家電大手のエディオンが「Oracle Exadata」で構築した基幹システムをクラウドに移行した。選んだクラウドサービスは「Oracle Cloud Infrastructure(OCI)」だ。基幹業務のクラウド化だけでも難行だが、合わせて内製化も進めたという。そこまでの道のりと今後の展望について、同社の情報システム開発部部長を務める松藤伸行氏、情報システム企画部システムプロデューサーを務める小堀陽士氏に聞いた。



経営層からの指示で始まったクラウドへの旅路

エディオンは家電を中心に4つの事業の柱を持ち、グループ全体で約1200の店舗を全国展開する。そのエディオンが、基幹システムをOracle Cloud Infrastructure(OCI)に移行するという大作業を行い、2020年11月に無事稼働に入った。クラウド環境に移したのは店舗システム、会員情報、物流や在庫管理、分析系システムなど12種類。まさに企業を支える基幹のシステムで、約200台の仮想サーバ、それに物理サーバを全面移行した。

それまでの基幹システムは、2015年にオンプレミスのOracle Exadata上に構築したものだったが、クラウド化に踏み切ったのは他でもない経営陣の意向だったという。

「新しいサービスを導入するにあたって、インフラの調達でリードタイムがかかっているという課題感がありました」(松藤氏)。そこで、すでにトレンドとなっていたクラウドを検討しては、という経営陣の意向を受けて、松藤氏と小堀氏を含む約5人によるプロジェクトが立ち上がった。「当時はクラウドについてまったくわからない状態」(松藤氏)だったが、新しい技術の取り組みにチャレンジしたいという意欲はあった。データセンターが閉鎖になるというタイミングもあり、クラウド移行を前提に情報収集からスタートした――2018年のことだ。

移行先として、OCI以外のクラウドサービスも検討したが、Exadataのワークロードの性能要求が満たせなかったことから日本オラクルに相談。その後、2019年にOCIの東京リージョンが提供されること、そしてOCIベースのExadataのクラウド「Exadata Cloud Service」が登場するという情報をもらい、OCIを本命にした。

もちろん、不安がすべて解消されたわけではない。「クラウドとオンプレミスでは仮想ソフトウェアも異なる上、オンプレミスで動いていたバージョンが古いこともあり、アップグレードしてクラウドに移行しなければならなかった」(松藤氏)という問題もあれば、「ネットワークのレイテンシーは大丈夫か」(小堀氏)というクラウドならではの懸念も出てきた。

ベンダー任せは卒業、自分たちでプロジェクトを進める内製化へ

加えて、経営層からは「内製化」というお題も突きつけられていた。松藤氏は、内製化についてこう説明する。

「ベンダー主導のプロジェクトでは、ベンダーの計画や人員などベンダーの事情に左右され、なかなか”ノー”と言えない。だからと言って、他のベンダーに切り替えることもできない――こうした状態に対して、問題意識を持っていました。そこで、今回のプロジェクトは新しいサービスをスピード感を持って開発して提供することを目的に、何をどうするのかを、自分たちで考えるところからはじめました」

プロジェクトを進める中で、「ベンダーを入れないと無理」という声もあったが、「自分たちが内容を把握してプロジェクトを進めるという方針に変える」という決意は固かったようだ。

では、具体的にどのようにして作業を進めたのだろうか。まず、ネットワークへの懸念は、デザインを変更し、店舗からデータセンターに集約していた回線をクラウド接続サービスを提供するデータセンターにつなぎ直すことで払拭した。さらに、2020年2月にOCIの大阪リージョンが開設されたことから、本社に近い大阪リージョンをメインに東京リージョンとDR(災害復旧)環境も構築した。

基幹システムだけに、可用性は重要な要件だ。オラクルと非機能要件定義を進め、「Oracle Cloud Maximum Availability Architecture(MAA)」のベストプラクティスに則るかたちでの実装を決断した。



