今、自宅で保管している金(ゴールド)が特殊詐欺犯に狙われている。2022年1月、オレオレ詐欺で3000万円以上の価値がある金塊を詐取される事件が首都圏で続けて起きた。ルポライターの多田文明さんは「『息子』を名乗って高齢者宅に電話して、お金を振り込ませるのではなく、所有していた金塊を詐取するのです。過去には買わせた金塊の詐取もありました」。なぜ、そんなことが可能なのか――。
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■2022年になって自宅の金塊を詐取される事件が続発

2022年に入って、「息子」を名乗ったオレオレ詐欺犯によって金塊を詐取される事件が続いています。こうした詐欺はいったん成功事例が生まれると、同様の手法がその後も繰り返し行われる傾向があります。読者の皆さんもオミクロン株感染防止同様に最大級の警戒をしてください。

今回の手口は具体的にはどんなものだったのでしょうか。

1月21日、千葉県に住む80代女性の自宅に、息子や医師などをかたった複数の人物から電話がかかり、その後、家にやってきた男性に金の延べ板10枚(計5kg)を渡してしまっています。3500万円相当といいますから、かなりの被害金額です。

10日ほど前にも都内に住む80代女性が、やはり息子をかたる人物からの電話を受けて、60万円と3000万円相当の計4個(約4kg)の金塊を詐取されています。

両事件とも、詐欺犯のアプローチは同じです。

「かばん(や携帯電話、財布)をなくしてしまった。すぐにお金が必要なので貸してほしい」

以前からオレオレ詐欺でよく使われる古典的なセリフであるにもかかわらず、なぜ、大事な金塊を差し出してしまったのか。

■5年前と今回の金塊詐欺金の共通点・相違点

実は、この金塊詐欺は以前にもありました。約5年前にも、手口は若干違っているものの複数件、発生していました。

その時も、息子などの身内をかたった「オレオレ詐欺犯」からの電話がきっかけでした。

息子になりすました男は「かばんをなくした」と言い、「実は、そのなかに仕事の重要な契約書類が入っていた」と畳みかけます。そして「今日中に、支払い先へのお金を立て替えなければならないので、貸してほしい」と言います。

ここまでは定番のだましの手口ですが、ここからが違いました。

当時も、振り込め詐欺への警戒はかなり強まっていました。もしここで高齢者を銀行に行かせて、多額のお金を引き出させたとすれば、銀行側が「詐欺」を疑うことは間違いありません。そこで詐欺グループは一計を案じて、次のような手を打ってきました。

「銀行口座から、一度にたくさんのお金を下ろせないから、金(金塊)をまず買ってほしい」

そう高齢者に話したのです。都内に住む70代女性は、なりすました人物から指示された金の販売会社の銀行口座に5000万円以上を振り込みます。おそらく窓口でお金を引き出して振り込みを行ったと考えられますが、なぜ、容易にそれができてしまったのでしょうか。それは、この販売会社が詐欺グループとは何の関係もなかったと思われるからです。一般の会社との正規の取引であれば、よもや銀行もその背後に詐欺グループがいるとは想像もしなかったことでしょう。それに、資産防衛や投資目的のために、値上がりが期待できる金を購入する高齢者は少なくありません。

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その後、金の延べ板12本が自宅に届けられます。その頃を見計らって、詐欺グループは、「支払い先へのお金を払わないとクビになる」といった口実で高齢者を無理やり説得した宅配バイク便の業者を向かわせて、金塊をまんまとだまし取ることに成功したのです(その後、金の買い取り業者に転売したと思われる)。

当時、他にも同様の手口による被害者もいますが、やはり数百、数千万円の高額な被害になっています。

銀行側でも高額な引き出しであれば、詐欺との疑いを持てるでしょうが、このような金の購入をして、金品をだまし取る手口は知られておらず、しかも一般の会社へ正規の取り引き(振り込み)となれば、詐欺とは気づかなかったのも致し方ないといえます。まさに虚を衝く手口でした。

■なぜ、資産状況をべらべら第三者にしゃべってしまったのか

今年に入って続発する金塊詐欺も、5年前に被害に遭った人たちと同じように「カバンをなくした」という電話がきっかけでした。しかし5年前と違う点は、タンス預金に何があるか、資産状況を聞き出したうえで、自宅にある金塊を持ち去る方法に変えてきていることです。

冒頭で触れた、1月上旬に現金60万円と3000万円相当の計4個の金塊を詐取された都内在住の80代女性。港区・麻布署によると、息子を名乗る男は「印鑑などが入ったかばんをなくしてしまい、お金をおろせないんだ」と言い、さらに「お金を貸してほしい」といった話をしてきたそうです。高齢女性は、その話を信じて「家に金の延べ棒がある」ことも伝えてしまいました。しかも、男は息子の名前だけでなく、職業についても知っており、それで女性も真実だと思ってしまったのでしょう。

これまで詐欺犯らがだまし取るものといえば、現金やキャッシュカードでしたが、そこに金塊も加わったといえます。

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その背景には、コロナ禍で金の価格が上昇し、それを購入する高齢者が増えたこと。さらに、詐欺グループも、金を高値で転売することができる状況があると踏んでの犯行ではないかと思われます。

