※この記事は2018年07月29日にBLOGOSで公開されたものです

ここ数日は台風が近づき、気温的には過ごしやすい日が続いているが、基本的には猛暑の夏。みなさま、適切な水分補給という熱射病対策はできているだろうか?

僕のような自宅での仕事や、また快適なオフィスでの仕事の人達はさほど気にせずともいいのかもしれないが、仕事柄、屋外での作業時間が多い人達にとって、適切な水分の補給は生命線だ。

しかし、残念ながら屋外での仕事が多いにもかかわらず、水分の補給を見咎められてしまうような人もいるようだ。

愛知県の名古屋市消防局では、出動が続くと署に戻れないことから、救急車でコンビニなどに立ち寄り、水などを買うことがあるとして、市民に理解を求めたという。(*1)

「出動の合間に水を買う」たったそれだけのことが非難されてしまう。そんなバカげた話はない。

ネットではこうした話はすぐに「悪質なクレーマーがいるから悪い」という結論に至る。文句をつけるクレーマーを「加害者」、文句をつけられた側を「被害者」と設定するのは非常にわかりやすく、共感を呼びやすい。

ところで、以前にこういう記事を見かけたことを思い出した。2015年にJR東海道線の運転手と車掌が熱中症の症状を発症したとする記事だ。(*2)

この記事で注目するべきは、最後の方。JR東海や小田急電鉄の回答の中で「水分を取るべきだ」と主張しながら、その大前提として「お客様が不快にならないように配慮」という文字が含まれる部分だ。

鉄道各社は、従業員の体調と、お客様の機嫌。どっちが大切だと思っているのだろうか?

もちろん、旅客業なのだから従業員の体調はお客様の安全に直結しているのである。鉄道各社はお客様のご機嫌取りのほうが、お客様の安全よりも大切だとでも言うのだろうか?

「お客様の不快感」などというものは定量的な基準が存在するものではなく、水を飲むという行為が、それを見かけた誰かにとって不快かどうかなど、誰にも判断できない。要は、クレームが入れば「不快だった」と判断するしかないのだから、判断の基準をクレーマーに委ねているに過ぎない、ハッキリ言って極めて無責任な発言である。

ちゃんと「お客様が不快に思おうとも、水分を取るのは従業員の権利である」と言えなければ、従業員が水分を補給することをハッキリ認めたことにはならない。

「お客様が不快にならなければ」などという、判断しようのない留保をつけた上での「口先では水分をとっていいとは言うが、実際にクレームが入ったら自己責任」という態度は、とても責任感のある態度とは言えないのである。

こうした問題が発生すると、ネットではわかりやすさが優先されるため「クレーマーが悪、クレームをつけられた会社が被害者」という認識で凝り固まりがちになるが、客の不快感やクレームを付けることに基準は無いし、クレームをなくそうとしても意味はない。問題はクレームをつける側ではなく、クレームに対して適切に対応できない責任者側にあるのである。

具体的には有象無象のクレームをちゃんと排除して、従業員を守るという確固たる態度を表明する。そうした「適切な対応」をとることのできない責任者こそ「悪」なのである。

その「適切な対応」の1つが、最近話題になっている、YouTubeからのヘイト動画の排除である。

ネット上の運動でYouTubeに存在する他国や他民族に対するヘイト動画を中心に配信していたチャンネルが排除され、ヘイト動画を配信していた人たちが「表現の自由を否定している」とか「言論弾圧だ!」とか「言論テロだ!」などと吹き上がっている。(*3)

しかし、一体彼らは何を勘違いしているのだろうか。問題は彼らが規約違反の動画をアップロードしていることそのものにあるのであり、あくまでもYouTubeは規約に準じて、違反している動画やそれを配信しているチャンネルを削除しているに過ぎない。YouTubeを使用するユーザーは最初にそのことに同意して利用しているはずなのだ。

有り体に言えば、ヘイト動画をアップするユーザーはYouTubeにとっては「良い客」ではないというだけのことである。表現の自由も言論弾圧も何も関係ないのである。

不快な客を「でも、再生数たくさん稼いでいるし、YouTubeへのアクセスを増やしているから」と擁護することをすれば、最終的にはヘイトを好きではなく、他人を扇動するようなオリジナリティのない文字ばかりの動画よりも、面白かったり興味深かったりするユニークな動画を好むという、本来YouTubeが集めたかったユーザーを逃がす、すなわち良い客を逃してしまうことに繋がるのである。

企業は自分たちのサーバーにアップされた動画を管理する義務がある。それは法的義務という以前に、企業として当然の管理である。

YouTubeを見る人に対して安心して見てもらうためにということでもあり、またYouTubeに広告を出してくれる企業のイメージを損なわないためでもある。他人を悪鬼のごとく誹謗中傷する動画を、お金を出してスポンサードしたい、その動画と一緒に我が社の名前を出して欲しい、などという企業はないのだから。

企業はYouTubeが動画の質を保証することを信頼して、YouTubeに広告料を支払って広告を出している。YouTubeにはその信頼に答える責務がある。だからこそ、規約に従って動画やチャンネルを削除するのである。

YouTubeの適切な対応に対して怒るクレーマーや、それを先導する人たちの怒りは、そうしたヘイトをばらまく人たちが、資金源の1つとしてYouTubeを利用してきたということもあるだろう。チャンネルごと削除されれば、ヘイトの資金源が無くなってしまうからだ。

しかし、YouTubeの動画再生でお金を稼ぐシステムもYouTubeが作り上げたシステムなのだから、そのシステムはYouTubeのモノである。動画をアップするユーザーはあくまでもシステムの利用者であり、規約を守れないなら退場してもらうしか無い。お客様は決して逆らってはいけない「神様」では無いのである。

そもそも日本のユーザー相手であれば、ニコニコ動画というヘイト動画に親和的な動画サイトもあるのだから、そちらを利用すればいい。それも気に入らないなら、自分でサーバーを立てればいい。

そもそもネット上の表現の自由は何によって担保されているかといえば、誰でもサーバーを立ち上げることができることである。ネット上のサービスに不満があるのであれば、自らサーバーを立ち上げて自分で自分に向けたサービスを構築すればいいのである。もちろん、安定的に動画を配信するには、それ相応のお金がかかる。YouTubeは自分のビジネスのためにサーバーの維持管理という負担をしているのであり、それにタダ乗りして良いという法はない。

他人のサービスを利用して、その規約に違反して動画を消されたら反発するなど、恥知らずもいいところである。YouTubeはクレーマーの怒号や的外れな反論にひるまず、今後とも確固たる態度を取り続けて欲しい。

繰り返すが、クレーマーの言葉を拡声器で増大して従業員をガチガチに縛るのも、クレーマーの言葉をはねつけて従業員を守るのも、いずれにせよその責任は責任者の側にある。

責任者は責任者としての責任を負うべきであり、それが本来の仕事なのである。

また、我々もクレームの責任をクレーマーに負わせてスッキリするのではなく、責任者にこそ、ちゃんと責任を問うべきなのである。

*1:「水を買うため救急車でコンビニ寄ります」 猛暑で救急出動急増の名古屋市消防局、市民に理解求める(BIGLOBEニュース)https://news.biglobe.ne.jp/domestic/0727/blnews_180727_4525674986.html
*2:電車の運転手は仕事中「水も飲めない」? これは辛すぎる、との声が出ているが...(J-CASTニュース)https://www.j-cast.com/2015/06/09237302.html?p=all
*3:姑息な言論テロ『竹田恒泰チャンネル』停止祭りの内幕(IRONNA)https://ironna.jp/article/10206