夫婦生活がなくなり離婚。元夫が再婚し、子どもができたと聞いて…
ハイスペックといわれる男性は、小さなころから母親に大切に育てられていることが多い。
それゆえ、結婚してから、子離れできていない母親、マザコン夫の本性が露呈することもある。
あなたは、この義母・サチ子に耐えられますか―？
今回は、番外編として、離婚から3年後の3人の様子をお届けいたします。
▶前回：バツイチ彼氏の元妻が気になり、マンションを突撃訪問したものの。意外な質問をされ…
【番外編】 ドラマティックな女“サチ子”
将暉と離婚してから3年後、5月下旬の土曜日。
「これ、本当に美味しいよね」
好物の牛ロースとレタスのオイスター風味チャーハンをいただく駿介が、テンション高めに声を掛けてくる。
外資系金融機関に勤務する彼とは、同じゴルフスクールに通っており、レッスン後に、スクール至近にある『Minatoya 3』で、何度か顔を合わせたことを機に、仲を深めた。
将暉の趣味であることから始めたゴルフが、駿介との出会いに繋がったなんて不思議だ。
「デザートも頼んだら？」
「うん、そうするね」
食事を終えて、デザートメニューに目を通していると、スマホにLINEが入ってきた。
送り主は、なんと元姑のサチ子だ。
― えっ！？サチ子。一体何の用なの？
急いで開封してみると、『春乃さん、お元気？』というメッセージに、アイスを持ったうさぎのスタンプが添えられている。
「大変！サチ子から『お元気？』って、LINEがきた！！」
私は、すぐさま駿介に、スマホのモニターを見せながら、報告した。
久しぶりに春乃にLINEを送ってきたサチ子。その理由は…！？
「えっ！サチ子様が、降臨！？ワクワクしてきた！」
駿介が、前のめり気味に言ってくる。
幼少期と大学をアメリカで過ごした彼は、変わり者なのか、私の離婚歴を、まったく気にしていない。それどころか、過去の結婚話をしたところ、「なんて興味深い女性なんだ」と言って、サチ子のファンになっているのだ。
「ここは、既読スルーでいいかな…？」
テンションが上がっている駿介の傍ら、困惑する私。
「わざわざ連絡してくるなんて、きっとニュースがあるんだよ。絶対返信したほうがいいよ」
「もう、面白がってるだけでしょ？」
「そんなことないって。昔のこととはいえ、家族だった人を無下に扱うなんて、失礼だよ。早く返信して」
私は、渋々『再婚して、幸せに暮らしています。そちらはお変わりないですか？』と、返信する。
『まあ、そうだったのね！おめでとう。私は、もうすぐ“ばあば”になるのよ』
― えっ！？
サチ子からの返信に驚いた私は、すぐに駿介に伝える。
「もうすぐ孫ができるのが嬉しくて、LINEしてきたみたい…」
「でも、将暉さんって、春乃と離婚した後に再婚した女性とは離婚して、バツ2になったんでしょ？」
「うん、そう聞いたよ」
将暉と麻美は、再婚から1年余りで離婚したと、共通の友人から聞かされていたのだ。
「ってことは、将暉さんは、3度目の結婚？すごいね、芸能人みたい。でも、過去の話からすると、どうやって子どもを作ったのかな？マジで気になる。
ここはぜひ、サチ子様に会って、話を聞いてみるべきだよ」
「えっ！？離婚した夫の母親に会うなんて、おかしいよ」
「普通はね。でも、サチ子様は、ドラマティックな女性だから、何でもありなんだよ。ほら、ランチにでも誘ってみて」
「わ、わかった…」
夫から、元姑に会うように勧められるという、世にもおかしな展開で、私は、将暉と離婚して以来初めて、サチ子に会うことになった。
◆
1週間後の土曜日。
「春乃さん、お久しぶり。お誘いいただけるなんて、嬉しいわ〜」
