完熟フレッシュ・池田レイラの初単独ライブに見た13歳の繊細な感受性 - 松田健次

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※この記事は2018年08月30日にBLOGOSで公開されたものです

2018年8月23日、台風19号が九州の西を、台風20号が四国に向かって北上し、湿度高めの残暑に汗ばむ夕刻、東京・表参道GROUNDで、完熟フレッシュ・池田レイラによる初の単独トークライブが開催された。

表参道GROUNDはワタナベエンターテインメントのホームグラウンドとなるライブスペースであり、完熟フレッシュは父(池田57CRAZY)と娘(池田レイラ)の漫才コンビであり、池田レイラは2005年生まれの13歳で中学2年生だ。

完熟フレッシュはコンビとしての単独ライブをまだ開催していないのに、娘レイラによるピンでの単独が先行された。そこには、まあ、様々な人々の思惑がある、ということだろう。結果、その思惑によって中2女子がお笑い芸人として「単独トークライブ」を実施する、この、お笑い史に類例のない、充分驚いていいイベントに惹かれて会場に足を運んだ。

Mー1の"記念受験"に風穴を開けた完熟フレッシュ

思い巡らせば、子どもが達者な芸をする――、そのこと自体には驚きはない。芸能史をひもとけば、江戸期から角兵衛獅子のような大道芸があり、歌舞伎には役者の子による「初お目見得」「初舞台」という気の早い披露目があり、寄席演芸なら昭和の名人・六代目三遊亭円生が明治期に子供義太夫を経て落語家・橘家圓童として9歳で初高座を務めたエピソードがある。

映像の時代に入れば、戦後からの時代を背負った美空ひばりを頂きに、平成の芦田愛菜まで数多の子役スターが登場している。

これを「笑い・バラエティ」のジャンルに絞ると、筆者の記憶だと80年代からになるが、最初に押さえざるをえない強度でエマニエル坊や(1971~)がいて、掛布雅之に似ていることで人気を得たカケフくん(1977~)がいて、「あっぱれさんま大先生」で明石家さんまに見出された当時6歳の内山信二(1981~)あたりからは、ビジュアルインパクトに加え、内容を問われる局面に入っていった。

90年代以降は、吉本興業の漫才コンビ・りあるキッズが1996年結成で当時11歳同士。松竹芸能のまえだまえだは2007年結成で当時8歳と6歳だった。あと誰かいたかな…。

そしてゼロ年代はM-1というシステムが浸透したことで、漫才にトライする一般の少年少女が予選をにぎわせるようになる。だが彼らは、真剣にプロの芸人を目指しているというよりも「M-1にチャレンジした」という思い出づくりの内に収まっていた。

そんな思い出づくりシーンに風穴を開けたのが、完熟フレッシュとなる。

完熟フレッシュは40代を越えた元芸人(池田57CRAZY)がM-1への思い断ち切れず、父子家庭で当時中1の娘(池田レイラ)を誘い、2017年夏に父娘でコンビを結成してM-1に挑んだ。家庭の事情をドキュメントでぼやくネタで1,2,3回戦を突破。準々決勝まで勝ち上がり、思い出に収まらない爪痕を残した。
< 2017年11月3日「M-1グランプリ2017準々決勝~完熟フレッシュ」(浅草公会堂) >

レイラ「そもそも父子家庭とか言うのやめて、パパが売れない芸人をダラダラ、ダラダラ続けてたせいでママが出てったんだから」
57(パパ)「そこに関しては申し訳ないと思っているからさ、何年も前に芸人やめて今はまじめに働いてんじゃん」
レイラ「まじめに働いてたら有給とってまでM-1出ないから」
57「それはさあ(泣)」
レイラ「芸人やってて売れないのは、罪だから、罪!」
57「息が出来ない~」
レイラ「みなさん、売れない芸人はもはや犯罪者です!」
57「それは極論だよ」
レイラ「そうだよ、今日出てる人なんかほとんど犯罪者です」
57「ほかの人いじっちゃダメだよ」
レイラ「(舞台袖に向かって)おい、そこの芸人たち!」
57「なになに」
レイラ「おまえら売れないうちに結婚なんか絶対にすんじゃねえぞ!」
57「もう、言葉の重みがすごいよ」
そしてM-1が終わって新年になると、完熟フレッシュは元旦深夜の「ぐるナイおもしろ荘 若手にチャンスを頂戴 今年も誰か売れてSP」に登場する。オーディション参加数916組から最終10組に選ばれての出演だった。

