Chromebookの日本語入力を正しく理解する - キー割り当て検証や設定、使い方
Chromebookの日本語入力に関しては、Googleのヘルプページにも簡単な解説しかない。そこで、これを調べてみることにした。結論から先に書くと、まず、日本語入力時に利用できるキーは、(表01)のようなものになる。これ自体については後で解説するとして、Chromebookで日本語入力を行うとき、あらかじめ認識しておくべきことがある。
Chromebookでは、ユーザーの好みに応じてキー割り当てなどを「カスタマイズ」することがほとんどできない。このため、Windowsなどのように自分で日本語入力のキー割り当てを変更するといったことは不可能だ。日本語入力のためのIMEをインストールする、あるいは、差し替えることもできない。Chromebookでは、デフォルトの日本語入力機能やキー割り当てをそのまま利用するしかない、ということは理解しておいたほうがいいだろう。
Chromebookの日本語入力は、「Google日本語入力」または「Mozc」と呼ばれるソフトウェアが使われている。基本的な部分は同じだが、Googleの製品に組み込まれているものを「Google 日本語入力」(Google Japanese Input)と呼び、これをChromium OSに対応させるためにオープンソース化したものがMozc(モズク)である。話がややこしくなるため、Chromebookの日本語入力エンジン(変換エンジン)をこの記事ではMozcと表記することにする。
本記事では記述が煩雑になることを避けるため、Chromebookの基本的な操作については解説しない。必要に応じてChromebookヘルプや実機のヘルプ機能などを参照してほしい。以下の実際の機能解説は、Chromebookというよりも動作しているChrome OSの解説に相当するものだが、似たような用語が混在することになるため、できるだけChromebookに表記を統一している。なお、検証に用いたのは、ChromeOSバージョン91.0.4472.114(Official Build)である。
Chromebookの言語設定
Chromebookの日本語入力を正しく理解するには、Chromebookで言語やキーボード配列をどのように扱っているかを多少理解する必要がある。Chromebookでは、日本語入力を行うには「キーボード言語」を切り替える。この点は、WindowsやLinuxなどのIMEとは大きく考え方が違う。たとえば、Chromebookには「IMEをオン」にするというキー割り当ては存在せず、IMEが有効になるキーボード言語を選択することでIMEが利用できるようになる。
Chromebookの言語設定には、大きく「表示言語」と「入力方法」がある。表示言語は、Chromebookのメッセージ表示などをどの言語で行うかを指定するもの。これに対して入力方法は、キー配列と言語入力機能(かな漢字変換などのIME)を組み合わせた「キーボード言語」を指定するもの。キーボード言語は複数登録可能で、これをキーボードショートカットで切り替えることができる。設定は、「設定ページ→詳細設定→言語と入力方法」から行う。キーボード言語の設定は、「入力方法」から行う。
日本語入力に利用できる「キーボード言語」には、(表02)のようなものがある。「キーボード言語」は、キーボード配列とIMEがセットになっており、IMEが有効な言語キーボードを選択すれば、自動的にIME(Mozc)が有効になりIMEに応じて、かな漢字変換などが可能になる。たとえばキーボード言語として「日本語」を選択すると、Mozcが有効になり、設定に応じてローマ字変換、かな漢字変換が利用できる。このとき、キーボード配列はJIS準拠になる。シフトキーを押しながら「;」(セミコロン)キーを押すと「+」が入力される。
「英数字(日本語)キーボード」を選んだときには、IME(Mozc)は有効にならず、押したキーがそのまま入力される。このときも、キーボード配列はJIS準拠だ。しかし、「英語(アメリカ)」を選択すると、同じようにMozcは無効で押したキーがそのまま入力されるが、キーボード配列はUS配列となり、シフトキーを押しながら「;」(セミコロン)キーを押すと「:」(コロン)が入力される。
