※この記事は2018年06月29日にBLOGOSで公開されたものです

サッカー部のLINEグループから外され、乱暴されるなどしたことで、不登校になった問題で、埼玉県川口市の栃尾良介さん(仮名)は「教育を受ける権利を侵害された」として、500万円の慰謝料を求め、川口市を提訴した。

いじめや不登校の解決が長引いたことについて、良介さんの母親は「私には、市教委が保身のための隠蔽したり、虚偽報告をしたとしか思えません」と、市教委の対応を批判した。

訴状などによると、良介さんは、1年生のときにサッカー部の同級生のLINEグループから外された。3学期には部活の練習中に一部の生徒から襟首を後ろからつかまれ、首絞め状態で引きずられ、揺さぶられるなどの暴力を受けた。さらには、2年生2学期、サッカー部員が良介さんの自宅や自転車をスマホで無断で撮影し、LINE上にアップし、中傷した。また、1年生から2年生にかけてLINEの中で、サッカー部員がなりすまし、からかいや誹謗中傷を受けるなどした。これらは市のいじめ問題調査委員会もいじめとみとめ、不登校との因果関係も認定している。

「存命被害者は命があるため軽視されがちだが、傷から解放されることはない」

不登校は合計4回。1回目は16年5月9日から12日まで。サッカー部員からのいじめが原因。2回目は学校の不適切な対応と顧問の体罰、いじめの継続によって16年9月14日から17年4月まで続いた。3回目は学校の不適切といじめの継続で17年11月2日から12月17日まで。4回目は同じ理由で、18年1月24日から復帰できないまま卒業を迎えた。卒業証書も渡されていない。

記者会見で母親は「いじめよりも校長や教頭、市教委にされたことに傷つき、辛く苦しいと話している。誰一人、責任を負うことも息子に謝罪することもなく、傷ついたまま。存命被害者は命があるため、軽視されがちですが、傷から解放されることはない。対応を怠ることは絶対に許されない」と述べた。

良介さんはいじめ対応がなされなかったことに不信感を抱き、また不適切な指導によって不登校が長期化したことを問題視している。部活での首絞めいじめ発生後、サッカー部の顧問は良介さんと母親に再発防止を約束した。しかし再発防止措置は取られなかった。その結果、16年5月、中2のとき1度目の不登校となった。

9月には良介さんが自傷行為をしている。学校側は調査をしていないのに、別の生徒の「良介さんが先に蹴った」などの主張を信用して、市教委に報告している。加えて、顧問は16年7月15日と9月5日に良介さんの頭部を殴打した。この行為については体罰と認定され、懲戒処分を受けている。ただし、良介さんが体罰を受けたことで、16年9月から二度目の不登校となった。

支援体制についてもまったく行われなかった。16年10月、母親は校長に対して、いじめによる不登校は「いじめ防止対策推進法」の「重大事態」にあたるとして法に従った対応を初めて求めた。積極的に対応をしなかった。市教委にも同様の対応を求めたが、その後電話はない。そのため、県教委に問い合わせるが「県は何もできない」と答えたため、文科省に問い合わせた。

「文科省の担当者は親身に聞いてくれました」

診断書を見せているのに、虚偽報告が繰り返される

こうした動きをしたことで、文科省や県教委は市教委に対して、重大事態として対処するように求めるようになった。学校側がようやく母親と話し合いを持ったのは12月。このとき、母親は市教委や校長、教頭に「いじめやいやがらせ」と自傷行為、不登校との関係を示す診断書を見せている。しかし、学校側はいじめがないと市教委に報告し、虚偽の報告が繰り返されることになる。

17年1月4日、県教委は市教委に訪問。調査委員会を設置するように促した。25日には文科省が県教委にさらなる対応を求めた。翌26日には文科省は県教委に対して、「校長が部の保護者会でいじめはないと言っていることの事実確認」を迫り、さらに、顧問の体罰に関してもスピーディーな対応を求めている。27日には文科省は県教委とし教委を呼び出して指導している。

「このとき、文科省あてに息子が書いた手紙が届いています。資料を読むと、<9月に至るまで、いじめ調査等から本人からの訴えはない><いじめでない側面でのケアの方向性を考えていた>と市教委が説明しています。それ以前にも訴えていたが、“いじめ”という言葉を使わなかったから、こういう言い方をしたのでしょうか」

ただ、市教委として<重大事態の捉えは、ここへ来て、目を向けてやっていく方向>と答えている。しかし、対応が十分ではなく、1月31日のサッカー部の保護者会では、いじめがなかった旨を学校側が説明している。鎮静化を図っているかのようだ。

文科省に校長が呼び出される異例の対応

17年3月には、市教委や校長、教頭は良介さんと母親に今後の支援体制を提示した。しかし、提示した内容は実際には現場の教員には知らされず、校長も指示していなかった。4月には不適切な指導の結果、良介さんが欠席することになる。文科省は県教委に対して、「目配り、気配り、心配りが大切だ」と助言している。

記者会見で母親は「息子が被害生徒になったいじめ問題では、不登校になった時点で学校側から謝罪があったのにも関わらず、学校やいじめ問題担当部署である川口市教育委員会指導課は、法律にも従わず、義務も果たさず、文科省や県教委からの再三の助言・指導もきかず、私が1日も早く息子が安心して登校できるよう改善策をお願いし続けましたが、まったく行われませんでした」と述べた。

しかし、その後、文科省は県教委へ、県教委は市教委へ助言・指導を繰り返されている。市教委や学校の対応が改善されることはなかった。6月になって、文科省は「川口市の法の理解がそもそも間違っているのではないか。論外である」と、県教委は「川口市が法をよく理解しているとは言い難い状況である」とのやりとりがされている。9月には、文科省に校長が呼び出されもしている。現場の校長が呼び出されるのは異例だ。

開示請求で文科省と県教委、市教委との膨大なやりとりが判明

18年1月には、文科省に県教委や市教委の担当者が集まっている。そこで、文科省から市教委に対して、「1)保護者との連携を図るために戸塚中ノートを活用する、2)休み時間中に、良介さんへの見守り体制の徹底、3)学習支援の充実」を確認している。しかし、これも十分に守られることはなかった。結果、文科省では「今までにない対応をしている」との記録がされている。

文科省や県教委、市教委のやりとりが判明したのは、良介さんや母親が県教委に対して個人情報開示請求をしたためだ。そのやりとりを示した資料だけでもA4の用紙146ページにも及ぶ。一方、市教委にも開示請求していたが、詳細なやりとりは開示されず、10枚に満たない。母親は取材に対してこう話した。

「管理職ばかりが集まって、協議をしているのに、なぜ、学校や市教委は嘘の報告ばかりをするんだろうか。当初の校長の報告を市教委は信じていたのだろうが、引き返せなくなったのでないか」