※この記事は2018年09月09日にBLOGOSで公開されたものです

北海道を最大震度7という巨大地震が襲った。

多くの地域で停電が発生し、都市機能も麻痺。ライフラインが保たれるか危うい状況で、北海道を中心とした店舗展開を行う「セイコーマート」が、店を開き、温かい食事を提供していたということが話題になっていた。(*1)

セイコーマートの店内調理ではスチームコンベクションオーブンを利用しており、これがガス調理であることから、停電の最中でも調理ができたということらしい。(*2)

ということでツイッター上で「セコマは神」などと持ち上げられていた。

これでふと思い出したのは、近畿地方を6月18日に襲った大阪府北部地震の際、自衛隊がコンビニの商品を配送したという話だ。

反対派は「まだ支援物資が必要なときに、自衛隊が私企業の商品を運ぶのはおかしい」と批判した。一方で賛成派は「コンビニという日常インフラが機能すれば、被災者は安心する」と賛同した。

確かに災害などで人々の生活が混乱しているときに「いつでも商品があるコンビニ」が近くにあるだけで、利用者は安心をするだろう。実際、こうした災害が起きたときに最も混乱を引き起こすのは「物資が足りないと多くの被災者が思い込むこと」だ。

オイルショックでのトイレットペーパーの争奪という、歴史の教科書上の出来事を思い出さずとも、阪神淡路大震災や東日本大震災など、物資不足で苦労した被災者は多かったことだろう。

そうした意味で、日常生活を支えるコンビニが機能することは、とても重要であると言える。コンビニは災害時に最も身近な社会インフラとして機能するのだから重要である。

僕もつい、そう考えてしまいそうになった。

と、1つ重要なことを思い出す必要がある。

では、多くの人たちが被災し、家が壊れた人もいれば、家財道具がぐちゃぐちゃになった人もいるなかで、コンビニを開いて、商品を並べ、店内調理をして、お客さんへの対応をしているのは誰だろうか?

それは、そのコンビニに通える範囲に住む、一般の人である。つまりコンビニ店員もその地域全体が被災しているのだから、大抵の場合は同じ被災者なのである。

自衛隊やレスキューや警察などはもちろん、役所の職員なども、こうした震災時に家をほっぽらかしても仕事に就く必要があるし、そうした規則になっているはずだ。私企業でも、正社員でそれなりの立場の人であれば、災害時に職務に就く規約になっているのかもしれない。

しかしコンビニ店員に、そんな規約はない。規約はないが店舗が開いている以上、働かなければならない状況に追い込まれる。それは店長や他のバイトだけが頑張っている中で、自分だけわがままを言うわけには行かないというのもそうだし、そもそもバイト代が入らないと生活をしていけないということもある。

そして「コンビニが復旧した!神!」みたいなことがTwitterなどでは囁かれても、実際には十分な商品もなく、客も震災で疲れ切っており、中には被災のいらだちを店員にぶつけるものまでいる。

正社員であれば、残業代が支払われる。震災後に市職員の給料が跳ね上がり、議会などで問題視されることも多い(*3)。自衛隊は、最初から給料にみなし残業が含まれる代わりに、実際の労働時間と比例して給料が跳ね上がることは無いようだ。

一方で、コンビニバイトのような時給職は、働いた分だけ時給が支払われる。本来は法定労働時間(一週間40時間)をオーバーすればそれにプラスして残業代も支払われるはずだ。

しかしコンビニバイトの場合は、オーナーが無知だったり、また知ってはいるが自らの利益のために残業代などを支払わないケースもありうる。

そしてそもそも残業代が支払われたとしても、残業代は元の賃金の25%増しだ。

仮に普段は時給1000円、1日8時間、月22日勤務の店員が、災害時に月の半分の11日、8時間*2シフトで16時間働いたとする。8時間22日でのバイト代が8000*22で、176,000円。増えたシフト分をすべて残業と見なすと8000*11*1.25で、110,000円。両方合わせて286,000円にしかならない。88時間の残業をこなしたところで、最初から賃金の低いバイトの給料は、決して高額にはならないのである。ちなみに過労死ラインとされる残業時間は、月80時間と言われている。

