垣根を越えていく。プロモーションをずっとやってきて、そのふたつを繋げられるのが一番嬉しいことです。

早朝パイルドライバーはダメージがでかい

-プロレスシーンの撮り方も特徴的でした。テレビでは見られない角度からの映像もたっぷりあります。撮影する上で苦労した点は。

棚橋:テンションを維持するのが本当に大変でした。タイトなスケジュールだったので朝7時からプロレスシーンの撮影があったんです。技ごとの撮影で、例えば「用意、スタート!」でパイルドライバーを食らうんです。アドレナリンが出る前に技を食らうとこんなに痛いんだってビックリ。いつもよりもダメージが大きい。『元気が出るテレビ』の早朝バズーカならぬ早朝パイルドライバーですよ(笑)

-撮影現場では主演の棚橋さんだけ椅子が豪華だったりするんですか。

棚橋:僕は椅子に座ったことないです!

-高倉健さんスタイル!

棚橋:撮影中はいろんなところにちょっかいを出しに行っていました。座長なので演技で引っ張りたかったんですけど、そういうスキルはないので、スタッフさんに声をかけたり、カメラをイジリにいったり、エキストラさんと交流したりして、現場の空気を明るくする役割というか。

-まさに座長の仕事ですね。

棚橋:そうでしょ!とにかくわかんないことは一生懸命やるしかないんだけど、いつもやることが正解なんです。天に愛されていますね。

筋肉は死ぬまで発達し続ける

-プロテインを飲むシーンもたくさん出てきます。普段の生活もあんな感じですか。

棚橋:タンパク質の補給は2~3時間おきです。そうしないと血中アミノ酸濃度が下がって来て、せっかくつけた筋肉が分解されてしまいます。人間の体は脂肪をエネルギーに使う前に筋肉を分解してエネルギーにしているからなんですね。そういう状態をカタボリックと言って、筋肉が分解されていく状態。どうしたらカタボリックにならないかというと、常に空腹状態を作らない、血中アミノ酸濃度を一定にしておくと、アナボリックという筋肉が合成される状態になるんです。それで……

(中略)

あと2時間くらいこの話します?

-いえ、後ろで映画担当の人が睨んでるんで…。この夏は子どもと一緒にプールに行ったんですが、下っ腹が完全におじさんになっていて反省しました。筋トレは40歳過ぎてからでも効果あるんでしょうか。

棚橋:それは心配ご無用ですよ。筋肉は年齢に関係なく発達するんです。トレーニングを始めるのに早い遅いはない。30歳から始めて40歳でボディビルのチャンピオンになる人もいますし、筋肉というのは死ぬまで発達し続けるものなんです。今すぐAmazonで棚橋弘至の本『逸材☆BODYのつくりかた』を買えば解決します!

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親は覚悟を何度も見せていかなくてはダメ

-話を映画に戻しましょう(笑)。色々なことがあり、息子の前でマスクを取る主人公、父親としての葛藤も描かれていました。

棚橋:寺田心くんが演じた息子の祥太の『悪役レスラーをやって嫌われてまでなぜプロレスラーを続けないといけないのか』という問いの答えとして、父親の孝志が覚悟を見せるシーンがいくつもあるんですが、親が覚悟を見せるというのは1回じゃダメなんです。常にこういう気持ちで生きている、そういう覚悟を何度も見せていくのが象徴的だなと思って演じていました。そういうところも期待して見て頂いていいと思います。

―映画はまだ1本目、ここからですね。

棚橋:世の中はプロレスを実際に見たことのない人がほとんどだから、今後の広がりには無限の可能性を感じるんです。金曜の夜8時にテレビでプロレス中継があった時代には、日本中のほとんどの方がプロレスを見たことがありましたが、現在はそういう状況ではない。でもそれを逆手にとって、今こそ僕たちのビジネスチャンスだと発想を変えていかなきゃいけない。

-「プ女子」と呼ばれる女性ファンもたくさん増えました。新日本プロレスはブシロードさんが親会社になって、プロモーションにはアミューズさんも入ってきて、裾野を広げる体制は整って来ていると思うのですが。

棚橋:いいタイミングでした。それは選手の充実があって、リング上の充実があって、これは面白い状態ですよという下地があってのことだと思います。新日本はいつ世に出てもいい『READY』の状態。いい援軍が現れてくれたと感じています。

-新日本プロレスは海外でも人気を広げつつあります。棚橋さん自身、今後の野望は。

棚橋:海外への輸出に関しては、日本で行われているプロレスを変えるのではなく、そのままの新日本を自信もって出していきたいなと思っています。

公開に向けてこうやって取材していただいて、そこに棚橋弘至という文字が一面に出てプロレスというジャンルがあって、映画からどんどん広がっていくと思います。これはまだまだ、棚橋のボーナスタイムが続きそうです。これはやばいですね!

予告編



映画「パパはわるものチャンピオン」

9月21日(金)全国ロードショー
公式サイト:www.papawaru.jp

出演:棚橋弘至、木村佳乃、寺田心、仲里依紗、
オカダ・カズチカ、田口隆祐、
真壁刀義、バレッタ、天山広吉、小島聡、永田裕志、中西学、KUSHIDA、
後藤洋央紀、石井智宏、矢野通、YOSHI-HASHI、
内藤哲也、郄橋ヒロム、
淵上泰史、松本享恭、川添野愛、
大泉洋(特別出演)、大谷亮平、寺脇康文