日本VSポーランド戦には、恥じること無くブーイングを - 赤木智弘
※この記事は2018年06月30日にBLOGOSで公開されたものです
日本の決勝トーナメント進出が決まる、ワールドカップリーグ戦第3戦、日本VSポーランドで珍事が起こった。ポーランドに先制点を取られ、反撃をしなければならないはずの日本が、パス回しで時間を稼ぐ行動に出たのである。(*1)勝っている方が時間を稼ぐのは当然としても、負けているチームがパス回し。会場ではブーイングが起き、テレビを見ている人たちの中にも動揺する様子があった。
さて、このパス回しには明確な理由がある。
日本が先に1点を失っており、その後後半74分という、ゲームが終わるまで残り15分という状況で、セネガルが1点を失った。
リーグ戦を2戦行った状況で、日本とセネガルは同じ1勝1分であり、勝ち点は同じ。またゴールと被ゴールから算出される得失点差も同じ、さらに直接対決でも引き分けであり、このまま点数が動かなければ、イエローやレッドカードの数などで判断される「フェアプレーポイント」の差で日本が2位で決勝トーナメント進出、そしてセネガルは3位で敗退となる。
もちろん、日本は勝負を挑むこともできただろう。少なくとも、ポーランドから点を取り返し、引き分け以上の結果で終えることができれば、セネガルVSコロンビアの結果に関係なく、決勝トーナメント進出が確定するのである。
ただ、リーグ戦敗退が決定しているとはいえ、ポーランドは格上である。積極的に点を取りに行けば、その裏をかかれかねない。同じ敗北でも1点差での敗北であればセネガルを上回るが、2点差の敗北では下回ってしまう。
その結果、セネガルVSコロンビアの点がこれ以上動かないことを前提に、攻めずにしかし相手にボールを渡さないためにパス回しをすることで、消費したのである。
結果的にその采配は的中し、日本は無事決勝トーナメントに進出することができた。
では、僕たちのような見る側はそれを理解して、つまらない試合にも称賛を送るべきだろうか?
僕はそうとは思わない。
今回の件、一言で言うなら「ルールはルール。しかし、つまらない試合はつまらない」のである。
ルールの上で勝つことは間違いではない。しかしこの試合にブーイングを送った人たちは、間違っているからブーイングを送ったわけではない。つまらない展開だからこそブーイングをしたのである。
日本はこのままセネガルが同点に追いつかなければ、パス回しさえしていれば、大きなリスクを負わず失点しないで済む。
また、ポーランドはもちろん勝ちたいが、一方で追加点をとることは、リーグ敗退が確定している今となってはさほど意味がない。このまま日本がパス回しで時間を稼いでくれれば、追加点は取れないが勝利が確実になる。という、お互いの利害が一致した状態で膠着してしまった。
試合を見に来ている日本のサポーターまでが、目の前の選手たちではなく、スマホでセネガルVSコロンビアを見るしかない状況は滑稽ですらある。(*2)
会場に来た人たちや、その試合をテレビやネット配信で見ている人たちは、わざわざお金や時間をつかってそこにいるのだ。その人達が目の前のつまらない試合にブーイングを送るのは当たり前である。
ネットでは「日本は勝つためにやった。ブーイングを送るのはルールを知らない人たちだ」と上から目線でブーイングをする人たちを批判する論調が目立つ。
しかし、これがワールドカップのリーグ戦であることを知り、このまま点差が開かなければ日本が勝つことを知ってもなお、つまらないものはつまらないのである。勝つためにやろうがつまらない。つまらないのだからブーイングを送るのは当然である。
ブーイングをやめるべきだと言う人がいる。どんなプレイでも選手たちは一生懸命やっているから失礼だという意見がある。
しかし僕はそうは思わない。素晴らしいプレイをすれば、たとえ試合結果として負けたとしてもそれを称賛するように、つまらないプレイが続けばたとえ試合結果として勝ったとしても、それにブーイングをする。この両者は同じことである。「ブーイングをするな、どんなにつまらなくても称賛しろ」が許されるのは幼稚園のお遊戯会までである。
どうも、この試合を批判的に見ている人に対して、「選手たちに失礼」などという、よく分からない批判がされたりもしていたようだが、僕は「選手たちに失礼」などと言っている人たちのほうが、よほど選手を子供扱いしていて失礼であると思う。
どうしても、こうした大きな大会の場合、目の前の試合での勝ちが、その大会全体を俯瞰して良いことではないという状況というのは起こり得る。
実際、グループGのイングランドVSベルギーでは、勝利したほうが決勝トーナメントでは不利な側に入るということで、手を抜いた試合のような状況になり、ファンからブーイングを受けていた。
そうした「負けたほうがマシな状況」を避けるのは選手たちの頑張りではなく、ルールの設定である。日本とセネガルの場合は今大会から導入されたフェアプレーポイントが明暗を分けた。導入の意図としてはファウルを意識的に減らそうということだろうが、一方で今回のパス回しというつまらない試合の原因にもなった。
もしフェアプレーポイントが無く、くじ引きでの決定であれば、たとえセネガルが負けたとしても、日本はくじ引きという50%の勝利を100%にするために攻めるしかなかったはずなのだ。
また決勝トーナメント表が、あらかじめ決定されておらず、トーナメント進出チームによるくじ引きであれば、イングランドVSベルギーのようなことは起こらなかった。しかし一方で、それぞれのグループ1位と2位をあらかじめ別々の山にハッキリ分け、互いを遠ざけることで、同じチーム同士の戦いが重複することを防ぐことができるという予めトーナメントを固定するメリットはある。
そうしたルールの導入には、常にメリットとデメリットがあり、それを選定するのは国際サッカー連盟、FIFAの責任だ。
だから今回の試合の責任はFIFAにあるのであり、選手はもちろん、パス回しなどを指示した監督にもない。そしてその試合をつまらないとブーイングした観客にも責任は無いのである。
僕はつまらない試合に対するブーイングには何も問題は無いと思うが、問題があると思う人は「あれはFIFAに対するブーイングなのだ」と思えば、多少は苛立ちもおさまるのではないだろうか。
*1:フェア?戦術理解?日本のパス回しに海外メディア賛否両論(Sponichi Annex)
*2:ひどい10分、アンフェアな「他力」頼みのパス回し - OGGIの毎日がW杯(日刊スポーツ)