歴史的にみて、詐欺は既存の手口に新たなものを加えアレンジしながら、常に“進化”しています。今回の手口も「カバンをなくした」という電話をかける従来のオレオレ詐欺をベースに「金塊詐取」というひねり技を混ぜて再登場させたということでしょう。

それにしても「なぜ古典的ともいえるオレオレ詐欺の手口でだまされてしまうのか」「なぜ資産状況をべらべら他人にしゃべったのか」と疑問に思う方が多いでしょう。

■「役所の者」「NHK番組スタッフ」をかたり資産を把握する姑息な技

その理由のひとつに、詐欺の前触れ電話である、アポイント電話(アポ電)の巧妙化があります。電話をかけた相手に詐欺をしているとは思わせずに、役所などをかたり、情報をさりげなく抜き取っていく。このやり方が悪い意味で洗練化しているといえます。

以前に、NHKの番組アンケートを装った詐欺犯と思われる人物からのアポ電が報道されたことがありました。自称番組スタッフはまず「現在、お一人暮らしですか?」と問いかけます。そして「お買い物はお一人で行かれますか?」と尋ねて、銀行にお金を引き出しに行ける人物かを探ります。極めつきは、最後の質問です。

「(世の中の一般世帯の)預貯金平均額は600万円との数字が出ています。具体的な金額はお聞きするのは控えさせていただきますが、その金額より『上』か『下』かだけお答えください」

相手が「上です」と答えれば、「ありがとうございました」とさっと電話を切ります。番組アンケートの時間は全部で1分と少々です。すでにこの電話をかけているわけですから、名前、住所などの個人情報はある程度、わかっていることでしょう。そこに資産の状況が加わるわけです。

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今回の詐欺事件も、似たような洗練された聞き出しの手法によって金塊の有無を含む資産状況などの重要な個人情報の多くが丸裸にされてしまったなかで、被害者に遭った高齢の女性は相手が本当の息子であると信じてしまい、トラブルに巻き込まれた息子を救うためなら、と金塊を差し出してしまったのではないかと考えています。

被害を防ぐためには、やはり「電話の詐欺は電話で防ぐ」という発想が大事になります。

先日も80代女性の家に詐欺の電話がかかってきましたが、AI(人工知能)機能が付いた装置を電話機に取り付けていたために「詐欺」とのアラートが区役所職員のもとに伝わり110番をして、お金を受け取りにきた14歳の少年が警察に逮捕されています。まさに、電話機が本人も気づかない詐欺を見抜いたわけです。

振り込め詐欺の被害が深刻になってきた時から、玄関に鍵をかけるように「電話にも鍵をかける」ことが大事であると訴えてきました。しかし当時は、あまりこうした防犯意識は乏しく、留守番電話にして知らない電話番号には出ないくらいしか方法がありませんでした。しかし今は、多くの会社がさまざまな詐欺対策用の電話を発売しています。

筆者の親も、自宅に詐欺対策用電話をつけましたが、こちらが電話をかけると、その番号を認識して「文明さんです」といった音声が流れて、親に教えてくれるのです。呼び出し音がなるととっさに電話に出てしまう高齢者の方もいますので、こうした音声で相手が誰かを知らせる手立ても、不審な電話を取らないためにも有効だといえます。ぜひとも、詐欺対策用電話を設置していない方は、「電話の詐欺は電話で防ぐ」ためにも検討することをお勧めします。それがだまされないことにつながります。

このご時世、自宅に多額の現金を置いていなくても、金塊を置いている人は、案外多いかもしれません。くれぐれも警察、役所など何者かになりすましたアポ電を通じて資産状況を知られないようにしてください。これで個人情報を伝えてしまうと、詐欺に遭う確率はぐっと増してしまいます。約5年ぶりに手口を変えて連続して発生した金塊詐欺をぜひとも覚えておき、被害を防いでください。

筆者の思うところですが、金塊はそれなりに重量があり、それを受け取った詐欺犯が、長時間持って歩くことは疑われやすく、難しいかと思います。となれば、車内などで待っていた近くの人物に受け渡すなどしているのではないかと考えます。

そこで、見守る私たちも、不審な車両が高齢者宅の近くに止まっていないかを気にしてあげることも大事になります。

それに、なんとも世知辛い世の中ですが、重そうな袋を持参した見知らぬ人物が高齢宅から出てくれば、これまた詐欺かもしれないと疑うことも必要なのかもしれません。

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多田 文明(ただ・ふみあき)
ルポライター
1965年生まれ。北海道旭川生まれ、仙台市出身。日本大学法学部卒業。雑誌『ダ・カーポ』にて「誘われてフラフラ」の連載を担当。2週間に一度は勧誘されるという経験を生かしてキャッチセールス評論家になる。これまでに街頭からのキャッチセールス、アポイントメントセールスなどへの潜入は100カ所以上。キャッチセールスのみならず、詐欺・悪質商法、ネットを通じたサイドビジネスに精通する。著書に『サギ師が使う交渉に絶対負けない悪魔のロジック術』、『迷惑メール、返事をしたらこうなった。』、『マンガ ついていったらこうなった』(いずれもイースト・プレス)などがある。
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(ルポライター 多田 文明)