「いつでも転職できる人材」になれば仕事がうまくいく?人材業界のプロに聞く 転職の思考法 - 村上 隆則

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※この記事は2018年08月30日にBLOGOSで公開されたものです

「このまま今の会社にいていいのか?」-- 転職が当たり前の時代になったいま、多くのビジネスパーソンが抱える悩みではないだろうか。この悩みに真正面から答えてくれるのが、職業人生設計の専門家、北野唯我氏だ。初の著書『転職の思考法(ダイヤモンド社)』が発売2ヶ月で10万部を突破し絶好調な同氏に、転職を前提としたキャリア設計のポイントを聞いた。【撮影:弘田充】

-- 先日、『転職の思考法』に関する北野さんと田端信太郎さん(株式会社スタートトゥデイ コミュニケーションデザイン室長)との対談を読んでいたら「転職童貞」というフレーズが出てきて…

北野唯我氏(以下、北野):あれは絶対田端さんに言わせようと思っていて(笑)。

-- 言い得て妙だと思いました。実は自分も「転職童貞」なんです

北野:えっ!じゃあまさにこの本のターゲットなんですね。

-- そうなんです。でも、はじめての転職ってみんな怖いですよね

北野:それは怖いと思います。ただ僕は、必ず転職するべきだと言いたいわけではないんです。そうではなくて、「いつでも転職できる」というカードを持っておく。

すると、今の仕事でも活躍できるようになるし、いい循環につながるんです。

自分の価値を「3つの軸」で整理する

-- 「いつでも転職できる」ようになるためには、何が必要なんでしょうか

北野:2つあります。1つは社内ではなくて社外を見る姿勢。僕はいつも「上司じゃなくて市場を見ろ」と言ってるんですよ。SNSを活用するのもいいですよね。社外で認められると社内でも強気に交渉できるようになりますから。

もう1つは市場価値。例えばTVゲームって自分の強さがステータスとして表現されていますよね。攻撃力・防御力とかHPとか…。でもビジネスパーソンにとって難しいのは、その強さというのが何によって構成されているのかがわかりにくいことです。

なので、自分のことを技術的資産・人的資産・業界の生産性という3つの軸で整理して、自分のスキルが市場にとってどの程度価値のあるものか考えるといいです。

・技術的資産:「専門性」「経験」など、他の会社でも通用する技術的蓄積
・人的資産:ひと言で言えば「人脈」
・業界の生産性:一人あたりの粗利。給料の原資となる。

-- 整理するためにやったほうがいいことはありますか

北野:1番わかりやすいのは、自分のレジュメ、職務経歴書を書いてみることです。仮に入社して半年でも、その半年間で自分がやってきたことを挙げて、それがどんなアピールポイントに変換できるのか書き出しておく。

中には、職務経歴書を書いてみても、どの分野に進むべきかわからない…という人もいるかもしれません。そういう人は、伸びるマーケットに身を置くということがひとつの答えになると思います。人材の価値、すなわちマーケットバリューは「技術的資産×人的資産×業界の生産性」で決まります。そのため、伸びるマーケットにいるだけでも、人材としてのマーケットバリューは上がります

伸びるマーケットの見分け方

-- 伸びるマーケットを見分けるコツはありますか

北野:伸びるマーケットというのは、これまで働く人が10人しかいなかったのに、20人、30人に人口が増えている業界のことです。ただ、これに気付くのはなかなか難しいですよね。

なので、ひとつの判断軸として、他の人は「微妙だ」といっているけど、自分にとっては価値があるものを探してみるといいかもしれません。

自分の好きな領域というのは、それだけで解像度が高く見えるので、興味のない人よりもはっきりとわかることがある。野球でたとえるなら、普通の人は「大谷翔平選手がすごい」というかもしれないけど、野球好きな人は「阪神の2軍の○○っていう選手の走塁がうまい」みたいに語れますよね。

そういう、まだ一般には注目されていないところから伸びるマーケットを探して、張っていくという方法もあります。

-- 転職童貞にはなかなか勇気がいりますね…

難しいですよね。もちろん、今の会社や仕事に満足している人はそんなことをする必要はありません。

ただ、今の会社に不満があったり、将来的にシュリンクすることが見えている業界で働いているなら、多少給料が下がったとしても、これから伸びるマーケットに身を置いたほうがいいと思います。

そのためにも、そのマーケットに必要なものは何か、ある程度逆算して、経験を自分のレジュメに追加していくことが大事です。

人材業界が転職先を狭めている?

-- 転職を検討するとなると、まず最初に「エージェントに会ってみよう」となることも多いと思うのですが、どこのエージェントも似たような求人を紹介してきませんか

北野:転職エージェントの構造的に、たくさん人を雇う会社のほうが転職もすぐに決まりやすいので、売上もたくさん付く。なので、そういう会社から優先して資料を作りますし、紹介することになる。

本当に面白くて、ポジションが1つしかないような仕事は、たくさん紹介しても1人しか決まらないので、エージェント側に紹介するインセンティブがない。だから似たような求人ばかりになるんです。

-- もしかして、人材業界によって転職先が狭められてたり…

北野:めちゃくちゃ狭められてますよ!だからこの本でもぶった切ったんです。仮に僕がいま転職エージェントを使ったとしても、お決まりの会社しか紹介されないと思います。だからほんとに普通の転職エージェントって意味ないんですよ。

実際、メルカリに代表されるように、いま伸びている会社はリファラル採用(社員の紹介でおこなう採用方法)が増えてますし、今後の転職活動はそうなっていくべきだと思います。でもそれってやっぱり求職者側の知見が上がらないと難しいんですよね。

-- でも、中にはいい転職エージェントもいるのでは?