ましてやコンビニを開き続けなければならないコンビニのオーナーには、当然、残業代も出ない。オーナーだから自己責任だ。 震災などの特殊な状況でバイトも出勤できないとあれば、自らが働き続けるしか無い。大雪で交通機関が麻痺する中、長時間労働で働き続け、本部に一時閉店を要請しても断られ、妻が倒れても救急車に同乗できず、50時間一睡もできなかったケースなどもあるという。(*4)

災害のときにはみんなが協力しあう必要がある。

自衛隊、レスキュー、警察、電気やガスや水道、市役所の職員。そしてコンビニを開いている人たち。みんな一生懸命に働いてくれてありがとう。そんな感謝の言葉を見ることもある。

しかしその「みんな災害でも一生懸命に働いている」ことに対して、「最終的な給料」という待遇には、雲泥の差が発生している。その差は「みんなありがとう」という大雑把な感謝の言葉をもって、一括りに精算してしまっていいような差なのだろうか?

大阪府北部地震で自衛隊がコンビニ商品を配送したとき、僕は「店を開けずに、その商品を積んできたまま売って、レジも自衛隊がやればいいのに」と考えた。つまり配送が成立してしまうことで、店員も被災しているにもかかわらず、コンビニが店を開き続けなければならない状況に追い込まれることを心配したのである。

もちろん、オーナーにとっては「店を開かなければ売上が入ってこないのだから、店を開いたほうがいい」と考える事もできる。またバイトも「バイトしなければ時給が得られないのだから、店が開いていたほうがいい」と考えがちである。

しかしそれは「震災という状況を経ても、生活に必要な社会保障が十分されていない問題」から目を逸らしているだけのことである。

コンビニエンスストアを運営する本部は「コンビニは社会インフラである」と豪語する。(*5)

しかし、コンビニをインフラとして認識した結果、インフラを維持するために実際に被災してもなお安い賃金で働かざるを得ないのは、本部の人間ではなく、そのような意思決定からは一番遠い場所にいる、現場のコンビニ店員なのである。

災害時に人を守るインフラを支えているのが、災害時にもまともな社会保障を得られない、つまり守られていない人たちであるというのは、一体何のジョークなのか。

本当に私達の社会に必要なのは、震災時にまで被災者が働き続けなくてもいいようなシステムの構築である。

災害にあったら、まずは仕事のことはさておき、自分の身の回りの必要なことを行う。そしてそれが十分に落ち着いた頃、仕事に復帰する。そのくらいが仕事と人との適切な距離感だろう。

災害時までもその人自身の身の回りのことをさておいて、労働することを美徳と褒め称えかねないような、安直な感謝の言葉は、コンビニ業界に対してはそぐわないと僕は考えている。

*1:【北海道で最大震度7】セイコーマートの営業方法が神すぎると話題(しらべぇ ニフティニュース)https://news.nifty.com/article/item/neta/12189-20161783520/
*2:北海道民の胃袋を支えたセイコーマートの「ホットシェフ」とは(Jタウンネット ライブドアニュース)http://news.livedoor.com/article/detail/15272754/
*3:常総市職員:残業300時間超も 鬼怒川決壊対応で(毎日新聞)https://mainichi.jp/articles/20160122/k00/00m/040/026000c
*4:豪雪下のコンビニ「セブンが営業強要」 福井のオーナー訴え(東京新聞)http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201804/CK2018041702000257.html
*5「社会インフラとしてのコンビニエンスストア宣言」について(日本フランチャイズチェーン協会)http://www.jfa-fc.or.jp/misc/static/pdf/090528.pdf