生きづらさを感じる人々18「座間事件の被害者の気持ちはわかる」兄からの性的虐待を受け続けた日々 今では「殺すことも想像する」~まなみの場合 - 渋井哲也
※この記事は2018年07月18日にBLOGOSで公開されたものです
目黒虐待死事件で問題視された児童相談所の虐待対応。報道を受け、専門家からは警察との情報共有を求める声も出てきている。ただ、虐待といっても様々で、特に性的虐待の場合、明るみに出る数は少ない。
小2から中2まで、兄から性的虐待を受ける
「小2から中2まで兄から性的虐待を受けていました」。
そう話すのは、首都圏に住む高校生、斎藤まなみ(18、仮名)だ。
「親には中1の夏にバレていました。親が兄を叱って、一時、虐待は止まりました。それが中2の夏から復活したんです。親はそのことを知りません」
小2の頃から性的虐待があったというが、何があったのだろうか。
「最初に触られたのはお風呂に入っていたとき。小4のときには、兄とセックスしました。最初は何をしているのかわかりませんでした。恥ずかしいとはわかっていました。最後に兄は『誰にも言うな』と言うので、従っていました」
きょうだい間の性的虐待の発覚は少ない
きょうだい間の性的虐待。取材ではたまに聞く話だ。生きづらさの問題を取材して20年になるが、その中で自殺で亡くなった最初の女性(当時中2)も兄からの性的虐待を受けていた。
性的虐待の実態はなかなか把握できない。神奈川県中央児童相談所が2010年3月にまとめた報告書(*1)がある。対象となった108人中、100人が女児だ。被害を受理したときの年齢は15歳が最多で18人。ついで12歳が15人。14歳が14人。13歳が12人で、全体の4割が中学生だ。
*1神奈川県児童相談所における性的虐待調査報告書2010年3月神奈川県中央児童相談所
http://www.pref.kanagawa.jp/uploaded/life/1012556_3333926_misc.pdf
中学時代に保護された意味では「標準的」なのかもしれない。しかし、誰が加害者かという点では異なる。「実父」が38件で最多。ついで「養父」が21件、「継父」が13件、「内夫」が11件、「実母」が7件だ。「その他」は21件で、「兄」となると「その他」に入り、9件。兄からの性的虐待の通告は少数だ。
「抵抗すると面倒。従っていればいい」
まなみは小4で初めての性行為を経験した。兄に対してはアンビバレントな気持ちがあったという。
「痛いし、怖い。また痛い思いをしないといけない。でも、刺激を待っていたときもあったんです。待っている自分がいました。ただ、身構えていた面もあったんです」
兄は避妊はいつもしない。抵抗すると「うるさい」と言う。
「従っていればいい。諦めですね。でも、はたからみると、普通のきょうだいです」
中1でのときに、兄との関係を母親に知られてしまう
中学1年のときに兄との関係を母親に知られる。どんな状況だったのか。
「エアコンをつけながら、妹と並んで部屋で寝てました。そこに『涼しいじゃん』と言って、兄が間に入ってきました。妹には『早く寝なさい』と言っていたんです。寝ようとしていたとき、母親が洗濯物を置きに部屋に入ってきたんです。私の下半身が脱がされている状態だったので不審に思ったのか、『何をしてるの!』と言われました。兄と性的な関係について『小5から』と嘘を言いました。あとで知ることになりますが、妹も触れられたことがあったようです」
兄は反省したのか、しばらくは止めていた。しかし、中2の夏から性的虐待が再発する。そして2月、まなみが担任に話をしたことで児相に保護される。
ちなみに、小5はそれなりに意味がある年齢だった。過食が始まったころだ。その後も過食と拒食が繰り返される。その始まりの年齢だ。
「我慢していればよかった」兄をかばう気持ちも
「親に言うのは嫌だったので、担任に相談したんです。最初は『家に帰りたくない』と話していました。児相に対しては、兄をかばう気持ちがありました」
ところで、兄をかばう気持ちはどこからきたのか。