北野:もちろんいます。僕も一人担当の人がいるんですが、相談相手として転職エージェントと繋がっておくのは大事です。今すぐの転職が目的というよりは、長期的に、自分のキャリアにアドバイスをくれる人ですね。

そういう相手は、会社の名前より担当者個人のレベルで見た方がいい。リクルートエージェントにもインテリジェンス(現在のパーソルキャリア)にも付き合う価値のある人はいますが、これは求職者のキャリアがかなり「キラキラ」していないと、担当になることは少ない。むしろ、そうじゃない大半の人には、ブティック型のエージェントでNo.1とかNo.2を取っている人もおすすめです。

例えば広告業界でも、電通や博報堂の真ん中くらいの営業よりも、尖ってる会社の1番手のほうが圧倒的に優秀じゃないですか。それは人材業界でも同じなんです。


このまま今の会社にいていいのか?と一度でも思ったら読む 転職の思考法

-- いい担当者を見分ける方法はありますか?

北野:見極める方法は2つあって、1つは、「いま、マーケットの状況はどうなっていますか」と質問をしたときに、ある程度概観を語れるかどうか。今どういう人が求められているか、この何ヶ月かでその数は増えたかの減ったのか。この概観というのは求職者が持ちたくても持てない情報ですが、ちゃんとしたエージェントは絶対に持っています。

もう1つが「最近優秀だと思う人が行っている会社は?」という質問。これにできるだけ沢山会社を挙げてもらう。さっき「伸びるマーケットってどういうマーケットですか」って聞かれましたけど、実はこれ、めちゃくちゃ難しい質問なんですよ。だって、世界中の投資家がどれだけ頑張っても見極められないんですから。

転職エージェントというのは、それをお金の観点ではなくて、人の観点で見極めるプロであるべきです。だから、さっきの質問に、どんどん優秀な人が集まっていく会社を挙げられるかどうかは重要になります。これに答えられるということは、ちゃんとマーケットを見ているし、それと同時に優秀な人を知っているということです。

だって、「ITに詳しいです」っていうエージェントが、田端さんがLINEからZOZOに転職したことを知らなかったら「絶対嘘だろ!」ってなるじゃないですか。

-- たしかに、そういう有名な人を知っているかどうかは、業界知識があるかどうかの指標になりますね

北野:ただ、ほとんどのエージェントは答えられないと思いますよ。エージェントからしてみれば、そんな面倒なことをしなくても、転職決まっちゃいますから。

-- なんというか、エージェントからしてみれば求職者は右から左に動かされる子羊みたいな…

北野:まさにそんな感じですよ(笑)。悩める子羊をあっちからこっちに動かして、報酬をもらっているわけですからね。

最初の転職は「35歳」まで!?

-- ちなみに、「最初の転職は○○歳くらいまでにするべき」みたいなことってありますか?

北野:一般論から言うと、35歳はひとつの区切りになると思います。

というのも、35歳までひとつの会社にずっといると、その会社のやり方がこびりついてしまっていることが多いんですよね。あと、このくらいの年齢になると、結婚して、子どもができてと、新しいチャレンジがしにくい環境になります。仮に転職して給料が上がったとしても、働く環境が激変する可能性はありますから。

それでも、今の会社がめちゃくちゃ楽しいと思えている人か、会社の中で伸びているような仕事を任せられている人以外は、転職した方がいいと思っています。

とくに若い人だと、かつてのサイバーエージェントみたいな意思決定のチャンスが多い会社ならいいですが、そうでないなら転職してしまうのもアリです。

-- 今年の4月に新卒入社して数ヶ月、こんなはずじゃなかったという新入社員もいると思いますが

北野:この本の中でも、「20代は専門性、30代は経験、40代は人的資産」と書いてはいるんですが、ネット業界のような動きの速い業界なら10年おきではなく、5年おきに変えてもいいくらいです。今の世の中はそれくらいスピードアップしてきている。

一方で、これまで年功序列・終身雇用でやってきたおじさん達がある日突然、「これからは実力主義だ」と言い始めることはたぶんないと思います。ただ、今の若い人は当たり前に実力主義を受け入れているので、そういう人たちが多数派になったとき、日本の労働環境や転職市場も変わってくるのではないでしょうか。

15~20年後くらいでしょうか。その時の日本の経済って、めちゃくちゃ面白いことになってると思うんです。その時に面白い仕事をするためにも、「いつでも転職できる人材」になっておくことが大切だと思います。

プロフィール
北野唯我(きたの・ゆいが):兵庫県出身。博報堂、ボストンコンサルティンググループを経て、ハイクラス層をターゲットとした人材企業・ワンキャリアに参画。執行役員。また職業人生設計の専門家として、多数のメディアに出演。

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