イーロン・マスクによる Twitter 買収に不安を覚えるマーケターたち:「しばらくは様子見だが、何かあれば一気にブレーキを踏む」
4月中旬の段階では、イーロン・マスク氏によるTwitter買収提案は、Twitterの取締役会が「毒薬条項(ポイズンピル)」と呼ばれる買収防衛策を採用したと報じられ、その実現は可能性が低いように思われた。しかし4月最終週、マスク氏は取締役会をどうにか攻略し、同社を440億ドル(約5兆7000億円)で買収することになった。この騒動をニューヨーク・マガジン(New York Magazine)「イーロン・マスクは本当に(買収を)やっちまった」と形容している。
同氏の下でTwitterがどのようになるかは不明だ(契約は4月25日に成立したばかりで、それほど時間は経っていない)。マーケティング担当者やエージェンシー幹部のなかには、マスク氏の言論の自由に関する発言や、彼がプラットフォームのコンテンツモデレーションの一部を後退させる可能性があることを挙げて、ブランドセーフティーに関する懸念が浮上すると予想する者もいる。マスク氏は以前、「Twitterは事実上の公共の議論の広場の役割を果たしている」とし、「言論の自由の原則に従わないことは民主主義を根本的に損なう」と語っている。
編注:本稿の原文は4月26日(現地時間)時点での情報に基づき執筆されたが、5月6日(現地時間)にニューヨーク・タイムズ(The New York Times)からマスク氏が買収にあたって投資家向けに行ったピッチデッキの内容がリークされた。そのなかで同氏は広告売上を全体の半分以下に押さえ、サブスクリプションなどそのほかの収益源を強化し、2028年までに大幅な売上増を目指すという大規模な方針転換の構想を明らかにしている。
IMGNメディア(IMGN Media)の最高戦略責任者であるノア・モーリン氏は、広告主からは「同氏の公の発言、そして扇動的あるいはヘイトスピーチとみなされる投稿に対して同氏がどのようなアプローチをとるのかについて懸念」の声が上がっていると述べた。「Twitterは、有害なユーザーによる発言の危険性を認識しながらも、相対的な自由をどう管理・確保するかという問題に取り組んできた。そしてマスク氏は、同社がとった初期の対策さえも取り消すように思われる。マーケターはそれを警戒している」。
匿名を希望に取材に応じた広告代理店幹部によると、広告主はすでに広告代理店に対して同社の経営陣の交代について見解を求めており、Twitterへの広告投資を見直しているという。とはいえ、広告代理店の幹部によると、ソーシャルプラットフォームでの有料広告に関して言えば、Twitterはそもそもほとんどのブランドにとって優先事項ではないと言う。この幹部によると、TikTokは瞬く間にほとんどのマーケターの注目の的になったという。
「Twitterが持つ力と影響力は、広告には及んでいない」とメカニズム(Mekanism)のパートナーで最高ソーシャル責任者のブレンダン・ガハン氏は言う。「このことは同社の広告収入に反映されており、この分野のほかのプレーヤーに比べて低い。結局のところ、Twitterは(巨額の広告費が投入される、ニューヨークの)タイムズスクエアというよりは、どこかの街の広場(スクエア)に近い。人々は広告ではなく会話のためにそこにいるのだ」。
2021年第4四半期、Twitterの広告売上は前年比22%増の14億1000万ドル(約1800億円)だった。4月28日には2022年第1四半期の決算が発表され、広告収入は前年比23%増の11億1000万ドル(約1400億円)とされている。15年の歴史を持つ同社だが、最近のデイリー報告によると収益化可能なデイリーアクティブユーザー数は2億1700万人となっている。
「Twitterは、ほとんどの広告主にとって主要なプラットホームではない」とモーリン氏は語る。「(Twitterの)価値は、文化的な瞬間に人々の目に触れる能力にある。メディアや特定の利益団体におけるトレンドメーカーの目に触れることも価値だ。ここでの『オーディエンス』が(Twitter以外に)移動し始めれば、費やされる(広告)支出は簡単にほかの場所に行く可能性がある」。
180NYのプレジデントであるエヴァン・ワイスブロット氏は、広告主たちはマスク氏が運営するTwitterに関して「様子見」のアプローチを取り、ユーザーの動向を広告支出が追いかける形になるだろうと指摘する。「もしユーザーが紛糾し始めたら、広告主はブレーキを一気に踏むかもしれない」。
マスク氏はまた、Twitterが広告収入に注力すべきかどうかについても疑問を呈している。彼が広告収入から脱却する新しいビジネスモデルを展開する計画があるかどうかはまだわからず、それがマーケターにとってどのような意味を持つのかは不明だ。Twitterはすでに、サブスクリプション・プログラム「Twitterブルー(Twitter Blue)」によって収益の多様化を図り、寄付ツールによってクリエイターを奨励している。
Twitterはほとんどのマーケターにとって広告の主要な舞台ではないが、そうは言ってもブランドアカウントを担当するソーシャルメディアマネージャーたちは、プラットフォームの変更に対処しなければならないだろう。この変更は彼らの仕事をより困難にする可能性もあれば、より容易にする可能性もある。