キーボード言語を切り替える
このキーボード言語を切り替えるChromebookのキーボードショートカットが「Ctrl+Shift+Sp」と「Ctrl+Sp」である(図01)。「Ctrl+Shift+Sp」は、登録されているキーボード言語を順次切り替えていくものだ。なお、キーボード言語は、登録した順番にかかわらず、システムで定める順序でしか並ばない。このため、登録してあるキーボード言語が同じなら、Ctrl+Shift+Spで切り替わる順序も常に一定になる。
これに対して「Ctrl+Sp」は、前回入力したキーボード言語に戻るためのものだ。ただし、登録されているキーボード言語が2個以下の場合、Ctrl+SpとCtrl+Shift+Spは同じ動作となり、2つのキーボード言語を切り替えるものとなる。しかし、キーボード言語を3つ以上登録している場合、Ctrl+Spは、このうちの2つの間を行き来する動作となる。たとえば、「日本語」、「英数字(日本語)キーボード」、「英語」を登録している場合、「英語」で文字入力を行い、Ctrl+Shift+Spで「日本語」にキーボード言語を切り替えると、以後はCtrl+Spを押すたびに「英語」と「日本語」が切り替わる。
「Ctrl+Shift+Sp」と「Ctrl+Sp」のキーボードショートカットは、キーボード言語を切り替えるためのもので、日本語入力だけのものではない点に注意が必要だ。たとえば、他の言語、フランス語やイタリア語のキーボード言語が登録されていれば、このキーはそれらの切り替えも行う。このため、複数言語を使った入力作業も比較的難しくない。あらかじめ入力したいキーボード言語を登録しておけば「Ctrl+Shift+Sp」でそれらを切り替えていくことができる。
英語キーボードのChromebookに外付けJISキーボードを接続したような場合でも、USキーボード用、JISキーボード用のキーボード言語を登録しておけば、どちらもでも入力作業が行える。内蔵キーボードで作業するときには、USキーボード配列の「英語」と「日本語(US)キーボード」をCtrl+Shift+Spで選択すれば、以後「Ctrl+Sp」は、この2つを行き来するキーボードショートカットになる。逆に外付けのJISキーボードで作業する場合「日本語」と「英数字(日本語)キーボード」を選択しておけば、Ctrl+Spは、この2つのキーボード言語の間を行き来する。
GUIからキーボード言語を切り替える
キーボード言語は、GUIからも操作可能だ。それには、シェルフに「入力オプション」を表示させておく必要がある。「設定ページ→詳細設定→言語と入力方法→入力方法」にある「シェルフに入力オプションを表示」をオンにする。すると、シェルフの右側(ステータス領域)に現在選択されているキーボード言語を示すインジケーター(入力オプション)が出る。これをタップ、クリックすると、「入力方法」のポップアップウィンドウ(フライアウト)が表示さる(写真01)。また、「Shift+検索+K」で、このフライアウトを開くことも可能だ。
このフライアウトで右側にチェックマークがついているのが現在有効なキーボード言語だ。また、IMEが有効なキーボード言語を選択すると、下に入力モードの切り替えが表示される。Mozcが有効な場合には、「ひらがな」、「全角カタカナ」などの入力モード(入力文字種)を選択できる。これを選択することで、入力したローマ字が入力モードに応じて変換される。ただしChromebookには、この入力モードを直接切り替えるためのキー割り当ては存在しない。フライアウトが開いているとき、Tab/Shit+Tabで項目を順次選択してEnterキーで変更することはできるが、直接、全角カタカナ入力モードに変更するという操作はキーボードからはできない。Mozcが有効になっているときにも、入力モードを変更するキー割り当てが利用できないため、Chromebookでは、入力前に文字種をキーボードから選択することは不可能で、ここでGUI操作を行うか、ひらがななどで入力し後変換でカタカナや半角英数などに変換する。ここは、他のプラットフォームの一般的な日本語入力とは違う点だ。
Chromebookの物理キーボード
