多くの人が不安を感じるの定年後、老後の生活。年金問題や、上がらない給料、そして、コロナ禍がさらに不安に拍車をかけていることでしょう。「現実を見ないまま漠然と『不安だ』と感じている人が多いのでしょうが、この先どれだけ厳しい将来が待っているのかを知り、今すぐ具現的な対策をする必要があります」と口を揃えるのは、“積立王子”の異名をもつセゾン投資会長CEOの中野晴啓さんと、“年金のプロ”でファイナンシャル・プランナーの井戸美枝さん。私たちがこれからするべきことを教えてもらいました。

将来のお金の不安が軽減。iDecoとつみたてNISAをすぐ始めるべき理由

内閣府の「国民生活に関する世論調査」(令和元年6月調査)では、日常生活のなかで「悩みや不安を感じている」人のうち、「老後の生活設計について」と答えた人が56.7%もいます。一方で、「家計の金融行動に関する世論調査」(2020年、金融広報中央委員会)では、「生活設計を立てている」と答えた人は2人以上世帯で43.3%、単身世帯で29.8%。つまり、不安は感じつつも具体的な準備を始めている人は多くないのが実情です。

 

●日本はどんどん貧乏になっている

 

「いま、日本はどんどん貧しくなっています」と言うのは中野さん。
「80年代バブルを経験した方はわかると思うのですが、1980年代後半は日本がお金持ちだったので、企業は海外で不動産などの資産をさかんに買っていました。身近なところでは、20代の会社員がブランド物を身につけていたものです。ところがいまはそうではない。高くて買えないんです」

日本は世界第3位の経済大国ですが、国民の実質的な豊かさを表す「一人あたり購買力平価GDP」(2019年)では、今や世界35位…!

例えば、日本がバブル景気に沸いていた頃、シャネルのマトラッセチェーンショルダーは15万円程度で売られていました。現在では、それと似たデザインのクラシックスモールハンドバッグが83万円ほど。「ちょっと手が出ない…」と腰が引けてしまいますよね? でも、世界に目を向けると、この値段でも買える人はいます。

さらに、もっと身につまされるデータも紹介します。国際的な経済機関OECDの調べでは、日本人の平均賃金は1990年が年間3万6879ドル、2018年が3万8462ドルで、“微増”というかほぼ“横ばい”…。これに対しアメリカは1990年が4万6975ドル、2018年が6万9392ドル。OECD加盟34か国の平均は1990年が3万6941ドル、2018年が4万8219ドル。アメリカは1.5倍、OECD平均も1.3倍に。それに比べて日本はというと……これが私たちの“現実”なんです。

 

●預貯金だけでは老後資金はつくれません

少しでも将来の蓄えになればと、毎月節約してコツコツと貯金をしている人もいるでしょう。しかし! 仮に毎月10万円ずつ貯めても、預金金利が0.01%ならば10年後の貯蓄額は1200万5952円。税引前でも、たったの5952円しか増えません。そのうえ、将来に備える資産が預貯金だけだと、インフレが起きたときに、実質的に資産が目減りする可能性もあります…。

ここで気になるデータを紹介しましょう。過去20年でアメリカの家計の金融資産は2.7倍、イギリスの金融資産は2.3倍に増えています。これは、株式や投資信託などの金融商品での運用が、資産を増やすうえで大きな効果を発揮しているから。これに対し、日本の金融資産は1.4倍にしかなっていません。

「残念ながら、預貯金だけで老後資金を準備するのが難しいことは確かなのです」(中野さん)

 

●だからこそ「iDeCo」と「つみたてNISA」に注目!

ちなみに、アメリカ人は運用した結果、豊かになったとはいえ、みんなが投資のプロではありません。多くの場合、国が用意した制度で投資信託を積み立てて資産を増やしているのです。じつは、日本にも税制優遇メリットを享受しながら投資信託を積み立てて資産形成できる制度があります。それが「iDeCo」と「つみたてNISA」です!

「お金の不安を解決する方法は、インフレに負けない資産を持つことです。そのためには、『iDeCo』と『つみたてNISA』を利用し、税制優遇メリットを享受しながら、世界中の株式や債券などに分散投資する投資信託で積み立てることが有効な選択肢のひとつだと言えます」(井戸さん)

この2つの制度は、アメリカやイギリスの制度を参考にして日本政府がつくったもので、資産形成の強い味方になります。

例えば、iDeCoやつみたてNISAには、運用益が非課税になるメリットがあります。運用で得た利益が100万円あった場合、通常(課税口座で運用した場合)は20.315%の税金が課されるのですが、この制度を使えば金額にして20万円以上も節約することができるのです。

また、iDeCoは2022年にさらに便利になる制度改正があります。これまで加入可能年齢が「20歳〜59歳」だったものが「20歳〜64歳」に。そして、受給開始年齢が「60歳〜70歳」だったのが、「60歳〜75歳」までに。つまり、税制優遇メリットを受けながら、それだけ長く運用することができるようになります。

「投資というと、『難しそう』と二の足を踏んだり『勉強しないとできない』と尻込みする人もいます。でも、始めなければいつまでたっても資産はつくれません。一日でも早く一歩を踏み出せば、それだけハッピーな老後を送れる可能性が高まります」(井戸さん)

 

年末年始は、新しいことを始めるいいタイミング! お金の不安を少しでも解消するために、みんなで「一歩」を踏み出しませんか?