※この記事は2018年07月24日にBLOGOSで公開されたものです

海や川で遊ぶ機会が増える夏。同時に増加するのが、悲しい水難事故である。日本財団の報告によれば、毎年約1000人が水辺の事故で亡くなり、そのうち約700人は海での死亡事故だという。こうした事故を防ぐためにはどうすればいいのだろうか。

行楽シーズンを目前に控えた7月7日、港区にある日本財団で「親子で学ぶ海のそなえ教室」が開催され、20組の親子が参加。海や川で楽しく遊ぶために必要な備えについて学んだ。

毎年約30人の子ども達が海の事故で亡くなっている

第1部で登壇した日本財団常務理事・海野光行氏は、海上保安庁などが発表した資料を紹介しながら「海の事故で亡くなった子どもの人数は過去5年の平均で毎年約30人。これだけの数の子どもたちが海の事故で亡くなっている」と話した。

また、“いこーよ”アクトインディ株式会社調べによる「海に行かない理由」のアンケート結果も発表されたが、そこでも海の安全性に対する懸念が上位を占めた。

海=危険というイメージが強いのか、2017年に日本財団が行った調査結果によると、「小学生の時に海に行ったのは年平均で1日以下」と答えた10代が約6割もいたことがわかったという。

こうした結果を受けて海野常務理事は「(親が)子どもを海に連れて行くモチベーションが低下してきてしまったのではないのかなと。本質的に海・川は楽しむところであります。楽しくなければ仕方がないと思うし、そのために楽しい備えというものをして、この夏は海や川を楽しんでいただけたらと思います」と述べた。

遺族が語る水難事故の悲しみ ライフジャケットの着用を訴え

第2部では、一般社団法人吉川慎之介記念基金代表理事・吉川優子氏、グローブライド株式会社マネージャー・吉川隆氏、一般社団法人そっか共同代表・小野寺愛氏、なぎさ総合研究所所長・宇多高明氏の4名が登壇。それぞれが海や川で楽しく遊ぶためのそなえについて語った。

その中で吉川優子氏は、5歳の息子が川に流されて溺死したという自らの体験を語ることで、二度と同じような悲劇を生まないようにして欲しいと訴えた。

吉川優子氏:私の息子は慎之介という5歳の男の子です。今から6年前の同じ月に幼稚園のお泊り保育で、川で水遊びが実施されたんですけども、その時に増水が発生しまして川に流されました。その時に慎之介は溺死しました。

本当に元気いっぱいで可愛らしい楽しい男の子でした。2012年7月20日のことだったんですが、当時は愛媛県西条市に住んでいて。夫が良く出張に行っていたものですから慎之介がお泊り保育に行く前に「出張行ってきます」と行って送り出しました。それが生前最後の姿になってしまいました。

恐らく今みなさんも「このような事故があってはならない」と思ってくださると思うんですけども、二度と同じことを繰り返さないためにそこから教訓を生かして欲しい。それは私たち遺族だけではなくて、不幸な事故・事件にあった多くの家族がみんなおっしゃっていると思います。

じゃあ教訓を生かすってどうしたらいいんだろう。私は2012年に事故が発生した時、3~4ヶ月ぐらい色々な事故について調べてみました。

そうしましたら2009年に四万十川で小学生の2人の女の子がキャンプ場で亡くなっていたというニュースを見つけました。その記事を見た時にお父さんが同じことを言ったらしいんです。

私は2009年にもう愛媛に住んでいたんですけれども、その事故をキャッチできていませんでした。じゃあ、もしその時知っていたらどうなったんだろうというところもあります。けれども、事故を知って教訓を生かすっていうのは、こんなに難しいことなんだな、じゃあどうしたらいいだろうと思って。

この事故は警察が捜査に入っていたんですけども、私達自身でも調べようということで調査しました。なぜこのような調査をしているのかというと、葬儀の時に「二度とこのようなことが起きないように原因を究明します」というご挨拶をさせていただいたからです。

その思いに応えてくださったのが保護者の方と子どもたちでした。お泊り保育には慎之介を含めて31人の子どもたちが参加していました。保護者のみなさんが子どもたちの記憶が薄れてしまう前にこの川で何が起きたのか、どういう事故だったのかというのを検証したいと。そのため私たちもぜひ一緒に参加して原因究明しましょうと動き始めました。