ここで、看板ネタを披露したあと、スタジオでのやりとりが以下だ。
< 2018年1月1日放送「ぐるナイおもしろ荘 若手にチャンスを頂戴 今年も誰か売れてSP」(日本テレビ) >

出川哲朗「レイラちゃん途中で、売れてない芸人は結婚しちゃダメだって、あれはレイラちゃんの言葉なの、それともお父さんの台本で言わされてるの?」
レイラ「やっぱりその台本見て覚えるんですけど、やっぱりやっていくうちに本気で思い始めた」
スタジオ「(大ウケ)」
57(パパ)「で、元嫁に、あのう最後のほうで言われてた、あの・・・あの・・・」
レイラ「(パパをツッコんで)ほら、大事なとこで噛む! 最初から黙っとけって」
スタジオ「(大ウケ)」
岡村隆史「まだ事務所はフリーなんですよね? 事務所は入っといたほうがいいですよね」
レイラ「入りたいです」
岡村「レイラちゃんはどっか入りたい事務所みたいのあるんですか」
レイラ「もちろん、ワタナベエンターテインメント」
岡村「今や、もちろんという! 吉本興業ではないという」
ここでは、漫才だけでなくスタジオのフリーなからみでも、池田レイラは堂々たる対応を見せ、頼もしいタレント性を印象づける。レイラはワタナベエンターテインメントを公開逆指名、完熟フレッシュは1月8日付けでワタナベエンタに所属する。

ちなみに「おもしろ荘SP」はこの数年、メジャーな賞レースと肩を並べる若手芸人ブレイク枠だ。

2013年:あばれる君(優勝)
2014年:日本エレキテル連合
2015年:おかずクラブ(優勝)、8.6秒バズーカ
2016年:(輩出なし)
2017年:ブルゾンちえみwithB(優勝)
2018年:ひょっこりはん、完熟フレッシュ

日本テレビには若手芸人にネタの門戸を開いてきた「エンタの神様」があるが、この「おもしろ荘SP」がここ数年ネクストブレイクの当たりクジを引いてきた実績を吸い上げ、「おもしろ荘SP」で結果を残した原石を日テレ看板番組に「今年注目の」という推しで順次出演させ、人気者に育成していくブレイクロードが確立している。

完熟フレッシュは、まさにこの日テレの若手芸人ショーケースから抜け出し、ブレイクロードに乗った。

「行列のできる法律相談所」(1/28)
「ぐるぐるナインティナイン 家族対抗ゴチ」(2/15)
「人生が変わる1分間のいい話」(2/26)
「しゃべくり007」(3/12)
「ヒルナンデス!」(3/14~)
「エンタの神様」(3/24)
「有吉ゼミ」(3/26)
「メレンゲの気持ち」(4/7)
「踊る踊る踊る!さんま御殿」(4/10)
「秘密のケンミンSHOW&ダウンタウンDX春の合体2時間スペシャル!」(4/12)

ほか、ほとんど日テレ優先でゴールデン帯に露出を重ね、知名度を上積みしていった。

ちなみに今年の「おもしろ荘SP」で優勝したのは「キレイだキレイだ」のホメ男と女装のレインボーだったが、この世界のコンテストは優勝がすべてとはならない審査外審査が並行しているのが常だ。結局、レインボーを差し置いて、日テレの女神(?)は完熟フレッシュ(と、ひょっこりはん)に微笑む2018年上半期となった。

完熟フレッシュは先々レイラのみ

こうして、顔見せイヤーが進行中の完熟フレッシュだが、先々の青写真が既にちらついている。
< 2018年8月16日放送「大竹まことゴールデンラジオ」(文化放送) ゲスト:完熟フレッシュ >

