「“逃げようとしない”人々をどうやって逃がすのか」平成30年7月豪雨災害から浮き彫りになった課題とは―日本赤十字社 - BLOGOS編集部

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※この記事は2018年08月07日にBLOGOSで公開されたものです

日本を中心に大きな被害をもたらした「平成30年7月豪雨災害」。この災害によって亡くなられた方は、225人に上る(8月6日現在)。これは、2016年に発生した熊本地震での直接死50人を上回る数だ。

また今回、被害の多かった倉敷市真備町地区で亡くなられた方の88%が65歳以上の高齢者だった。

なぜここまで甚大な被害となったのか。災害から約1ヶ月を迎える8月3日(金)、東京都港区にて「救護活動から見えた平成30年7月豪雨災害の特徴 ~“見えない被災者”を救うには~ 」をテーマに、日本赤十字社の記者説明会が行われた。

登壇者には日本赤十字社の救護・福祉部次長 白土 直樹さん、医療センター・臨床心理士 秋山 恵子さん、パートナーシップ推進部ファンドレイジング課企画係長 笠井 樹さんの3名を迎え、活動内容と課題、そして今後について語った。

地震は避けられない。なら、人はその時どうするべきか

今回の災害で日本赤十字は岡山県、広島県、愛知県、他府県に126班を派遣、救護物資は毛布10,000枚、安眠セット1,397枚、救急セット2,528セット、タオルケット275枚、洗濯機4台を支給。ニーズが収束する目安が経ち、多くの活動が8月3日(金)に終了することとなった。

引き続き、避難所環境の改善や在宅避難者への対応、自ら被害者でありながら支援を続けている方へのケアなど残された課題に対して「こころのケア」活動、支援金の募集、ボランティアセンター活動、被災者の生活再興支援を行なっていく方針だ。

こうした復興支援が進む一方で、「災害時に“逃げようとしない”人々をどうやって逃がすのか、“逃げられない”人々をどうやって逃がすのか」という困難な課題が今回の災害で改めて浮き彫りになったという。

「避難勧告や避難指示が出ても、逃げようとしない人がいる、あるいは逃げられない人がいることは情報発信をする側だけではなく、受け止め側の問題も考えなければならない」と、白土さんは強く語った。

災害の原因のひとつには「気候変動」があり、異常気象が毎年のように記録される昨今で、今回のような災害は一過性のものではなく、今後も災害は必然的に世界規模で激甚化、広域化、頻発化すると言われている。

「巨大地震が、近い将来あるいは、今日くるかもしれない」という危機的状況のなか、いざという時に「隣の人は逃げないから、きっと大丈夫だろう……」といった同調性バイアスが起きてしまう問題は、非常に深刻だ。

課題解決に向けて白土さんは、「今後の日本は、高齢者支援と防災をセットで取り組む必要がある。防災教育のなかで伝えている『お付き合い』『逃げなさい』『助け合い』の3つの意識を国民全員が持ち、地域づくりと繋がりを行うことが重要」と訴えた。

支えるのは医療救護だけではない「こころのケア」の重要性

秋山さんは、「弱いから心のケアが必要だというスタンスではない。災害によって受けた心の影響は異常な出来事に対する正常な反応であり、病気であるという捉え方はしない」と、こころのケアのあり方について語った。

そう語る背景には、平成23年に発生した東日本大震災の活動がある。

「こころのケア」という名のチームには、日本赤十字社が展開する災害時のストレスに対するケアを目的としたチームの他に、他の団体が運営する精神科の薬剤の処方や入院の必要性を判断するチームがある。

目的の異なるチームが同名で活動していることから、東日本大震災の活動時には受援者側の混乱を招き、「私たちは、心は弱くない!」という拒否反応、抵抗感が生まれてしまい、「こころのケア、お断り」という弾幕まで掲げられたという事実もあった。

その後、「私たちの活動自体が心に土足で踏み入れるようなことをしていないか?」という想いを持ちつつ、改善方法を思考しながら活動をしてきたという。

今回の災害で行った「こころのケア」の活動

今回の災害で、秋山さん率いる「こころのケア班」が活動にあたった広島県呉市では、死亡者24名、負傷者22名、行方不明者1名もの人的被害が発生。家屋被害状況は全壊含め2110棟にも上る(7月31日現在)。

リラクゼーションを取り入れ、ほっとできる時間を確保することを目的に避難所を巡回し、被災者の体調やストレス状況について聞くなかで、「飲料水はあるけど生活用水が足りない、給水車から家まで運ぶのは大変」という相談を受け、日本赤十字社の給水設備を使って洗濯機を設置する、といった1歩踏み込んだ支援を行った。

同時に、被害や喪失を経験しながらも市民の生活を支える支援者、いわゆる「見えない被害者」への支援活動も行った。これは、「自分たちは大丈夫」とセルフケアを後回しにしてしまうことで、支援者自身が燃え尽きてしまわないようにするための欠かせない活動だ。

今回の活動を通して、水害・土砂災害やインフラ(水道・交通手段)の物理的な影響課題のほかに、マスコミ取材で「どういった経験をしたか」と聞かれ、「本当は答えたくないけど支援してもらっているから答えなくては」という受援者の「支援を受ける疲労」といった課題も目の当たりにし、「心の回復力を保つためには、必要なのは特別なことではなく、自然な交流や信頼関係、身近な支援体制を整えるための支援者支援が必要」と、秋山さんは語った。

現地でコミュニケーションをとるからこそ、汲み取れる課題があり、そこから解決に導けることがある。災害が発生した際は、医療救護だけでなく心と体をつなぐ救護活動「こころのケア」は必要不可欠な存在だ。

義援金の現状について

日本赤十字社では、7月10日(火)から義援金の受付を開始。ここで集まった寄付金全額は被災地の被害状況に応じて按分され、各府県の配分委員会に随時送金される。

今回、本社受付分のみで48億4,789万9,048円(7月27日現在)が集まり、第1回目の送金は、8月1日(水)に本社と支部受付分を合わせた36億7,726万5,896円が送金された。第2回送金についても8月中旬に実施予定だという。

なお、義援金の受付は平成30年7月10日(火)~平成30年12月31日(月)までの期間、受け付けている。

今回の災害、そして今後の起こりうる災害について、全国民が改めてどういった行動が必要なのか、考え、行動をするべき時である。被災地の一日も早い復興を願うばかりだ。

取材・文/木村うい