安室奈美恵と翁長雄志前知事が演出した沖縄知事選 - 渡邉裕二
※この記事は2018年08月14日にBLOGOSで公開されたものです
翁長氏死去に安室奈美恵が異例の追悼コメント
すい臓がんで急逝した沖縄県の翁長雄志前知事の告別式が13日に執り行われた。そこで話題になったのが安室奈美恵だった。今や、沖縄が生んだスーパースターとなった安室奈美恵の、その動向の一つひとつは「沖縄の基地問題も含め左右する」と言っても過言ではないのだ。
そう言った状況の中で今回、翁長氏の訃報に際して地元の関係者に衝撃を与えたのは、何と言っても安室が出した「おくやみ」のコメントだった。
翁長氏は8月8日に亡くなったが安室は翌9日、いち早く自らの公式ホームページでコメントを発表したのだ。
安室は文面の中で、先の(5月23日)県民栄誉賞授与式を振り返って「体調が優れなかったにもかかわらず、私を気遣ってくださり、優しい言葉をかけてくださいました」とし、その上で「沖縄の事を考え、沖縄の為に尽くしてこられた知事のご遺志がこの先も受け継がれ、これからも多くの人に愛される沖縄であることを願っております」と知事時代の翁長氏の功績と共に死を悼んだからだ。
《安室さんのコメント全文》
翁長知事の突然の訃報に大変驚いております。
ご病気の事はニュースで拝見しており、
県民栄誉賞の授賞式でお会いした際には、お痩せになられた印象がありました。
今思えばあの時も、
体調が優れなかったにも関わらず、
私を気遣ってくださり、優しい言葉をかけてくださいました。
沖縄の事を考え、沖縄の為に尽くしてこられた翁長知事のご遺志がこの先も受け継がれ、
これからも多くの人に愛される沖縄であることを願っております。
心から、
ご冥福をお祈り致します。
安室奈美恵
「異例のコメントだったと思いますよ。確かに安室さんの素直な気持ちを綴っただけでしょうけど、ただ、この時期ですからね。しかも、こう言った訃報のコメントを自らの公式ホームページに掲載するなんていうのは前例のないことではないでしょうか。文面もどちらかと言ったら翁長氏寄りに踏み込んでいます。今後、人選を含めての知事選が活発化するのは告別式後ですが、安室さんのコメントは〝オール沖縄〟のモチベーションを高め、知事選に活気をもたらしたことは確かです」(地元の放送関係者)。
こんなことを書くと、あるいは「知事選と安室との因果関係はない」「無理に結びつけるな」なんて声も聞こえてきそうだが、私は状況を見る限り「(両者が)全く関係がない」とは言い切れないと思っている。もちろん、安室が知事選に加担しているというつもりはないが、安室側がそれなりの便宜を図っていることも否定できない。
翁長氏の辞職による知事選は予想されていた
その前に、今回の沖縄の県知事選について説明しておきたい。
翁長氏の任期は11月までだったことから、その11月末には任期満了に伴う知事選が行われることになっていた。もっとも、翁長氏は体調面から出馬が危ぶまれていた。私の得ていた情報では任期前に辞職して9月か10月に選挙と思われていただけに、ある意味では「想定内」だったとも言えなくもないが。まさか辞職と同時に翁長氏が亡くなるとは思ってもなかった。
そう言った流れの中で、まず最初に出馬を宣言したのは沖縄の運輸業を営むシンバホールディングス会長で、沖縄観光コンベンションビューロー(OCVB)元会長の安里繁信氏。安里氏は「新しい沖縄を創る会」が4月25日に知事候補として選任、自民党県連の候補者選考委員会に推薦した。
しかし、自民党県連は佐喜真淳・宜野湾市長を候補者として考えており、安里氏の出馬宣言には「不快感を示していた」と言われる。地元関係者はいう。「安里氏は日本青年会議所(JC)の会長も務めたりして、地元の青年の間では強く推す声があったようですが、逆にパフォーマンスが過ぎると評判も悪かった部分もあります。もっとも安里氏の本音は、知事というより副知事、それとOCVB会長なんでしょうけど…。そう言ったことから、前回の知事選も出る出ないで話題になりましたが、今回の知事選も、最終的には降りるかもしれませんね」。
一方、翁長氏側。いわゆる「辺野古移設反対派」と言われる〝オール沖縄〟の候補としては謝花(じゃはな)喜一郎副知事と稲嶺進・前名護市長、さらには城間幹子・那覇市長の名前まで挙がっている。
しかし、地元関係者は「この候補者は〝内地〟の予想に過ぎません。でも、謝花さんは実務型の人で政治家タイプではない。稲嶺さんも、すでに過去の人でインパクトに欠ける。城間さんは那覇市長選に出馬の意向を見せていますから…」。
で、もう一人の候補者として噂されているのが糸数慶子・参議院議員だというのだ。
「実は、糸数さんは、翁長知事とも仲がよかった。〝保守も革新でもない。沖縄のことは沖縄で決める〟と唱えてきた〝オール沖縄〟の候補にもピッタリ。糸数さんの出馬が濃厚でしょうね」。
糸数氏は参議院議員を3期務めてきたが、06年には知事選にも出馬している。その時は30万9985票を獲得したが仲井真弘多・前知事に3万7318票差で負けている。だが、実際には選挙戦には「強い」と言われているだけに「今回は、出馬したら圧勝する」と言われているのだ。
もちろん、これが〝決定〟というわけではないが、現時点での知事選の情勢となっている。
