安室奈美恵とタメ年の俺氏が「オザケンって当時の女子高生に流行ってなかったっスよね?」と映画『SUNNY 強い気持ち・強い愛』の大根仁監督に聞いてみた - BLOGOS編集部

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※この記事は2018年08月31日にBLOGOSで公開されたものです

本日8月31日に公開初日を迎えた映画「SUNNY 強い気持ち・強い愛」。1990年代のコギャルブームを当時のJ-POP満載で描いた"笑って泣ける青春音楽映画"だ。試写会でこの作品を見た帰り道、懐かしい気持ちに包まれるとともに一つの疑問が生まれた。そこで「モテキ」「バクマン。」などでも知られる大根仁監督に直接質問をぶつけてみた。【取材:田野幸伸 構成:蓬莱藤乃 撮影:弘田充】

田野:私は昭和52年(1977年)生まれで、安室奈美恵さんと同じ学年。今回の映画『SUNNY 強い気持ち・強い愛』の主人公たちとドンピシャの世代です。当時をよく知るからこそなんですが、小沢健二さんの楽曲『強い気持ち・強い愛』をタイトルに持ってこられたのが意外でした。1990年代にあの歌を女子高生たちが歌っていた記憶がなくて。

大根:歌ってないですよ~。えぇ、そうです、歌っていません。
でも当時、テレビの制作現場で過ごしてきた俺にとって、あの時代を象徴する二大アーティストが安室(奈美恵)ちゃんとオザケン(小沢健二)なんです。90年代はいろんなくくり方があると思いますが、ひとつはフジテレビの時代だった。

『HEY! HEY! HEY! MUSIC CHAMP』は象徴的でした。あの中に90年代以降のいろいろな価値観が詰まっていると感じています。ダウンタウンという、時代を牽引した芸人がMCを務めて、ゲストの頭をバンバン叩く。あの形はそれまでになかったものでした。“ツッコむ”とか“ぶっちゃける”という価値観が出来上がった時代なんじゃないかと。

あそこによく出ていたアーティストたちがひとつの基準となっていて、その中でも安室ちゃんとオザケンというのは非常に大きい存在だったと思っています。

安室奈美恵の引退 そして小室哲哉最後の映画音楽

田野:この映画が、90年代の音楽シーンを席捲した小室哲哉さん最後の映画音楽になります。また映画公開の直後には安室奈美恵さんの引退時期がやってきます。90年代当時、劇中にも出てくる安室さんの歌をどのようにお感じになっていました?

大根:安室奈美恵 with SUPER MONKEY'S、つまり安室さん初期のソロでユーロビート系の音楽をやっていた時、実はそんなに引っかからなかったんです。でもそのあとリズム&ブルースといった当時のアメリカの音楽の潮流を自分の中に引き込んでいって、こういう曲をやりたいんだと最初に言ったのが『Don’t wanna cry』だったそうです。そこからは彼女の歌に強度を感じるようになりました。

「私たちは私たちで自由に生きていく」

田野:あの時代の若い女性たちの先頭を走っていましたもんね。今日は大根監督に「女子高生論」を伺いたいと思っています。90年代の女子校の思い出が重要なシーンとして出てくるのですが、そのころ監督は26歳、27歳くらい。当時の女子高生をどのように見ていましたか?

大根:今はJKといいますけど、当時はコギャルでしたよね。でも映画の中では自分たちからコギャルとは言わせないようにしていました。彼女たちは自分たちのことをコギャルとは言ってなかった。当時の大人たちが作った言葉だったと認識しています。

93年から95年まで俺自身が渋谷に住んでいたこともあって、面白い状況が生まれてきているなと思って眺めていました。見たこともないファッション、見たこともない人種が、見たこともない行動をしている。それは男に頼らずに「私たちは私たちで自由に生きていく」と彼女たちが宣言しているように見えました。実に頼もしいなって。

90年代に女子高生だった彼女たちに当時のことを尋ねてみると、あの頃は別に何も考えていなかったと言うんですが、何も考えずにあのテンションでいられたのはすごいなと改めて感じました。

