かぼちゃの馬車物件の悲劇 現在は都内で家賃14000円のシェアハウスになっていた - BLOGOS編集部
※この記事は2018年07月18日にBLOGOSで公開されたものです
7月某日、筆者は山手線沿線のとある駅に降り立った。
家賃14000円という激安シェアハウスの存在を知ったからだ。
その背景には、運営会社が破綻したシェアハウス「かぼちゃの馬車」が絡んでいるという。
東京23区内の築2年で駅徒歩8分、14000円は掘り出し物だ。うまく引っ越せれば月々の固定費を大きくカットできる。期待に胸を膨らませつつ、激安家賃の真相を確かめるべく不動産業者へと向かった。
「かぼちゃの馬車」問題とは
不動産業者「スマートデイズ」が運営していた女性専用のシェアハウス「かぼちゃの馬車」は、無謀な高利回りをうたった自転車操業の末に倒産。
スマートデイズは東京地裁に民事再生手続きを棄却されて破産手続きに入り、オーナーに資金の多くを融資したスルガ銀行には、金融庁が立ち入り調査に入る事態となった。
債権者への負債は総額約60億3500万円、そのうち投資した物件オーナー約675人に対する負債は約23億円に上るとされる。
「ここは正直、安いです」
不動産業者ではまず個人情報を記入し、物件選びのヒントになりそうな質問を担当者から受ける。
「シェアハウスをご希望というわけではないんですか?」
シェアハウスに住みたいという希望があるわけではないが、家賃が格段に違うのであれば検討したいと正直に答えた。事前に家賃14000円の物件を希望する旨も伝えてあったので、いよいよその話題に移る。
「ここは正直、安いです」
開口一番、担当者はそう語った。理由を尋ねると、キャンペーンみたいなことでウチは安くやらせていただいている、という。
「都内のシェアハウスなら相場は家賃45000円~55000円なので30000円近くお安くなる計算ですね」
家賃が安いところなら35000円程度のところもあるが、安いには安いなりの理由があると話し、例えば?と聞くと「古くて、ニオイとか…」と明かしてくれた。(こちらの業者で扱っている物件にはないそうだ)。
いやしかし、ちょっと待ってくれ。
家賃35000円でその言われようなら、14000円となるとその理由とは…恐る恐る聞くと、意外な角度から、それでいて強烈な回答が返ってきた。
「これは、ホームページの方にも書かせていただいたんですけど」
3ヶ月の定期借家契約、更新はなし
「こちらは3ヶ月の定期借家契約になっておりまして…」
要するに3ヶ月で終わる契約だった。
当然3ヶ月というのは建前で、入居者に問題がなければ通常の契約を…という流れかと思ったが、確認すると答えはNO。
「3ヶ月経過したら、出てもらいます」
この契約にはさらに条件があった。
通常のシェアハウスには、清掃等を行う管理人が付き、家賃の中にその人件費が含まれることになる。その人件費を削ってこの14000円という家賃が叩き出されていたのである。
そして管理人がいない、というだけではなくなんと…
「清掃をしていただきたいのです」
ほう…。
できる限り家賃を抑えたいというオーナーたっての希望でこの形式が提案され、とりあえず3ヶ月やってみようというお試し期間としてサイトに掲載されたというのだ。
3ヶ月僕が上手く掃除をこなせば更新は…?
「ないです。あくまで3ヶ月のみです」
「あの会社が潰れて」価格崩壊の現状
それにしても、共益費を合わせても20000円を切る家賃に、Wi-Fi完備、光熱費も込み。
この物件はもともと家賃55000円だったが、現在は通常契約なら35000円で住めると教えてくれた。(もし住むことになったら家賃は内緒で、と)。
内装写真を見せてもらって「これは新築当時の写真ですよね?」と思わず聞いてしまったが、なんと先月撮った写真。築2年では新築同様の綺麗な部屋としか言いようがなかった。
なぜオーナーはそこまで家賃を安くするのか。
ここまで「弊社は頑張っている」「定期借家契約」と2度かわされたが、肝心要の核心に触れていなかったことを思い出し、再度質問を繰り返した。
それでも安いですよね?
隠そうとしていたのかどうかは定かではないが、ここからはあっさりと事情を教えてくれた。
「都内で多くのシェアハウスを取りまとめていた会社さんがつぶれてしまったんですね。それで個人のオーナーさんが所有するシェアハウスが浮いてしまう形になりまして。同じような物件を持って、仲間だったはずのシェアハウスのオーナーたちが突然競争相手になってしまい、正直、家賃相場が崩れているような状況です」
この日は時間が遅かったため内見は叶わず、店を後にしようとすると、
「オーナーさんには6、7月でまとめるという話になってるので、7月を過ぎてしまうと家賃が変わっているかもしれません」
と釘を刺された。
かぼちゃの馬車は魔法が解けても走り続ける
破格の好条件物件の背景には、やはりかぼちゃの馬車が絡んでいた。
話の端々から感じられたのは、ハシゴを外され自力での戦いを強いられているオーナーの焦りと、降って湧いた格安案件に色めき立つ不動産業者の高揚感。
被害に遭ったオーナーは約675人、物件数は800棟以上ともいわれる。 元の住居者との家賃の違い、奇妙な契約内容。オーナーも必死なのだ。
そしてこれだけの家賃崩壊が起きれば、かぼちゃの馬車とは関係のないシェアハウスや同価格帯の物件にも影響が及ぶだろう。都内に安く住みたい人にとってはチャンスかも知れない。
今回の一見怪しげな内容の条件も、オーナーが「出来る限り家賃を下げるため」に試行錯誤する一環のもの。
"魔法"に惑わされてしまったオーナーたちは、ガラスの靴を持った王子さまが現れるのを待っていられない。部屋を埋めるためにあの手この手を繰り出すしかないのである。
参照)帝国データバンク:http://www.tdb.co.jp/tosan/syosai/4458.html