「兄は、部活のストレスの発散をしていました。顧問から理不尽な指導をしていたようです。大変なんだから仕方がない、我慢していればいいと思いました」
教師に性的虐待の話をしたのはこの時が初めてではない。中1のとき、友達に「軽い感じで」話した。担任にも耳に入ったが、“マセガキ”“エロい子”という認識で終わった。中2のときは、担任に「兄と性的関係を持っている」とストレートに話した。「相談するなら今がチャンス」と思ったという。
この担任は男性のために、「女性の先生に聞いてもらったほうがいい」と、英語の先生と養護教諭が保健室で話を聞いた。翌日、児相の職員が学校を訪ね、1ヶ月間、一時保護所に預けられた。
施設は「家族よりも居心地がいい」
警視庁によると、17年の児童虐待の通告児童数は6万5,431人。うち、性的虐待は251人。全体の0.4%だ。一方、厚生労働省によると、16年度の児相での虐待相談件数は12万2,578人。うち、性的虐待は1,622人。1.3%。児童虐待の中でも性的虐待は表になかなか出ない。全体として増加しているものの、増加率が少ない。
そんな中で、まなみの場合、親は通告しなかったものの、学校では児相に通告した。厚労省によると、学校からの通告は年々10%前後だが、16年度はここ10年で最も比率が少なく、8,851件、7%だ。
「家族に縛られずに生活できるのが嬉しかった。職員と、一緒にいた子どもたちはいい人すぎた。家族より居心地がいい。保護所の子たちは辛いことがあってここにいるってことは同じなので、心で繋がっている気がしたんです」
こんな状況で、父親はほとんど関与しなかったという。
「父は病気じゃなければ、甘えや逃げと思うのです。だから兄には『お前が悪い』と言うだけ。児相からの呼び出しにも、『なんで俺が行かなければいけないんだ』と言うくらい。ほとんど母が一人で対応していました。父はもうちょっと母を支えてあげてほしいです」
まなみは家族に本音を言えない。児相のカウンセリングも時間が限られているために言えない。保護のきっかけとなった中学の担任は、メアドを知っているが、遠慮してしまっている。高校の養護教諭や担任には相談するが、内容次第では親に連絡が行く懸念があるため、気を許せない。スクールカウンセラーは利用したこともない。
自殺願望や殺人願望が芽生えるが、大ごとにしたくない
まなみが「死にたい」と思うようになったのは高校1年生のころ。ただ、言葉には浮かばなかったものの、中学の頃からコンパスで手をえぐった。社会科のプリントには「家に帰りたくない」と書いたこともある。時々、兄に対して、憎しみが湧き、「死ねよ」「殺したい」と思うこともあった。
「いつか何かをやらかしそうで怖い。でも、自殺未遂はしたことがない。死ぬのは怖い。でも、殺してもらえるならそれでいい。座間事件が発覚した頃も病んでいたので、つながっていたら、自分もついていったでしょうね。被害者の気持ちはわかります」
苛立ちを表現する手段としてリストカットもする。高校一年の冬、父親との喧嘩で、「家を出て行け」と言われ、「迷惑な存在」と思い、書道用の買っておいたカッターで腕を切った。そこから癖になる。
「ただ痛いだけですが、なんとなく、逃げられるんじゃないか」
Twitterで知り合った男性との付き合い。
今では、恋愛やネットでの出会い、援助交際に救いを求めている。
「(Twitterの)病み垢で繋がった男性と付き合っています。まだ一度も会っていませんが、毎日、LINEの通話機能で話しています。基本的には『かまちょ』(かまってちょうだい、の略で、寂しがりやの意味)なんです」
一方で、援助交際もしたいという。そのためのTwitterで援交アカウントを作ったこともある。ライブに行くなどやりたいことがあるが、お金がないことが表面的な理由だ。同時に、寂しさの穴埋めとして、発散したい面もある。
「思い切り声を出したいです。カラオケは点数を気にすると発散じゃなくなるし、家に帰りたくない気持ちにもなります。ならば、男に任せて、時間を忘れたいんです」
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