田野:私も当時渋谷をウロウロしていましたけど、センター街で見ていた限り、何も考えずにプリクラを撮り、交換し、というのが女の子の行動だったなぁと記憶しています。

大根:それがすべてオリジナル、それまでにない文化だったように思えるんです。彼女たちは自分たちで考えて作り出しているなと、それが面白いなと思いました。

今回の映画は韓国映画『サニー 永遠の仲間たち』がもとになっています。この映画のリメイクをしないかと企画が持ち上がった時、単純に日本に舞台を置き換えて描いても面白くはならないと思ったんです。

というのも、原作の舞台となったのが1985年。韓国の軍事政権が終わって民主化運動が始まった、国の様相が変わっていく大きな転換期になった年でした。原作にはそういった時代のエネルギーが根底にあった。そこで日本版を新たに作るなら90年代のコギャルたちの時代が面白いんじゃないかと提案して、この企画が進行していきました。

新しいムーブメントは初期の頃の方が面白い

田野:主人公が阪神・淡路大震災(95年1月)の影響で関西から東京に上京して来るということは、映画の舞台は1996年前後ですよね。

大根:設定は95年から97年のどこか。2~3年のどこかと幅をもたせているのは、近い過去なのでウソがつきづらいんです。この時代のプリクラはこうじゃないとか、ルーズソックスの丈はこの時はそうじゃないよねとか、半年違うだけで変わってきたりすることもある。使っている言葉も少しずれると矛盾が生じてしまうので、そういった意味も含めてふわっとさせておきました。

もう少し時代がくだった90年代の後半になってくると、今度は女子高生たちが消費される側になってくる。わかりやすくブランド物を持ち始めたり、援助交際が始まったり、社会問題にもなりました。何でもそうですけど新しいムーブメントは初期の頃の方が面白い。

田野:最近ではコンプライアンスが厳しくなって、テレビで未成年がお酒を飲んだりするシーンを描くこともなくなってきました。今回の作品の中では女子高生がクラブで初めてのビールを飲んだり、おでん屋さんで酔っ払ったり。監督もテレビドラマではなく、映画だから描けた部分があったとお感じですか?

大根:そんなことはなかったです。テレビでやっても特に咎められることはないんじゃないかな。ただ、当時のことを表現するなら、あぁいう形かなと思っていました。

原作の『サニー 永遠の仲間たち』も新しく作った『SUNNY 強い気持ち・強い愛』も、局地的なムーブメントの設定ではあるんですが、どの国の人が見ても感情移入できるところがあるというのが特徴だと思います。

「Stand up, ダンスをしたいのは誰?」

田野:作中に出てくる当時の街の様子や看板・広告などを見ていると一気に「あのころ」の気持ちがよみがえってきました。インタビューの最初にオザケンの歌は女子高生に流行ってなかったのでは?と聞いてしまいましたけど、小沢健二さんの楽曲も物語のキーになってくるんですよね。

大根:そうですね、最後は過去と現在を飛び越えて、両方のサニーが全員で踊るというのを決めていました。使う楽曲は直観だったんですがTKサウンドとか、わかりやすいヒットチャートの曲ではないなと感じていたんです。

Boney M.の『SUNNY』に匹敵するような普遍性があって、誰もが踊りだしたくなるような、ディスコティックなサウンドが非常に重要だなと思って小沢健二さんの楽曲を持ってきました。歌いだしの「Stand up, ダンスをしたいのは誰?」って、まるでこの映画のために作られたようなフレーズだなって思っています。

田野:一緒に歌って踊って笑って泣けるJ-POPエンターテイメント!出てくる女優さんたちも可愛くて、眼福でした。監督、今日はありがとうございました。

「SUNNY 強い気持ち・強い愛」全国東宝系で公開中

日本中の女子高生がルーズソックスを履き、空前のコギャルブームに沸いた90年代、そんな時代に青春を謳歌した女子高校生の仲良しグループ「サニー」のメンバー6人は、20年以上の時を経て大人になりそれぞれ問題を抱える大人になっていた。
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裕子、心、梅、そして奈々……、かつての仲間は無事、芹香の前に再結集できるのか?

夢と刺激で溢れていた高校時代と、かつての輝きを失った現在の二つの時代が交差して紡がれる物語は、ラスト、"強い気持ち"と"強い愛"によって、予想もしていなかった感動を巻き起こす!!