俺が出会ってきたハードボイルドなオッサンたちに「あっぱれ」~中川淳一郎の今月のあっぱれ - 中川 淳一郎

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※この記事は2018年07月06日にBLOGOSで公開されたものです

「さよなら、おっさん。」というNewsPicksの新聞広告が世のおっさん界隈に怒りを与えましたが、まぁ、広告が話題になるのは企画者としてはあっぱれなことである。この広告を考えた人は、「あの広告はワシが作った」とおっさんの如き自慢プレイに興じることができるというわけで、そうした思い出を広告制作の当事者に与えたという意味でも実にめでたい話である。

世の中にはあっぱれなオッサンだっている

 今回世の中のおっさん達はこの広告に「キーッ!」となったが、ここでは広告の是非は考えない。また、NewsPicksが定義するところの「おっさん」の中身がなんなのかもどうでもいい。そんなもん知らん、しっしっ、あっち行け。オレがここで書きたいのは「オレが出会ったあっぱれなおっさん」達である。

「これ、NewsPicksの定義するおっさんと違うじゃんwww」みたいに思うかもしれないが、おっさんの定義なんてもんは、各自が心の中に秘めたるパトスとともに表現すればいいだけの話なのである。いや、「おっさん」ってひらがなで書いているとなんかかわいいな。ここはやはりビシッと「オッサン」とカタカナでハードボイルドに決めることにする。それでは「オッサン紳士録」開始。若干の誇張もあるかもしれないが、私は以下のオッサンの言動に深く感銘を今でも受けている。

【1】「男の作法」実践オッサン
【2】父の日なので原宿へ行くんですオッサン
【3】部下が大ポカ! すぐに部下を走らせた先がイケメンなオッサン
【4】美女がいると……行動変更オッサン
【5】「オレの夢を叶えさせてください」オッサン
【6】会社にいないオッサン、空港で珍行動!


 ではまず「男の作法」実践オッサンについて語ろう。

 新卒で広告代理店に入って2年目(25歳)の1998年末、組織の大幅な改定があり、32歳のA氏の下につき常に行動を共にすることとなった。

 A氏のイメージといえば、同じグループになるまでは、ホワイトボードが謎、というぐらいしかなかった。1998年、フランスW杯の時は、A氏が担当するクライアントがW杯のスポンサーだったため、A氏はフランスに行っていた。大会は6月13日から7月13日までだったが、その間まったく会社にいないのである! いや、広告がきちんと掲示されていることなどを確認したらもう帰って来いよ、と思うものの、A氏はフランスに居座り続けた。フランスではカンヌ国際広告祭にも行っていたようだが、毎日オフィスに通うだけの自分からすれば、「なんつー自由な仕事ぶりじゃ!」と驚嘆した。

また、A氏はスヌーピー関連の仕事をしていたのだが、出先表には「スヌーピー」といつも書いていた。これを見て、周囲は「またAはスヌーピーだって(笑)」とやっていたのだが、私からすればこの破天荒なオッサンの下につくことで、会社というものは実に楽しい場所であることを理解したのである。「会社は学校じゃねぇんだよ!」というサイバーエージェント社員による名ゼリフがあるが、私にとってA氏は部活の先輩のような感じで、他のメンバーのことも好きだったため、執務室は部室のようだった。

 ただ、自由過ぎる精神を持っているせいか、仕事では困ることもあった。本来一緒に行くはずの打ち合わせにとにかくA氏はこない! 開始時刻になって電話をすると低い声で「ごめん……」とまずは言い「今起きた」と言うのである。営業担当ももう慣れっこになっており、「Aさんの代わりを中川やってくれ」と言い、会議はなんとか乗り切っていた。これは月例の会議だったのだが、年間12回のうちA氏は7回しか来ていない。しかしながらクライアントからの信頼は実に篤く、年末の忘年会などでは積極的に意見を求められていた。ちなみにA氏は意図的に会議すっ飛ばしをしていたという。その理由は「オレがいない方がお前の成長が早まると思って敢えて行かないようにしていたのだ」とのこと。多分違うだろうが、それはそれで構わない。

 仕事ぶりについては、とある企業の不祥事の際の対応で真剣に取り組む姿が思い出される。一方、「放課後」ともいえそうな業務終了後の飲み会や出張でA氏は本領を発揮した。男の粋な生き方を綴った池波正太郎の名著『男の作法』を踏襲していたのだ。「天ぷらを食う時は親の仇を取るかの如き様相でかぶりつけ」「ホテルは広い部屋を取れ」「少し多めに払い相手に気持ちよくなってもらえ」的なことをいつも実践していた。

つまらない食事はしないオッサン

 そして、「食」に対して熱意を持っていた。夜20時頃、腹が減ってきたので「牛丼でも買ってきましょうか」などと言うと「待て」と言う。

「おい、お前は今25歳だろ。仮にあと50年生きるとしよう。1日3食食う場合、タタタタンターン(電卓を叩く音)、一生で食えるメシは5万4750回、お前は1日2食だから、タタタタンターン、3万6500回しかメシが食えないんだよ! しかも年を取って何らかの病気になって食事制限をせざるをえなくなるかもしれない。食事というものはそこまで貴重なものなのに、つまらないものでその貴重な機会を失うというのは実に損であるっ! あと2時間もして仕事が終わったら、いいとこに連れて行ってやる」