Chromebookの物理キーボードとしてJIS配列キーボードが搭載されている場合、日本語入力に利用できるキーには「英数」、「かな」、「かな↔英数」の3つのキーがある(表03)。「英数」は、「英数字(日本語)キーボード」を選択するもので、「かな」は、キーボード言語の「日本語」を選択する。「かな↔英数」は、キーボード言語の「日本語」と「英数字(日本語)キーボード」を交互に切り替える。
Chromebookの「英数」、「かな」、「かな↔英数」は、USBでPC用キーボードを接続した場合には、「無変換」、「変換」、「半角/全角」に相当する。また、「かな↔英数」キーは、Windowsなどと同じくUS配列キーボードでは、逆クオートキー「`」が対応する。
Mozcの使い方
Mozcは、キーボード言語「日本語」または「日本語(US)キーボード」が登録さており、かつ有効になったときのみ起動する。同じ日本語のキーボード言語でも「英数字(日本語)キーボード」では、Mozcは有効にならない。Mozcが有効になった状態は、Windowsなど他の多くのプラットフォームで「IMEがオン」になったときと同じだ。
Mozcには、6つの状態がある(表04)。キー割り当ては状態ごとに定義されていて、同じキーでも状態により動作が違う。状態のうち、わかりにくいのは「サジェスト」(Suggestion。ソースコードではサジェスト表示中)と「サジェスト選択」(Prediction。同サジェスト選択中)だ(図02)。Google日本語入力として動作するとき、入力を開始すると、入力位置に表示されるのがサジェストだ。これは、インターネットなどからの情報を元にGoogle日本語入力が行うもの。カーソルキーの↓で選択状態に入ったときが「サジェスト選択」である。下矢印ではサジェスト選択状態に入ることはできるが、上矢印では入ることはできない。
「未入力」状態は、Mozcは有効になっているが、文字を何も入力していない状態、「入力中」は、文字を入力して、変換キー(スペース)などを押す前の段階だ。ここでは、文字種の変換が行える。「変換中」とは、入力中から変換キーや文字種変換キーを押して変換状態に入った段階だ。ここでは、入力文字列が変換され、文節単位での移動ができる。このとき標準のキー割り当てではダイヤモンドカーソル(図03)が利用可能だ。Mozcは「変換中」にEnterキーなどで文字列を確定させると、「未入力」状態に戻る。
Mozcの設定
Mozcの設定は、「設定ページ→詳細設定→言語と入力方法→入力方法」でキーボード言語「日本語」または「日本語(US)キーボード」の左側にある矩形と矢印のアイコンをクリックすることで開く(図04)。ここにはいくつかの重要な設定がある。
「ローマ字・かな入力」では、ローマ字変換入力と、JISカナ入力の選択が行える。「キー設定の選択」を使うことで、キー割り当てを標準の「Chrome OS」以外、「ATOK」、「MS-IME」、「ことえり」の3つのパターンから選択できる。前述のようにプリセットされたキー割り当てを切り替えることはできるが、個々のキーを変更することはできない。
入力補助にある「シフトキーでの入力切り替え」は、シフトキーを併用して文字入力を行ったとき、カタカナ入力にするか、英数入力にするかを指定するものだ。ひらがな入力のとき「A」キーをおせばローマ字では「あ」、カナ入力では「ち」が入力されるが、シフトキーを押しながらAキーを押したとき、それぞれ「ア」、「チ」になるのが「シフトキーでの入力切り替え:カタカナ」である。これに対して「シフトキーでの入力切り替え:英数字」では、どちらも全角の「A」が入力される。カタカナ語の入力が多いか、英数の入力が多いかで切り替えると便利だが、シフトキーを押すか、またはCapsLock(Alt+検索)をオンオフしながら入力する。
Chromebookでは、いまのところ、日本語入力中にキーボードショートカットで単語登録ダイアログを表示させることはできず、単語登録は、このページからしか行えない。開くのが面倒なので、ブックマーク登録するか、ラウンチャーにショートカットを登録するといいだろう。Mozcの設定ページは、ブラウザの中で開く。この状態でChromeメニュー(アドレスバー右端の点が縦に3つ並んだアイコン)から「その他のツール→ショートカットを作成」をクリックする。これでラウンチャーにこのページを開くショートカットが登録される。以後は、それを使えば、すぐにMozcの設定ページが開く。