安室をバックアップするセブン-イレブン・ジャパン
で、安室奈美恵の登場だ。
安室の引退は9月16日と期限が打たれているが、翁長氏の死去(辞任)に伴う知事選は9月30日に決定した。
一部では9月23日の投票が挙がっていたが、自民党の総裁選との兼ね合いもあるだろう。また、前週の16日には宜野湾市の沖縄コンベンションセンター、トロピカルビーチ特設会場などで花火大会を含めたイベント「WE♡NAMIE HANABI SHOW」が予定されている。
いうまでもなく、これは安室引退の大イベントで、主催の沖縄タイムス社では「安室は出演しない」としている。が、ファンの間では「サプライズがある」「安室のフリーライブがあるのではないか」と噂され、すでに県内のホテルは予約者で満室で「通常5千円程度のホテルが1泊5万円となっています」とも言われ、県内の主要道も大混雑することは目に見えている。そんな中での選挙戦というのは「混乱を引き起こしかねない」と判断したのかもしれない。「結局、30日という選択肢しかなかった」というわけだ。
ところで、16日に予定しているという「WE♡NAMIE HANABI SHOW」だが、このイベントを資金的にバックアップするのは、年末にも〝沖縄進出〟を計画している「セブン-イレブン・ジャパン」である。「主催は沖縄タイムスになっていますが、実際には安室の事務所とセブンイレブンが仕切って行われるようです」とは地元のイベント関係者。
いうまでもなく、今回の安室のファイナル・ツアーは、最初からセブンイレブンが協賛してきたが、その〝総決算〟というべき沖縄のラストイベントも全面バックアップする。
現在、沖縄には「ファミリーマート」と「ローソン」があるが、「セブンイレブン」だけは全国47都道府県の中で1店舗もなかった。そこに、いよいよ「セブンイレブン」が進出するわけだが、その進出にあたって、安室のコンサートをバックアップしてきたことは大きなインパクトとなる。しかも、その協賛の総仕上げが沖縄でのファイナルというわけだ。
「セブンイレブンは浦添市に約2万3000平方メートルという広大な土地を確保し、商品の製造工場を新設、そこを拠点に流通網をつくろうとしているんです。ファミリーマートもローソンも自前の工場はないですから、セブンイレブンの進出は今後、沖縄県民の食生活にも大きな影響をもたらすことは確実です。年末から来年にかけて100店舗を予定しているようですが、それは今回の安室の一連の流れと重なっている部分もあるはずです。実に緻密に計算された進出展開になっています」。
言うまでもなく、沖縄でのコンビニは独自のスタイルとなっている。いわゆるフランチャイズ形式になっているものの「ファミリーマート」の場合はデパートなどを経営する「リウボウグループ」が出資しているし、「ローソン」に関しても県内でスーパーやストアを展開する「サンエー」が出資して、それぞれ独自の運営をしている。
そう言った中で、「セブンイレブン」については、本社のスタイルを取り入れた上でフランチャイズの店舗を展開して行くという。しかも、そのセブンイレブンの参入に積極的だったのが地元の建設・土木業の「金秀グループ」だった。「工場の建設から商品の流通インフラも含め金秀グループが取り組んできた」(地元関係者)という。
さらに、これまで、沖縄ではリウボウグループがエンターテインメントには積極的で、大きなイベントにはファミリーマートが協賛してきたと言われる。
「このグループは今回の知事選で立候補を宣言している安里氏との関係が深いと言われているんです。それは安里氏がOCVBの内部で影響力が大きく、さらに自社グループ会社の中では広告代理店の会長も務めていたことから県との窓口業務なども含め何事も手慣れていたんです。吉本興業が沖縄で開催している〝沖縄国際映画祭〟も陰で仕切っていますし、昨年の〝AKB48総選挙〟も安里氏の要請もあってリウボウがバックアップし、ファミリーマートが協賛する形で行われました。とにかく、彼はJCを中心に人脈が広く、その推進力を評価する声が高い。そう言ったことから毎回、知事選に意欲を見せているのでしょうけど…」(芸能関係者)。
安室と沖縄知事選に意外なつながり?
では、今回の安室は?
「実は、翁長知事の最大の支援者が〝金秀グループ〟なんです。というのも、金秀グループの呉屋守将会長は〝オール沖縄会議〟では共同代表を務め、翁長さんとは親密だった」。
〝安室のファイナルと沖縄知事選〟。このタイミングが、ここまで見事に重なるとは誰もが予想はしていなかっただろう。しかも、今回の知事選は、沖縄にとっても将来を決める大きなものになることは誰もが認めるところ。
ところが、改めて振り返ってみると、その全てが安室奈美恵と翁長雄志氏の2人によって動いてきたように思えてならない。
「実は、今回の知事選には呉屋氏の出馬もあり得るんです。呉屋氏でしたら、保守革新問わずに支援できるはずですし、翁長氏の遺志を継げる存在になり得ます。県内ではセブインイレブンを引っ張ってきたというホットな功績あるし、何と言っても安室効果が大きい。〝弔い合戦〟という観点からも圧勝は間違いないでしょう」(事情通)。
もちろん異論もあるだろうが、今、沖縄で起こっている出来事は将来、我が国にとっての「歴史的な出来事」になっているのかもしれない…。