 私はそれには「はいっ! 明日やる分の仕事を今のうちにやって、一緒に連れて行ってください!」なんて言うとA氏は黙々と仕事を続行する。そして22時、それなりの目途がついたところで「おい、今から出られるか?」と言う。「はい!」と言ったところでA氏が電話をして「今から2人行けますか?」と予約したのは麻布十番の和食の名店「はじめ」。「ここはとにかくなんっでもウマい。今日は空いててラッキーだった」と言いながら、行きのタクシーでいかに同店がウマいかを力説するのである。特にかきあげがお気に入りのようだった。しかしながら、ひとこと注意をすることは忘れなかった。

「ウニ丼は頼むから注文しないでくれ」

「えっ、それは美味しくないんですか? ウニが美味しくないなんて珍しいですね、それ」

「いや、違うんだ、ウニ丼は高いんだよ、ガハハハハハ!」

 また、徹夜で仕事をした後は、「4時45分まで頑張れ。そうしたらウマい寿司を食いに行こう」と言い、築地場内の「寿司大」の開店と同時に行き、ビールを飲みながら寿司を食べた。今でこそ3時間待ちは当たり前の大行列店になっているが、当時は並ばずに入れた。

 とまぁ、こんな感じで日々私は子分としてA氏の下についていたのだが、同氏の人望は上司からも知られるようになり、私が異動したあとから次々と4人の「門下生」がつくこととなった。一人が成長したら次の若者が下につくことが続いたのだ。この関係性からいつしか「A塾」と呼ばれるようになり、時々私を含めた4人の門下生とA氏とで「A塾飲み」をやるようになった。

嶋浩一郎氏が仕掛けた「サプライズ」

 同氏に対しては、博報堂ケトル共同CEOの嶋浩一郎氏も敬意を表している。嶋氏は基本的には「サラリーマン万歳」「年功序列万歳」的な考え方をしているため、A氏のために「接待」的なことをやっていた。しかもそれをサプライズで実施するのである。もっとも思い出深いのが、京都での一夜だ。その時A氏は部長に就任したタイミングだったのだが、嶋氏はA氏を京都でお祝いすることを考えた。

 そこで、関西のクライアントの定例会での勉強会講師として、企業のリスクに関する専門家であるA氏に講演を依頼。その晩の宿は京都に取ることにし、嶋氏はいわゆる「隠れ家風フレンチビストロ」を予約した。そこで待っていたのが私と、毎日放送の若手記者・ラモス、そして関西の美女4名であるっ!

 2階の空間は我々の貸し切り状態になっていたのだが、階段を上がってきたA氏はテーブルが一つしかないことに驚く。

「おい、嶋、満席だぞ」と言うと「いいんですいいんです」と後からやってきた嶋氏が言う。私は顔を伏せていたのだが、パッと顔を上げたらA氏は仰天。

「おい、中川、ここで何やってるんだよ!」

「えっ、Aさんこそ何やってるんですか!」

 そこで嶋氏がA氏を開いている席に案内し、「まぁ、いいからいいから一緒にやっちゃいましょうよ。いやー、それにしても中川、奇遇だったなぁ!」と見え見えの茶番を繰り広げるのである。ツーか、単に京都での合コンを部長昇進祝いとしてセッティングしただけの話である。

さて、そんなA氏なのだが、めったやたらと女にモテた! 私が外部の会社の女性と打ち合わせなどをしていると、A氏が通り過ぎる。するとうっとりとした目で「今の方どなた?」と言い、「Aさんですよ」と言うと「かっこいいわね~。ホレちゃった!」と言うことが何度もあったのだ! 会社におらず、別の時に女性と飲んでいても「B子ちゃんがAさんのことカッコイイって言ってるんだけど、中川君、一回セッティングしてくれない?」なんて頼まれることもしばしばだった。やい、A、1人ぐらいオレによこせ!

そんなA氏とは今でも交流があるが、基本的に今自分の「食」に関する考え方と「誰かがいる時はケチをしない」ということについては、あの時のA氏による池波正太郎『男の作法』的教えが生きていると思う。さらにはA氏は毎日「黒いスーツ」「パリッとアイロンの入った白シャツ、ノーネクタイ、ボタン2つ開け」という恰好だが、私もほぼ同様の恰好(値段は私の方が随分安い&シャツは外に出してるけど)をするようになった。これは「同じ服を着続けるとラクだ」というその教えに従っている。

 おいおいおいおい、本当は6人の「あっぱれ」なオッサンについても書こうと思っていたのに、A氏のことだけでこんなに長くなってしまったじゃねーかよ! 6人を500字ずつ紹介しようと思ったけど、A氏だけで3000字超えちまったぞ。それだけオッサンという存在は、奥深く尊いのである、ウヒヒ。というわけで、またオッサンをホメたくなったら書くかもしれないので、どうぞよろしくお願いいたします。いやぁ~オッサンに色々教えてもらったわ、ワシ、ホント。

【1】「男の作法」実践オッサン←今回のA氏

↓そのうち書く(かも)
【2】父の日なので原宿へ行くんですオッサン
【3】部下が大ポカ! すぐに部下を走らせた先がイケメンなオッサン
【4】美女がいると……行動変更オッサン
【5】「オレの夢を叶えさせてください」オッサン
【6】会社にいないオッサン、空港で珍行動!