高額出演ギャラで寄付金を集める「24時間テレビ」 - 渡邉裕二
※この記事は2018年07月22日にBLOGOSで公開されたものです
「テレビ離れ」のなか昨年は高視聴率を記録
今年も「24時間テレビ」の時期になった。日本テレビが系列局を巻き込んで大騒ぎするチャリティー番組のことである。今年で41回目になるという。ただ、ここで何だかんだ言っても、41年間も続けてきたことは評価出来ることだし、ある意味では「本物」なのだろう。
昨年は40回目で〝節目〟だったことも盛り上がるキッカケになったと思われる。
前回は「告白 ~勇気を出して伝えよう~」)をテーマに掲げて放送したが、平均視聴率は18.6%だった。しかも、その占拠率は42.4%。同局によれば「24時間テレビ初の40%超え」と言う。もちろん、それは東京だけではない、大阪、中京、福岡、札幌など全国主要11地区でも軒並みトップの視聴率となり、日テレの営業担当者もCMセールスを聞かれ「お陰様で過去最高でした」。
それだけではない。
「昨年は1年間の寄付金の総額が6億9915万3512円でした。これにより40年間の寄付金の累計額は、372億5395万5817円になりました」。
昨今は視聴者の〝テレビ離れ〟が大きな話題になっているが、この「24時間テレビ」の盛り上がりを見ていると、そんな様子が全く感じられない。ある意味で「継続はパワー」であることを実感させられたが、日テレにしたって、ここまで〝ドル箱〟になった「24時間テレビ」をやめられるはずがない。
豪華出演陣で24時間テレビはもはや「日テレ夏祭り」
今年も「人生を変えてくれた人」をテーマに8月25日から26日に放送する。メイン・パーソナリティーは相変わらずジャニーズのメンバーでSexy Zoneだ。ただ、他にもパーソナリティーといわれるタレントがいて、番組パーソナリティーにサンドウィッチマン、チャリティー・パーソナリティーには木村佳乃、そしてスペシャル・サポーターとして南原清隆、坂上忍まで…。
それだけでは「華やかさに欠ける」とでも思ったのか、初めて「応援団長」なんていう役割まで登場、それを出川哲朗が務めることになったという。さらに、24時間テレビサポーターとして徳光和夫、総合司会に羽鳥慎一、水卜麻美…。いやいや、ここまで名前が連なってくると、誰が何をやるのか全くわからなくなってくる。まるでチャリティーの冠をつけた〝日テレ夏祭り〟と言ったところ。
それにしても、これを見ていると日本人というのが、いかにチャリティー好きかというのが分かる。特に今年は、テーマが何であれ、7月の広島や岡山、愛媛など西日本を襲った豪雨被害もあるから、余計にこういったチャリティー番組が際立つように思える。
しかし、よくよく考えてみると、「24時間テレビ」というのはサブタイトルで「愛は地球を救う」としている通り、単に感動やチャリティーを押しつけているだけの〝なんちゃって番組〟であることは確かだろう。冒頭で〝本物〟と記したが、やはり〝偽善〟的な番組としか見えない。
もちろん、視聴者の中には「こういった番組があってもいい」「こういったチャリティー番組もあってもいい」など、肯定する声もあるだろう。常日頃、くだらない番組を見させられている視聴者にとっては「意味のある」企画なのかもしれないが、こんなチャリティー番組が公共の電波を使って成立するのは、世界の中でも日本だけだろう。
チャリティーだから高額ギャラをいただきます
実はかつて、私もこの「24時間テレビ」の制作に絡み、協力したことがあった。
地方の主要局だったが、そこで知ったのは、出演者が高額なギャラを請求することだった。
「チャリティーだから積極的に協力させていただきます」
なんていうのは、実は表向き。タレントも所属事務所も
「自分が出演することでお金(寄付金)が集まるんだから、これは営業。当然、放送ギャラではなく営業ギャラで頂きます」 と、大して売れないジャリタレでも通常の数倍、これが司会なんかに起用されるようなものなら数百万円のギャラを要求してくるのである。信じられない。
もちろん、「そんなことはない」と否定するタレントや所属事務所もあるだろう。十把一絡げに言ったら誤解も生じるだろうが、ただ大多数は「営業ギャラ」で出演していることは間違いない。
東日本大震災、熊本地震、そして今回の豪雨被害…。被災地に寄付をしたり、ボランティアで行ったりするタレントも多い。東日本大震災でAKB48グループなどは、それぞれ別れて被災地に行ったりしていたし、ジャニーズのメンバーにしても積極的に被災地のイベントに出たりしていた。このように個々では積極的なのだが、なぜか「24時間テレビ」になると意識が変わってしまうようである。不思議である。
こんなこともあるようだ。例えば、タレント側から「チャリティーだから、出演料はノーギャラでいい」と言われたら、困るのだという。出演ギャラはしっかり貰ってもらわないと、他の出演者や所属事務所に影響するからだ。もしかしたら「誰々はノーギャラなのに…」なんて言われかねない。
「ウチの出演料はチャリティーに回して」というのも同じだ。実際に、大物のお笑いタレントの中にはいるらしく、結局は「出演しなくなった」とも。要は、チャリティーと言ったら聞こえがいいが、実態は立派なビジネスだってことである。そう考えたら「24時間テレビ」というのは、タレントにとっても所属事務所にとっては1年に一度の稼ぎ時なのだろう。
とは言っても、すでに40年間で372億5395万5817円という巨額の義援金を集めていることも事実で、実績を残してきたわけだし、その部分では評価できるが、問題なのは日テレ。単に時間と企画を提供しているだけで、その制作費や運営資金は全てスポンサーで、肝心な寄付金は視聴者。しかも、その寄付金の使い道も日テレで決めるなんて、あまりにも都合がよすぎないか?日テレも系列局を含め、放送利益から経費を除いて1億円ぐらい寄付しますって公言したっていいはずだ。どうにも釈然としない。
猛暑のなか行う「24時間マラソン」もチャリティーのため?
それと、もう一つ。
「24時間テレビ」といったら、今や看板は「24時間マラソン」である。このマラソンは、出演料が一説には1000万円とも言われ、事務所にとっては大きな魅力の一つになっているだろうが、やるにはリスクが大きい。きっと事務所はやらせたいだろうけど、やるのはタレント本人である。
「ぜひ、やらせてください」なんて簡単には言えない。
今年は、みやぞんがチャレンジする。しかも、例年とは変えてマラソンだけではなく、水泳や自転車も加え、トライアスロン形式で繰り広げていく。まるでテレビ版の「ユーチューバー」みたいである。挑戦することでネットアクセスを上げるんじゃなく、視聴率アップのために…。テレビも視聴率のためなら、何でもアリってことなのだろう。
しかもこの殺人的な暑さが続いている中でだ。もちろん8月下旬の気温がどうなっているか分からないが、正直言って、これがチャリティー番組なのか?と疑問を抱いてしまう。
振り返れば11年前の2007年の「24時間テレビ」もそうだった。萩本欽一が70キロを走ったが、この時も記録的な暑さで、岐阜・多治見市と埼玉・熊谷市では40.9度をマークした。74年ぶりの記録更新と騒がれたものである。
今年は、多治見で40.7度を記録したが、どちらにしても、そんな気候の中で一体「24時間テレビ」は何を見せたいのか理解できない。しかもこれを、テレビ局ばかりか視聴者までもが「感動」とか「チャリティー」なんて言っているのであれば、もはや視聴者の方も感覚が麻痺しているとしか思えないのだが…。