※この記事は2018年09月20日にBLOGOSで公開されたものです

「副業で使う名刺にドラえもんやルフィなどのキャラクターはやめた方が良い」そんなつぶやきがTwitter上で話題になっている。ツイートしたのは、ITビジネス支援などを専門に扱う弁護士の杉浦健二氏だ。こういった法律は「生きるうえで必要な知識」と語る同氏に、今回のツイートで警告していた内容や著作権を知ることの重要性について伺った。【取材:BLOGOS編集部 島村優】

ビジネス面での損失と法的リスク

話題になっているツイートの意図について聞くと、杉浦弁護士は次のように説明する。

「何度かそういう名刺を見たことがあるんですけど、副業を始めたという人が誰にも相談せずに名刺を作って、著作権に違反してしまうようなケースがあるんですよね。例えば、漫画のキャラクターであれば出版社等の著作権者から許諾を得ていれば問題ないんですけど、そういう例はまずありません。

こうした名刺を使うことには、法的なリスクももちろんありますが、ビジネス上マイナスになりえますよ、ということが伝えたかった内容です。名刺というのは、自分のビジネスや人となりを知ってもらうために渡すものだと思います。そこで渡された名刺に自分で印刷したキャラクターが入っているときに、相手がどう思うか。著作権を知らないんだなと思われて得することはありません」

最近は著作権者からきちんとライセンスを受けたサービスとしてイラスト入り名刺も販売されているが、こうした名刺が適法であることに疑いはない。ただ新規ビジネス支援に携わる機会の多い杉浦弁護士は「それでも使用はオススメしない」とする。

「法律的には適法ですが、どう見られてしまうかわかりませんよね。自分のビジネスが、そのアニメや漫画のキャラに関わるものだったり、プライベートでの自己紹介カードとして使ったりする場合には良いと思います。ただ、例えば弁護士である私が特定のアニメのキャラクター入りの名刺を使って自己紹介したとすれば、何の脈絡もないキャラクターが入っているとやっぱり相手は違和感を持ちますよね。なぜ自分やビジネスを知ってもらう場で、自分が好きなキャラクター入りの名刺を使うんだろうと」

キャラクター名刺は、著作権を侵害しているケースも多いという。

「漫画のイラストをそのまま名刺に載せることには問題があります。漫画、アニメのキャラクターをそのまま印刷して制作した名刺は複製権侵害として著作権法違反になってしまいます。またキャラクターのイラストを自身で描いて似せたような場合も、ケースバイケースですが侵害になる可能性があるでしょう。

作中のセリフについては、その文言に創作性があるかどうかが問われます。短い字数だったり、そのキャラクターだけではなく一般的に用いられるような例は創作性が認められず著作物ではないとしてセーフですが、よく言われる例として『国境の長いトンネルを抜けると雪国であった』程度になると微妙になってきます」

パロディでも著作権侵害は成立する

日本には、パロディや二次創作を楽しむ文化があるが、こうしたものと著作権の関係はどのように考えれば良いのだろうか。

「アニメ関係などでよく行われるパロディや二次創作は、作者や出版社などの著作権者からすると著作権侵害として法的には差し止めを請求できるケースが多いです。ただ一方で、ほとんどの二次創作製作者の方は原作へのリスペクトがあり、商業目的でもなかったりということで『パロディ文化』として黙認されてきました。

二次創作をする側としては、本当は著作権者側が禁止すると言えば禁止になってしまうことは知っておいた方がいいですね。同人誌『ドラえもんの最終回』の例が有名ですが、このケースは最終的には出版社や作者から著作権侵害の通知を受けて削除されました。

名刺も同じで、著作権者がきちんと侵害通知をしたら使用できなくなる例がほとんどだと思われます。著作権者が実際に削除請求までするかどうかという点はありますが、それでも有名なキャラクターを無許諾で名刺に印刷して使用することが違法であることは間違いなく、その名刺を渡した相手にもポジティブな印象を与えないことは間違いないのではないでしょうか」

著作権法は「生きる上で必要な知識」

著作権について、杉浦弁護士は「生きるうえで必要な知識」と強調する。

「著作権については学習指導要領でも触れられていますが、現場の先生も忙しくやっぱり後回しにされてしまいがちです。ですが、著作権について知らないと、誰にでも起こりうるリスクがあるんです。

例えば今はブログやTwitterをやっている人が多いと思います。何か画像を使いたいな、と思って検索サイトで『著作権フリー』の画像を検索して使うことってありますよね。でも『著作権フリー』で検索して出てきた画像が、実際に著作権フリーであるかどうかは全く別の問題です。

過去には、ネット上で見つけたフリー素材を利用したところ使用料を請求され、20万円を支払ったという裁判例もあります。この時に『著作権フリーと検索したら出てきた画像だったんです』という主張は裁判所では通用しません」

ビジネスシーンでも著作権への配慮を欠くと損をしかねない場面があるようだ。

「会社のロゴやキャラクターをクリエイターに発注して、完成品に対価としてお金を払うことがありますよね。こうした場合、お金を払っても著作権はまだクリエイターの側に残っている。そういう場合は代金支払いと同時に著作権を譲渡してもらう、著作者人格権を行使しない等と契約で定めておくことが必要になります。これらの契約をきちんと定めていなかったために、過去にゆるキャラでも裁判となった例がありました。

大切なのは著作権について日頃から知っておくこと。自分が知らなかったとしても、取引先や名刺を交換する相手は教えてくれません。著作権を知らないことで損をしてしまわないように注意しましょう」

プロフィール

杉浦 健二(すぎうら けんじ)
STORIA法律事務所 東京オフィス所属(第一東京弁護士会)
弁護士法人STORIA共同代表
人工知能学会 会員
ライセンス協会 会員

新規ウェブサービスやITビジネスの立ち上げの法的サポート、
コンテンツビジネスにおける契約面の整備を主に取り扱う。
官公庁、一部上場企業でのビジネス法務研修、高校大学での著作権に関する講演多数。