通常なら数カ月かかる作業を数日で完了

移行にあたっては、いくつかの工夫があった。本番環境にデプロイする前に行うアプリケーションのテストは、「Oracle Real Application Testing」を活用して短期間で行った。

データベースの移行では「Oracle GoldenGate」「Oracle GoldenGate Veridata」、カスタム開発ツールのファイル移行ツールなどを活用した。小堀氏によると、まずはオンプレで毎日作成しているバックアップファイルをクラウドに転送して復元する。データ量が多いので3日を要するため、クラウドで復元したデータは4日前の時点のものだ。オンプレではその間も変更が発生しており、この差分を復元するためにGoldenGateを使ったとのこと。

最終的には、切り替え当日にオンプレのデータベースを一旦停止し、最終的な差分をクラウドに移してオンプレとクラウドを同じ状態にした後、クラウドを立ち上げて稼働させるというやり方をとった。リスクを回避するため、クラウドからオンプレミスへの逆同期も設定していたそうだ。

もう一つの工夫が、”Infrastructure as Code(IaC)”だ。「できるだけ手作業をなくすという方針を立てました。クラウドになるとコードで構築もできますが、コード化しておけば、うまくいかないとなった時にコードを書き換えればいい」と小堀氏。DR環境を構築する際も短期間で効率よく一気にサーバをデプロイすることができたという。

「通常なら1〜2カ月かかるような作業が数日程度で完了したことは大きかったです」と小堀氏。ツールとしては「Terraform」(HashiCorp)や「Ansible」などオープンソースの枯れた技術を使ったが、これも自分たちで調べたそうだ。

結果として、2019年末にクラウド移行を決定、要件定義から稼働までの移行プロセスを11カ月で完了した。コロナ禍と重なっていたが、元々テレワーク環境が整っていたこともあり、全員リモートでプロジェクトを進め、予定通りに進行できたという。

本稼働に入って半年以上が経過するが、問題なく動いていると両氏は胸を張る。

Oracle Cloud Infrastructureに移行した後のエディオンのシステム環境


内製化への挑戦で変わったIT部門の意識

クラウドへの移行の目的だったスピードについては「メリットを感じるのはまだまだこれから」(松藤氏)というが、既に実感しているメリットとして「ハードウェアの運用保守は大幅に削減された」ことを挙げる。「今後は、運用保守を担当していた人員をコアビジネスにアサインしたい」と松藤氏。コストについても、「効果が出てくるのはこれからだが、少なくとも5年に1度のハードウェア保守切れに伴うリプレースがなくなった」という。

そして、何よりも感じているのは、IT部門の意識の変化だ。小堀氏はこう説明する。「これまでアプリケーションチームや企画チームは、インフラチームに『こういうシステムが作りたいからインフラを用意して』という依頼をして、インフラ環境は準備してもらうものという意識でした。しかし今では、アプリケーションチームや企画チームがクラウド前提でインフラの要件定義を考えるようになりつつあります。全員がクラウドをちゃんと使うためにはどうすればいいのかを考えるようになりました」

クラウドに二の足を踏む企業に対しては、「オンプレと違って機器を買う必要がない。コンピューティングリソースを簡単に準備できるので、とりあえず動かすことができる」と松藤氏はアドバイスをする。加えて、「まずは構築作業に取り掛かる。小さく構築して動かすことができたので、大丈夫だろうという見込みを最初に持ってから進めました」と語っていた。

「今後、オンプレで何かをやるということはないだろう」という小堀氏。内製化とクラウドにより、「以前ならベンダーにお願いしていたところを、現在クラウドで利用できる技術だとどうやればいいかといったことを全員で考えるようになりました」とも話す。

プロジェクトを振り返って、「OCIにリフトしてDR構成を強固に作ることができました。自分たちでやれたことで自信がつきました」と語る両氏、今後はアプリケーションのモダン化を進めたいと目を輝かせていた。