ラジオ業界のビジネスモデル - 西原健太郎

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※この記事は2018年07月31日にBLOGOSで公開されたものです

世の中では猛暑の影響で外に出たくないという人が続出している今日この頃。みなさんいかがお過ごしでしょうか?私はというと、猛暑の影響を受けつつも、夏らしい事をやりたいと日々活動を続けています。

ところで、我々ラジオ業界で夏らしい事といえば、やっぱり『イベント』です。この時期、毎週末どこかしらでイベントが行われていて、多くのお客さんで賑わっています。しかし、最近はイベントの数も飽和状態で、人気のタレントが出ていても空席が目立つ…というイベントもちらほらあったりします。

イベントにおける放送作家仕事については、前にこのコラムでも書きました(2017年7月のコラム参照)が、昨今イベントの数がここまで増えているのには、理由があったりします。今回は、ラジオ業界とイベントの関係について、少し書いてみようかと思います。

アニラジを支えていた「ラジオCD」

ここまでイベントの数が増えてしまった要因の一つとして、CD・DVDなどの『円盤』が売れなくなったことが挙げられます。2000年代(2000年~2010年)から2010年代の初頭までは、CDやDVDを売って制作費を回収するというビジネスモデルによって、業界が回っていました。特にラジオ業界では、『ラジオCD』という商品がこの頃にはよく売れていたのです。

ラジオCDとは、「ラジオ番組のアーカイブ+新規録音」を収録したCDのことで、このスタイルをいち早く取り入れたのが、『インターネットラジオステーション・音泉』でした。音泉は『TVアニメの宣伝ラジオ番組』を得意としており、さらにとある『画期的なビジネスモデル』を構築することで、その存在感を業界で示すことに成功しました。

そのビジネスモデルとは、『製作委員会に入る』ということ。アニメ作品は『製作委員会』という企業連合で制作されることが多いのですが、音泉はアニメの製作委員会に入ることで、ラジオ番組の制作権と、ラジオCDの商品化権を獲得するという手法を業界に生み出しました。

この手法が生まれる前は、アニメ作品のラジオ番組を放送するには、作品の権利を持っている企業からお金をもらい、スポンサーになってもらうしかなかったのですが、この画期的な方法により、音泉から数多くの人気番組が生まれ、そのラジオCDは飛ぶように売れました。

その後、他の媒体もそれに習って同様の方法を取るようになりました。似たり寄ったりの企画が増える中、関西のラジオ局・ラジオ関西が新たな手法を生み出します。それは、『ラジオCDをグッズとして売るためのラジオ番組を作る』という事です。

ラジオ関西には、『アニたまどっとコム』というアニラジゾーンがあるのですが、2000年代後半、アニたまどっとコムが運営する通販サイト『アニたまショップ』が生まれます。そしてアニたまドットコムは、この通販サイトで商品を売るために、『関東にはない』、『独自色が強く』、『アニメ作品に縛られない』番組を作り始めます。

そしてその番組のCDを、エリアに縛られない、通販という形で売るという手法は見事に当たりました。その後、関東のラジオ局も同様の通販サイト作るなど、その手法は注目を浴びるようになりました。

パッケージ販売からから会員制ビジネスへ

しかし、『ラジオCDを作って売る』というビジネスモデルは、2010年代に入ると、価値観の多様化から、徐々にその勢いを失っていきます。そしてそれと入れ替わるように生まれた手法が、『月額会員制のラジオチャンネル』でした。

月額会員制のラジオチャンネルといえば、ニコニコ動画を運営するドワンゴによる、『ニコニコチャンネル』が最も有名です。ニコニコチャンネル自体は2008年ごろから存在していたのですが、最初は企業や団体に向けたチャンネルしかありませんでした。

しかし2010年代に入り、チャンネルを一般ユーザーにも解放。それによって注目度が上がり、ニコニコチャンネルにラジオ番組チャンネルを持つ企業が増えることになりました。毎月少額の会費を払うことで、チャンネル内のコンテンツが見放題になり、さらに生放送も簡単に出来る…。このメリットで、ニコニコチャンネルは急速に普及。今では企業の大きな収入源になっているチャンネルもあるほど、大きく成長しました。

ところが、時代のニーズに合致し、向かう所敵なしかと思われたニコニコチャンネルにも弱点がありました。それは「気軽にチャンネルを作り、気軽に生放送が出来すぎる」という点。チャンネルが膨大な数に膨れ上がった事で、ユーザーが分散してしまう弊害が出始めました。

さらに、誰でも簡単にコンテンツを作る事ができるという事は、技術的・内容的も未熟なコンテンツもたくさん生まれることになってしまいました。未熟だからこそ良いという意見もありますが、コンテンツが飽和状態になってしまったという点で、ビジネスモデルとしてのニコニコチャンネルは、現在岐路に立っていると私は考えます。

そして、月額会員制サイトの次に生まれたビジネスモデル…それが現在毎週末各所で行われている、『イベントで制作費を回収する』というビジネスモデルです。音楽業界が円盤重視からライブ重視に変わってきているように、ラジオ業界も目の前で観れる、『ライブ感』に商品価値を見出す時代がやってきたのです。

今回は、ラジオ業界のビジネスモデルについて色々書いてみました。次に生まれるのはどんなビジネスモデルなのでしょう?しかし、冒頭にも書きましたが、空席が目立つイベントが増えた昨今、早く次を生み出さないと、業界の未来は暗いような気がします。私自身も、次の手を色々考えていかなくてはと考える、今日この頃です。