表参道ヒルズの『蔭山樓』に現れたサチ子は、相変わらずのハイテンションだ。
しかし、化粧は薄くなり、シンプルなカットソーといういで立ちだ。
オーダーを終えた私は、早速気になっていたことを、尋ねた。
「あの、将暉さんと麻美さんは、何で離婚したんですか？」
するとサチ子は、無邪気な様子で、語った。
「あの女のことが、大大だ〜いっ嫌いだったの。だから、パパに頼んで、離婚するように仕向けたのよ。私の作戦勝ちね」
サチ子が語ったもうすぐ“ばあば”になる理由に春乃は驚愕する…！
将暉は、慣れない地方での生活にすっかり消沈し、銀行を辞めて彼の父親が経営する不動産会社に入りたいと、頼み込んだ。
そこでサチ子は、これは好機とばかりに、麻美と離婚することを条件に受け入れるよう、夫を泣き落としたという。
「まあくんは、あっさり離婚を選んだわ。所詮、まあくんのあの女への想いなんて、そこまでだったってことね」
「そ、そうだったんですね…」
想像を超える真実だが、不思議と驚かない私。気を取り直して、本題に入る。
「もうすぐお孫さんが生まれるってことは、将暉さんは、再婚したんですか？」
「再婚を見据えてお付き合いしている方がいるの。ミキさんっていうんだけど、とてもいい方なの。“マッチングなんとか”で、知り合ったのよ〜」
「なるほど！“授かり再婚”されるってことですね。おめでとうございます！」
私が笑顔で言うと、サチ子は、想像の斜め上をいく返答をした。
「違うわ。ミキさんはバツイチで、前のご主人との間に生まれた子どもがいるのよ」
「えっ、子どもがいる女性との再婚？」
サチ子なら、断固反対してもおかしくはないのにと、驚く私。
「話を聞いた当初は、猛反対したの。でも、ユウトちゃんに会ったら、あまりにも可愛くてね。血の繋がりなんて、どうでもよくなっちゃったわ〜」
サチ子が、嬉しそうにスマホで写真を見せてくる。もうすぐ4歳になる男の子で、サチ子に懐いている様子だ。
「とーってもお利口さんで、まあくんの子どもの頃に似てるのよ。ほらこの写真も、可愛いでしょ！？」
弾丸トークとともに、大量の写真を見せつけられる。その中には、ユウトちゃんと手を繋いで歩く将暉の姿もあった。
― 将暉も幸せにやってるじゃない！よかった…。
離婚した当初は、二度と顔も見たくない存在だと思っていたが、時が経ったからか、自分が今心から幸せだからなのか、彼が幸せそうであることを、嬉しく思った。
「これからユウトちゃんが遊びに来るの〜。今日は、会えて嬉しかったわ」
カルティエのパンテールの腕時計を見たサチ子が、焦って声をかけてきたので、お開きにすることとなった。
店を出たところで、私は、サチ子に声をかける。
「今日は、突然お誘いして申し訳ありませんでした。お義母様も将暉さんもお幸せそうで、安心しました」
「ずっとお会いしたいと思ってたから、とっても嬉しかったわ。じゃあお元気で」
そう言って手を差し伸べてきて、固い握手を交わすと、サチ子は、颯爽と立ち去って行った。
― まさかこんなに仲良くなるなんてね…。
彼女の背中を見つめる私は、サチ子との間には、強い絆が生まれているなと、しみじみ思った。
― それにしても、子どもって偉大なんだな。
ユウトちゃんの話を、幸せいっぱいの表情で語るサチ子を思い返して、心が温かくなる。
そして、今日の話を楽しみに待っている夫の顔を思い浮かべた私は、急いで赤坂のマンションに、帰宅することにした。
Fin.
▶前回：バツイチ彼氏の元妻が気になり、マンションを突撃訪問したものの。意外な質問をされ…
▶1話目はこちら：プロポーズの直後、彼のスマホに1通のLINEが。慌てた男が口にした衝撃の告白
