※この記事は2018年07月15日にBLOGOSで公開されたものです

西日本での歴史的な豪雨から一週間以上が経った。

徐々に道路などの復旧が進んではいるが、未だに孤立した地域があったり、上下水道が復旧しないなどの地域も多い。また、これからは夏の激しい暑さが予想されることから、慣れない避難生活での体調不良や食中毒の発生。また大量に発生したごみ処理の遅れによる腐敗や虫が湧くことからの衛生環境など、今後の問題は山積みであるといえる。

さて、こうした被災において、物流が回復する間、被災者たちが最初に頼るのが、様々な「支援物資」である。

支援物資には、自治体や施設などが保有しているものもあれば、災害を報道などで知った人たちから送られてくるものもある。

自治体等が予め保有している災害用の備蓄品は、長期間の保存に耐えられるようになっているし、またキット化されて過不足なく配れるようになっている。ただし、数にも限りがあるし備蓄施設自体が被災に巻き込まれてしまう事も考えられる。

一方で、個人から送られてくる支援物資にも問題はある。よく言われるのが着古した下着などのニーズのない物品が送られてくるケースだ。食品なども長期保存に適したものでなければ、単なる生ゴミになってしまう。

また、飲料水などの必要と思われるものでも、水道が復旧したりして、現地の状況が変わることによって、必要がなくなるケースもある。

そうした支援物資の中でも、ネット上で最も嫌われているものが「千羽鶴」である。

今回の豪雨でも、ネット上には「千羽鶴を送るな!非常識!!」という声がたくさん挙がっていた。

さて、しかしながら僕には疑問があった。これだけ多くの人が「千羽鶴を送るな!」といっている一方で、一切「千羽鶴が送られて困っている」という声が挙がらないのである。

本当に各地に千羽鶴が送られて困っていると言うなら、今のSNS時代に実際に大量の千羽鶴が送られて困っている写真がアップされてもいいはずだ。しかし、これだけみんなが千羽鶴を叩きながら、そうした画像が一切出回っていない。ネット上でたまに見かける「被災地に送られた迷惑な千羽鶴」とされている画像は、広島の平和記念公園に送られた千羽鶴の写真ばかり。そちらは公的に受け付けている(*1)ことから、批判には当たらない。

つまり突然被災地に千羽鶴が送られて被災者困惑などということは実際に起こっていない可能性が高い。

そんなことを思っていると、ねとらぼに「「被災地に千羽鶴はやめるべき」議論が西日本豪雨で再燃 熊本地震で現場はどうだったか、熊本市に聞く」(*2)という記事が上がった。

この記事で明らかになったことは、震災直後に千羽鶴や寄せ書きなどが送られてくるケースは話に聞くほど多くないということだ。少なくとも千羽鶴の廃棄に困っているという話は聞いたことがないという。

要は、実際に被害が無いのに、ただ「千羽鶴を送るのは迷惑!」と主張する人だけが存在している状況だ。彼らは一体なんのためにそのような主張をしているのだろうか?

僕はそこで行われているのは「他者を嫌悪対象にするための行動様式」であると考えている。

少し前に騒ぎになったRADWIMPSにまつわる騒動(*3)もそうで、ネット上で歌詞の内容の酷さに呆れる声は多くとも、曲を歌うなとか、廃盤にしろと求めていた人など、ほとんどいなかったにもかかわらず、あれだけ多くの人が「歌うなとはなにごとだ!」とネット上で怒りを顕にしていた。しかし結局、ライブ会場でデモを行ったのはわずか4、5人だった。(*4)

これは決して大山鳴動して鼠一匹ではなく、そもそも鼠一匹であったにもかかわらず、その鼠一匹に乗じて大騒ぎする人ばかりがいたということだ。

ごく少数の主張や行動を大勢であげつらうことによって、その集団やその集団に近い人達に対するヘイトを集める。それがこの「他者を嫌悪対象にするための行動様式」である。

実は、今回の千羽鶴の件で、もう1つ流通しているデマがある。それは「広島の記念公園には毎年10トンの千羽鶴が送られ、処理費用が年間1億円かかる」というデマである。

このデマについては、何を勘違いしてしまったのかはハッキリしており、またこのデマを扱ってしまった本の著者も誤りを認め、謝罪をしている。(*5)

しかし、一度広まったデマというのは事あるごとにぶり返すもので、今回の豪雨でもこのデマを垂れ流す人がいた。そこまでして千羽鶴を折る人を悪者にしたいという顕な欲望に寒気がする思いである。

ここ数年はネット上で「サヨク」を叩くことは、一種の標準的なしぐさとなっている。なにか政治的な問題が起きれば、何も理解していなくても野党やサヨクさえ叩いておけば、正しい判断をしている人間として振る舞えるという状況がある。そしてもちろん広島平和記念公園に千羽鶴を贈るような人はサヨクとして認識される。そうしたことから「自己満足の押しつけ」というイメージの収束先として千羽鶴は便利なバッシング先なのだろう。

しかし、すでに論じたように、実際に千羽鶴に迷惑をしている人は、全くいないとは言わないが、少なくともそこまで執拗に批判するほどはいないというのが現実である。

そうした現実を無視して「千羽鶴の被害にあった、かわいそうな人」を勝手なイメージとして作り上げ、さも己が被害者を守る騎士であるかのように振る舞うことは、滑稽であるばかりか、実際の被災者の姿を見ていないという点で、苦労している被災者に対しても失礼である。

ありていにいえば、千羽鶴を贈るなと必死になって主張する人たちは、それこそまだ物資が必要で、ゴミの片づけも終わらない段階の被災地に、大量の千羽鶴を送りつけてしまうような考え方の人たちと何ら変わりはしないのである。いずれにしても災害を自己満足のために利用しているに過ぎないのだから。

*1:広島市 - 折り鶴を「原爆の子の像」へ捧げるために郵送する場合の送り先(広島市)http://www.city.hiroshima.lg.jp/www/contents/1110442193712/index.html
*2:「被災地に千羽鶴はやめるべき」議論が西日本豪雨で再燃 熊本地震で現場はどうだったか、熊本市に聞く(ねとらぼ)http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1807/11/news082.html
*3:RADWIMPSの新曲「HINOMARU」に関するから騒ぎについて(赤木智弘 Blogos)http://blogos.com/outline/304818/
*4:人気バンド・RADWIMPS「HINOMARU」の歌詞に抗議の男逮捕 神戸、違法駐車の疑い(産経WEST)https://www.sankei.com/west/news/180627/wst1806270012-n1.html
*5:「千羽鶴の処分費に毎年1億円」は事実誤認 宝島社「ボランティアという病」重版分からは修正へ(ねとらぼ)http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1608/19/news139.html