自殺したい人たちに向き合い続けて15年、僧侶の根本一徹さんが想いを語る「悩むことはある意味とても大切なこと」 - BLOGOS編集部
※この記事は2018年09月04日にBLOGOSで公開されたものです
神奈川県座間市のアパートで10~20代の男女9人が遺体で見つかった事件が2017年に起きた。被害者と犯人をつないだのは被害者によるTwitter上での「死にたい」という自殺願望のつぶやき。今も毎日のように「生きているのが辛い」「誰か助けて」――との言葉であふれかえっている。
そんな彼ら・彼女らをひとりでも救おうと2004年から自殺防止の活動を続けているのが岐阜県関市・大禅寺の僧侶・根本一徹さん(46)だ。根本さんは「悩むことはある意味とても大切なこと。それは、真正面からものごとを受け入れ、なんだろうと煮詰めていった結果だからです」と自殺したいと悩むことは悪いことではないと強調する。そして、「だからこそ、『社会も、世の中の目もどうでもいい』と自殺することまで悩みぬいた人間は、転ずると強い」と語りかける。根本さんに話を伺った。【取材:石川奈津美】
岐阜県関市の寺で、自らの葬式を疑似体験するワークショップ「旅だち」が開かれた。集まったのは自殺志望者ら約10人。参加者はそれぞれ、この世を去るときに残すものや大切な人などを小さな紙片に書き込んだ後、ひとつずつクシャっと丸めて捨てていく。「自分の体」「愛情」――。ワークショップの終盤、自分の手元に残った最後の1枚を捨てるよう根本さんが指示した。全員が捨て終わると根本さんが静かに告げる。「全ていま、失ってしまいました。これが死です」。
このワークショップは自殺志願者らに「死ぬこと」を感じてもらおうと、根本さんが考案し14年前に始めたものだ。「情報があふれかえるこの現代では、気付かないうちにノイズに溺れてしまいます。そうしたとき、『削る』という作業がとても大切です。すこしずつ削っていくと最後に残ったとき、自分にとって一番大切なものが何だったのかが分かる。そしてそれは、意外なことにとても身近なものなんです。それがわかると、その後の人生で迷ったとき、立ち返ることができるようになります」と根本さんは説明する。
若者の死亡要因「自殺」がトップ
「自殺大国ニッポン」といわれる日本では、現在、若者による自殺が深刻な問題となっている。厚生労働省によると、2017年の自殺者数(速報値)は全国で2万1140人とピーク時の2003年から約6割まで減少したが、20歳未満は昨年から増加した。また、先進国(G7)内でも若者(15~35歳)の死亡要因は、他国が「事故」なのに対して日本のみが「自殺」がトップになっている。昨年10月に神奈川県座間市で9人の遺体が見つかった事件では被害者が自殺志望をSNS上でほのめかしていたことが社会に大きな衝撃を与えた。
根本さんは「自殺者は減少傾向だと報道されていますが、一方で行方不明者は7~8万人、そして自殺か病死か分からない人が年間15万人亡くなっているという数字も見落としてはいけません」と指摘する。
身近な人たち3人の死
2004年から自殺志願者の相談に乗り続ける根本さん。活動の原点となっているのは、若くして亡くなった3人の身近な人たちの自殺だ。小学5年生のときにかわいがってくれていた母の弟が亡くなり、中学生の時には同級生が、そして高校のバンドメンバーだった仲間が卒業後に自らの命を絶った。根本さんは「どうして彼らが死を選んだのか、いまもその答えを探しつづける日々です」と話す。
根本さんのもとを新たにたずねる相談者は今でも週に5~6人にのぼる。根本さんは相談者を寺に迎え入れ、納得がいくまで話を聞き、面談後にもメールや電話で相談に応じる。「いま飛び降りようとしているけど顔が浮かびました」とSOSの連絡が届いたときには、たとえ遠方でも相談者のもとまで駆けつけることもあるという。根本さんは「本人たちには必ず、『自殺しようと思ったら、死ぬ前に俺に電話してこい。じゃないと呪うぞ』と脅しています(笑)。悩みを聞き一緒に解決策を考えた仲間が何も言わずに去っていったら悲しいですから」と話す。
自殺まで悩みぬいた人間は転ずると強い
自殺の要因は健康問題に次ぎ「経済・生活問題」とされるが、根本さんは、「相談に来る人には経済苦が一番の理由ということはまずありません」と断言する。「失業などがきっかけかもしれないが、結果として社会から孤立してしまうことに一番根本的な理由があります。街中には多くの人があふれていても、誰ともわかちあうことができないという孤独。『どれだけがんばっても満たされない』という虚無感が、人を自殺しようという衝動に追い込んでいくのです」と話す。
ひとたび学校や会社などのコミュニティに属せば急激に「友達」が増えたり、会ったことがなくても恋愛や結婚関係になって毎日やりとりができたりーー。SNSやインターネットの普及によって、そんな社会が一般的になりつつある。「むしろ実社会の方がバーチャルな世界になってきています。ただ、インターネット上では相手が必要なものになっていく一方で切れてしまったらもう所在すらわからない、という怖さがある。ある日突然関係を断絶され、喪失感や孤独感に陥ってしまうのです」(根本さん)。だからこそ、根本さんは時間がかかってでも直接、相談者と会うことをなによりも大切にしている。
根本さんは語る。「悩むことはある意味とても重要です。それは、真正面からものごとを受け入れ、なんだろうと煮詰めていった結果だからです。だからこそ、『社会も、世の中の目もどうでもいい』と自殺することまで悩みぬいた人間は、転ずると強いと思っています。胸を張って、堂々と力強く生きていける。これからもそういう人たちが光を見つけ、変わっていく瞬間に立ち会っていけたらいいなと思っています」
【根本一徹】
1972年1月21日東京都生まれ。臨済宗妙心寺大禅寺住職。98年に出家し、04年より自死防止活動を開始。07~18年には毎年、国内や海外の国際会議で『世界仏教徒会議日本代表』として登壇。近年は『The New Yorker』にて活動が掲載されるなどブログやSNSを通じたオープンな活動が着目され、国内外のメディアから注目を集めている。
大禅寺では「もし自分が死んでいなくなるとしたら」をテーマとして、模擬葬儀体験のワークショップも行なっている。https://daizenji.business.site
根本さんの活動を3年間半追ったドキュメンタリー『いのちの深呼吸』 9月8日(土)よりポレポレ東中野にて公開!