「(ソーシャル)コミュニティマネージャーの役割は、十分な対応を受けておらず、十分に評価されていない広告業界の役割のひとつだ」とワイスブロット氏は言う。「彼らは戦略家であり、民族誌学者であり、コピーライター、かつ機転のきく文化の精通者だ。彼らはこの変化の多くに関して最前線に立つだろう」。
[原文:Marketing Briefing: ‘Marketers are wary’ of Elon Musk’s Twitter takeover]
Kristina Monllos(翻訳:塚本 紺、編集:分島翔平)
編注:本稿の原文は4月26日(現地時間)時点での情報に基づき執筆されたが、5月6日(現地時間)にニューヨーク・タイムズ(The New York Times)からマスク氏が買収にあたって投資家向けに行ったピッチデッキの内容がリークされた。そのなかで同氏は広告売上を全体の半分以下に押さえ、サブスクリプションなどそのほかの収益源を強化し、2028年までに大幅な売上増を目指すという大規模な方針転換の構想を明らかにしている。
広告投資の見直しが始まっている
IMGNメディア(IMGN Media)の最高戦略責任者であるノア・モーリン氏は、広告主からは「同氏の公の発言、そして扇動的あるいはヘイトスピーチとみなされる投稿に対して同氏がどのようなアプローチをとるのかについて懸念」の声が上がっていると述べた。「Twitterは、有害なユーザーによる発言の危険性を認識しながらも、相対的な自由をどう管理・確保するかという問題に取り組んできた。そしてマスク氏は、同社がとった初期の対策さえも取り消すように思われる。マーケターはそれを警戒している」。
匿名を希望に取材に応じた広告代理店幹部によると、広告主はすでに広告代理店に対して同社の経営陣の交代について見解を求めており、Twitterへの広告投資を見直しているという。とはいえ、広告代理店の幹部によると、ソーシャルプラットフォームでの有料広告に関して言えば、Twitterはそもそもほとんどのブランドにとって優先事項ではないと言う。この幹部によると、TikTokは瞬く間にほとんどのマーケターの注目の的になったという。
「Twitterが持つ力と影響力は、広告には及んでいない」とメカニズム(Mekanism)のパートナーで最高ソーシャル責任者のブレンダン・ガハン氏は言う。「このことは同社の広告収入に反映されており、この分野のほかのプレーヤーに比べて低い。結局のところ、Twitterは(巨額の広告費が投入される、ニューヨークの)タイムズスクエアというよりは、どこかの街の広場(スクエア)に近い。人々は広告ではなく会話のためにそこにいるのだ」。
「主要なプラットホームではない」
2021年第4四半期、Twitterの広告売上は前年比22%増の14億1000万ドル(約1800億円)だった。4月28日には2022年第1四半期の決算が発表され、広告収入は前年比23%増の11億1000万ドル(約1400億円)とされている。15年の歴史を持つ同社だが、最近のデイリー報告によると収益化可能なデイリーアクティブユーザー数は2億1700万人となっている。
「Twitterは、ほとんどの広告主にとって主要なプラットホームではない」とモーリン氏は語る。「(Twitterの)価値は、文化的な瞬間に人々の目に触れる能力にある。メディアや特定の利益団体におけるトレンドメーカーの目に触れることも価値だ。ここでの『オーディエンス』が(Twitter以外に)移動し始めれば、費やされる(広告)支出は簡単にほかの場所に行く可能性がある」。
180NYのプレジデントであるエヴァン・ワイスブロット氏は、広告主たちはマスク氏が運営するTwitterに関して「様子見」のアプローチを取り、ユーザーの動向を広告支出が追いかける形になるだろうと指摘する。「もしユーザーが紛糾し始めたら、広告主はブレーキを一気に踏むかもしれない」。
マスク氏はまた、Twitterが広告収入に注力すべきかどうかについても疑問を呈している。彼が広告収入から脱却する新しいビジネスモデルを展開する計画があるかどうかはまだわからず、それがマーケターにとってどのような意味を持つのかは不明だ。Twitterはすでに、サブスクリプション・プログラム「Twitterブルー(Twitter Blue)」によって収益の多様化を図り、寄付ツールによってクリエイターを奨励している。
変化に対処するソーシャルマネージャーたち
Twitterはほとんどのマーケターにとって広告の主要な舞台ではないが、そうは言ってもブランドアカウントを担当するソーシャルメディアマネージャーたちは、プラットフォームの変更に対処しなければならないだろう。この変更は彼らの仕事をより困難にする可能性もあれば、より容易にする可能性もある。
「(ソーシャル)コミュニティマネージャーの役割は、十分な対応を受けておらず、十分に評価されていない広告業界の役割のひとつだ」とワイスブロット氏は言う。「彼らは戦略家であり、民族誌学者であり、コピーライター、かつ機転のきく文化の精通者だ。彼らはこの変化の多くに関して最前線に立つだろう」。
[原文:Marketing Briefing: ‘Marketers are wary’ of Elon Musk’s Twitter takeover]
Kristina Monllos(翻訳:塚本 紺、編集:分島翔平)