大竹まこと「色々あって、ワタナベエンターテインメント所属」
光浦靖子「そうだよすごいじゃん」
レイラ「早かったですね、このコンビは」
大竹「早かったですね、このコンビは(笑)」
光浦「ナベプロのプッシュあればもうスポーン行けるんじゃない?」
57(パパ)「もうテレビ出た時にレイラが入りたいって言って、もう逃げらんないようにして、入ったという」
(略)
レイラ「ワタナベもパパだけじゃ入れなかったと思いますよ」
光浦「そのとおりですよ」
レイラ「キラキラじゃないですかワタナベは。みんなキレイでタレントさんも」
57「華やかだよね。いやもう、言われましたもん。お父さん数年後出ないですけど大丈夫ですか? って」
レイラ「アハハハ、最初に言われて入りましたね」
57「大丈夫です、って。引率としてもう頑張ります、って言いましたちゃんと」
今まさに、林修を筆頭に旬のタレントを多数抱え、ノッテるワタナベエンターテインメントだが、その追い風を支えるビジネスライクな側面が、この「完熟フレッシュは先々レイラのみ」という契約時点でのシビアな見切りから伝わってくる。

そしてこの方針は早くも舵を切っていて、池田レイラは2018年8月22日の「あさイチ」(NHK)にピンでの生出演を果たし、特集企画で戦時中に食糧難だった時代の食事を取材し感想を述べた。

その翌日、8月23日に開催されたのが「完熟フレッシュ池田レイラトークライブ レイラちゃんに叱られちゃう!」となる。入場料700円という控えめな価格が微笑ましいが、当人にとっては今後の活動に重要な意味を持つトライアルだ。

池田レイラが見せるフラットな「たたずまい」

先述したが、中2女子がお笑い芸人として単独トークライブをするという、このエポックな事象に惹かれてライブを鑑賞した。先輩芸人を影のMCに立てて進行をリードしてもらい、パパ(池田57CRAZY)はPA担当兼影の声として姿を見せずにレイラと時々からむ流れで、約1時間15分の内容だった。池田レイラを間近に見て改めて感心したのは、そのフラットな「たたずまい」だった。

舞台に立ち観客を正視する。経験なのか天性なのか、それを自然に見せることができる。舞台に立つ姿に軸があり、土台が安定している。漫才でレイラの叫びやボヤきが砲弾となって客席をまっすぐ撃ち抜くのは、このフラットな「たたずまい」が作用しているのだろう。

トークライブの構成は、前半は「パパ」「ニュース」を題材にした叱り(ツッコミ)トーク。中盤は客席から事前に集めた質問に回答するコーナー。後半はワタナベエンタで売り出し中の四千頭身をゲストに迎えて彼らに対する叱りトークを展開。

この中でとくに興味深く思えたのは、四千頭身・石橋に対する叱りトークだった。ある日、完熟フレッシュは四千頭身が出ていたライブを見学に。ライブが終わったあと、パパ(池田57CRAZY)が帰る方向が同じだったので石橋を食事に誘ったのだが、そのとき石橋がイヤそうな顔を見せたことを「叱り」として指摘した。
< 2018年8月23日「完熟フレッシュ池田レイラトークライブ レイラちゃんに叱られちゃう!」(表参道GROUND) >

レイラ「そのとき(完熟フレッシュは)事務所(ワタナベ)入り立てだったし、年も倍以上パパのほうがあるので、なんか接しづらいとかもあるかなと思ったんですけど、(パパという)先輩の前くらいちょっと笑顔見せてほしかったな」
(略)
レイラ「普段パパに罵声浴びせてますけど、そんときに関してはパパがかわいそうだなって思った」
よく見てるな、と思った。こういう微妙なことを感じとれる年齢なのだろうが、人の言葉や表情を敏感に受け止め、それをこうして、わかりやすいトークで伝える力に感心した。

このライブ、池田レイラのメディアにおける将来を考慮してニュースな話題へのコメントに挑む場面もあったが、その方向への伸びしろはまだわからない。ただ、パパがないがしろにされた場面が忘れられない、という13歳の繊細な感受性はこちらの芯を揺すってきた。

お笑い芸人百花繚乱の時代、早くして世に出た池田レイラ。何より今は中学2年生という良くも悪くも人生で屈指の時期の真っ只中にいるわけで、それを現在進行形でネタにすることも出来るのだから、なんだかすごいことだと思う。

そう言えば、まだ夏休みの宿題である工作が終わっていないと舞台で話していた。工作…なんだかすこぶる下手そうなイメージだが上手くても下手でもどっちに転んでも芸人的には「あり」なのだから、がんばって作りあげ、新学期を迎えてほしい。