その他のキーなど
その他、日本語を含むテキスト入力時に役立ちそうなキーボードショートカットを(表05)に示す。これらは、Mozcとは無関係なChromebookのキーボードショートカットであるが、日本語を含むテキスト入力時に役立ちそうなものをあげておいた。なお、Mozcのキー割り当て表のファンクションキー(F1〜F10)は、ここにあるように「検索」キー(虫眼鏡アイコンのキー)を押しながら数字キーを押して入力する。たとえば、「全角カタカナに変換」(F7)ならば、「検索+7」を押す。F10(半角英数に変換)ならば「検索+0」である。なお、Chromebookには、F11〜F12と同等のキーは存在せず、物理キーボードからは入力ができない。
Chromebookでシフトロック(CapsLock)を行う場合には「Alt+検索」を使う。ただし、このキーは、JIS準拠配列のChromebookでも「英数」にはならない。Mozcとは関係ないが文字入力に関連するキーとしては「Shift+検索+Sp」で絵文字入力パネルが開き、「検索+V」でクリップボード履歴が開く。
Mozcの利用でコントロールキーを多用するなら、設定→デバイス→キーボードで、「検索」キーと「Ctrl」キーを入れ替えると指使いがラクになる。
Mozcのキー割り当て
さて、冒頭に掲げたMozcのキー割り当てだが、基本的には、Chromiumのソースコードにあるキー割り当てデータを元にした。Mozcのソースコードは、githubで公開されているものと、Chromium(Google)のgitサーバーに登録されているものの2つがある。両方同じものと考えられるが、ここでは、Chromium側のgitサーバーに登録されていたものを利用した。
Git at Google chromium / external / mozc / b12a4f05daad3e72eebac485a027f8285159a175 / . / src / data / keymap
https://chromium.googlesource.com/external/mozc/+/b12a4f05daad3e72eebac485a027f8285159a175/src/data/keymap
ここにMozcの標準キー割り当てのファイルがある。このうち「chromeos.tsv」、「atok.tsv」、「ms-ime.tsv」、「kotoeri.tsv」が、Mozc設定の「基本設定→キー設定の選択」にある「Chrome OS」、「ATOK」、「MS-IME」、「ことえり」に対応しているようだ。ようだというのは、実は、ソースコードを全部読んだわけではなく、ざっと見て、おそらくこれだろうとアタリを付けただけだからだ。
このファイルは、タブ区切りファイルになっているので、エディターなどで簡単に見ることができる。中身は、Mozcの入力状態、キー割り当て、実行されるMozc内部コマンドの3つのフィールドをタブで区切ったものだ。内部コマンドの日本語表記は、前記ソースコードのものをベースにしたが、わかりにくいと感じたものがいくつかあったので筆者が独断で表記を変更している。このため、Windows版Google日本語入力のキー割り当てダイアログで表示される表記とは若干違う部分がある。
Mozcは、Chromebookのためだけに開発されたのではなく、Google日本語入力としてWindowsやAndroidなどでも動作するように作られている。このため、機能としては、Windows用のIMEと同等の機能を持っている。しかし、Chromebookでは、通常のPCキーボードに存在するキーの一部を持っていないため、機能が割り当てられたキーを入力できない場合がある。
たとえば、ソースコードを見ると、キー割り当てを「MS-IME」としたとき、「カタカナ/ひらがな」キーが「入力文字種」の切り替えに割り当てられているが、Chromebookには、「カタカナ/ひらがな」キーが存在しないため、Chromebookの日本語入力では、入力文字種の切り替えを行うことができない(外部キーボードを接続してもChromebookは、このキーを無視する)。そのほか、DeleteキーなどChromebookには存在しないキーやChromeOS側で先に処理されてしまうためにMozcには渡らないキー(Ctrl+Sp、Ctrl+Shift+Spなど)、ソフトウェアからMozcを制御するための仮想キーなどが前記のkeymapファイルには含まれている。