この時、幼稚園の先生達の事前説明では、「足首が浸かる程度の安全な水遊びをします」ということだったんですが、ライフジャケットとかそういった装備を何も持たずに川で子どもたちをかなり自由に遊ばせていたということが分かりました。

水難事故の再発防止を力強く訴えた吉川氏は、2016年5月に保育園の元園長との裁判が終了したと話し、裁判ではライフジャケットを装着すべきだということが厳しく指摘されたと語った。

最後は「みなさん一緒にライフジャケットを着けましょう。子どもたちと一緒に大人のみなさんも付けていただいて楽しい活動をして、どんどん発散していって欲しいなと思います」とライフジャケットの大切さを参加者に説いた。

次に登壇したのは、グローブライド株式会社フィッシング営業本部プロモーション課・吉川隆氏。

グローブライド株式会社が釣り用品の製造・販売を手掛けていることから、釣りから学んだ海へのそなえということで、「釣りの現場にいくと日本は安全対策がまだまだ足りない部分があると感じた。遊ぶためには救命具をつけるということをご提案できれば」と話し事例を紹介した。

吉川隆氏「さきほどの吉川優子さんのお話で、もし現場の方が増水を予知できるようなスキルを持っていたらと考えました。実は釣り人は葉っぱが流れてきたら上流で大雨が降っていて危険だから逃げようとか、冷たい風が吹いてきたら天気が急変するから陸に上がろうとか。僕たちは先輩諸氏からそういった知識をもらっていて。

それでも場所によってはなかなか難しいこともあるので、いわゆるエマージェンシーとしての救命具は絶対あったほうがいいでしょう。

実は救命具のおかげで僕も釣りをしていて助けられた経験もありまして。今、釣具業界は国交省の指導の下、2月からすべての小型船舶の乗船者にライフジャケットの着用を義務化しました。これは業界がこういったものを啓蒙しております。」

「救命具を着ける時に一番大事なのは股のベルト。これを閉めない限りは落水した瞬間にお子さんがスポっと抜けてしまいます。胸のベルトを閉めるよりも、股にベルトが1つないし2つ着いているのでこれを必ず閉める。これを閉めない限り、お子さんが救命具と違う方向に流されるのでこれだけは要注意です。」

親は知っておきたい、水難事故が起きやすい危険な場所

最後に登壇したなぎさ総合研究所所長・宇多高明氏は、「海辺の遊びで水難事故を避けるために知っておきたいこと」というテーマで実際に水辺の写真を投影しながら危険な箇所の見分け方について分かりやすく述べた。

宇多高明氏「ヘッドランド=離岸流で、よく水難事故が起きます。離岸流というのはたくさんありますが、別に水難事故を起こすためにあるわけじゃない。漂砂をコントロールするために人間が作った代物なんだけれども確かに離岸流が起こります。」

「1~8まで数字が振られていますが、どれが離岸流なのと言われるとなかなか答えられない。1つヒントとなるのは、なぎさ線の裏側の砂丘のてっぺんに立つと見下ろすこと。参考になります。」

「浜辺で遊んでいると飽きちゃうんですよ。ところがここへ来るとカニとか貝とかくっついているから取りたくなる。でも滑って落ちちゃったら掴む場所がないのでライフジャケットでも着てない限りアウトです。人間が本能的に惹きつけられる場所なんだけど、危険のツボであるということを知っておかないといけない。」

水辺の事故を防ぐために必要な「3つのそなえ」

終わりに海辺のレジャーを楽しむために、第1部に登壇した日本財団常務理事・海野光行氏が語った水辺の事故を防ぐために必要な3つのそなえを紹介する。この3つを踏まえたうえで、ぜひ海や川で楽しい思い出を作って欲しいと思う。

日本財団 海と日本PROJECT

日本財団「海と日本PROJECT」は、子どもたちを中心に海への関心や好奇心を喚起し、海の問題解決に向けたアクションの輪を広げることを目的に日本財団や政府の旗振りのもと、オールジャパンで推進するプロジェクトです。