こうしたキーを排除したのち、実機上で動作を確認した。こうして利用できるキー割り当てのみを残して作成したのが冒頭の表である。データ上定義はされているキー割り当てでもMozcにキーコードが渡らず、キーが効かない場合があった。1つはChromebookのキーボードショートカットと重複しているためキーコードが渡らないと考えられる場合、もう1つは、アプリケーション側が原因でMozcにキーが渡らない場合がある。アプリによって同じキー操作ができるものとできないものがあったためアプリケーション側に原因があると判断した。Mozcが正しくキーを扱えるアプリや実行環境がわからないため、確認といっても正確なものになっていない可能性がある。なお、ATOK、MS-IME、ことりえにキー割り当てを変更したときのキーを表06、表07、表08に示す。
ChromebookのMozcは、変換効率などに関しては、問題のないレベルであり、日常的な利用で変換が問題で困ることはほとんどないと考えられる。しかし、Windowsなどで慣れたキー割り当てが必ずしも利用できるとは限らず、使い勝手や利用中に感じるストレスといった点で、不満を感じるユーザーもいると考えられる。Windowsなど他のプラットフォームで動作しているGoogle日本語入力/Mozcではキー割り当てのカスタマイズも可能なので、できれば、Chromebookでもこれを可能にしてほしいところだ。
Chromebookでは、ユーザーの好みに応じてキー割り当てなどを「カスタマイズ」することがほとんどできない。このため、Windowsなどのように自分で日本語入力のキー割り当てを変更するといったことは不可能だ。日本語入力のためのIMEをインストールする、あるいは、差し替えることもできない。Chromebookでは、デフォルトの日本語入力機能やキー割り当てをそのまま利用するしかない、ということは理解しておいたほうがいいだろう。
本記事では記述が煩雑になることを避けるため、Chromebookの基本的な操作については解説しない。必要に応じてChromebookヘルプや実機のヘルプ機能などを参照してほしい。以下の実際の機能解説は、Chromebookというよりも動作しているChrome OSの解説に相当するものだが、似たような用語が混在することになるため、できるだけChromebookに表記を統一している。なお、検証に用いたのは、ChromeOSバージョン91.0.4472.114(Official Build)である。
Chromebookの言語設定
Chromebookの日本語入力を正しく理解するには、Chromebookで言語やキーボード配列をどのように扱っているかを多少理解する必要がある。Chromebookでは、日本語入力を行うには「キーボード言語」を切り替える。この点は、WindowsやLinuxなどのIMEとは大きく考え方が違う。たとえば、Chromebookには「IMEをオン」にするというキー割り当ては存在せず、IMEが有効になるキーボード言語を選択することでIMEが利用できるようになる。
Chromebookの言語設定には、大きく「表示言語」と「入力方法」がある。表示言語は、Chromebookのメッセージ表示などをどの言語で行うかを指定するもの。これに対して入力方法は、キー配列と言語入力機能(かな漢字変換などのIME)を組み合わせた「キーボード言語」を指定するもの。キーボード言語は複数登録可能で、これをキーボードショートカットで切り替えることができる。設定は、「設定ページ→詳細設定→言語と入力方法」から行う。キーボード言語の設定は、「入力方法」から行う。
日本語入力に利用できる「キーボード言語」には、(表02)のようなものがある。「キーボード言語」は、キーボード配列とIMEがセットになっており、IMEが有効な言語キーボードを選択すれば、自動的にIME(Mozc)が有効になりIMEに応じて、かな漢字変換などが可能になる。たとえばキーボード言語として「日本語」を選択すると、Mozcが有効になり、設定に応じてローマ字変換、かな漢字変換が利用できる。このとき、キーボード配列はJIS準拠になる。シフトキーを押しながら「;」(セミコロン)キーを押すと「+」が入力される。
「英数字(日本語)キーボード」を選んだときには、IME(Mozc)は有効にならず、押したキーがそのまま入力される。このときも、キーボード配列はJIS準拠だ。しかし、「英語(アメリカ)」を選択すると、同じようにMozcは無効で押したキーがそのまま入力されるが、キーボード配列はUS配列となり、シフトキーを押しながら「;」(セミコロン)キーを押すと「:」(コロン)が入力される。
キーボード言語を切り替える
このキーボード言語を切り替えるChromebookのキーボードショートカットが「Ctrl+Shift+Sp」と「Ctrl+Sp」である(図01)。「Ctrl+Shift+Sp」は、登録されているキーボード言語を順次切り替えていくものだ。なお、キーボード言語は、登録した順番にかかわらず、システムで定める順序でしか並ばない。このため、登録してあるキーボード言語が同じなら、Ctrl+Shift+Spで切り替わる順序も常に一定になる。
これに対して「Ctrl+Sp」は、前回入力したキーボード言語に戻るためのものだ。ただし、登録されているキーボード言語が2個以下の場合、Ctrl+SpとCtrl+Shift+Spは同じ動作となり、2つのキーボード言語を切り替えるものとなる。しかし、キーボード言語を3つ以上登録している場合、Ctrl+Spは、このうちの2つの間を行き来する動作となる。たとえば、「日本語」、「英数字(日本語)キーボード」、「英語」を登録している場合、「英語」で文字入力を行い、Ctrl+Shift+Spで「日本語」にキーボード言語を切り替えると、以後はCtrl+Spを押すたびに「英語」と「日本語」が切り替わる。
「Ctrl+Shift+Sp」と「Ctrl+Sp」のキーボードショートカットは、キーボード言語を切り替えるためのもので、日本語入力だけのものではない点に注意が必要だ。たとえば、他の言語、フランス語やイタリア語のキーボード言語が登録されていれば、このキーはそれらの切り替えも行う。このため、複数言語を使った入力作業も比較的難しくない。あらかじめ入力したいキーボード言語を登録しておけば「Ctrl+Shift+Sp」でそれらを切り替えていくことができる。
英語キーボードのChromebookに外付けJISキーボードを接続したような場合でも、USキーボード用、JISキーボード用のキーボード言語を登録しておけば、どちらもでも入力作業が行える。内蔵キーボードで作業するときには、USキーボード配列の「英語」と「日本語(US)キーボード」をCtrl+Shift+Spで選択すれば、以後「Ctrl+Sp」は、この2つを行き来するキーボードショートカットになる。逆に外付けのJISキーボードで作業する場合「日本語」と「英数字(日本語)キーボード」を選択しておけば、Ctrl+Spは、この2つのキーボード言語の間を行き来する。
GUIからキーボード言語を切り替える
キーボード言語は、GUIからも操作可能だ。それには、シェルフに「入力オプション」を表示させておく必要がある。「設定ページ→詳細設定→言語と入力方法→入力方法」にある「シェルフに入力オプションを表示」をオンにする。すると、シェルフの右側(ステータス領域)に現在選択されているキーボード言語を示すインジケーター(入力オプション)が出る。これをタップ、クリックすると、「入力方法」のポップアップウィンドウ(フライアウト)が表示さる(写真01)。また、「Shift+検索+K」で、このフライアウトを開くことも可能だ。
このフライアウトで右側にチェックマークがついているのが現在有効なキーボード言語だ。また、IMEが有効なキーボード言語を選択すると、下に入力モードの切り替えが表示される。Mozcが有効な場合には、「ひらがな」、「全角カタカナ」などの入力モード(入力文字種)を選択できる。これを選択することで、入力したローマ字が入力モードに応じて変換される。ただしChromebookには、この入力モードを直接切り替えるためのキー割り当ては存在しない。フライアウトが開いているとき、Tab/Shit+Tabで項目を順次選択してEnterキーで変更することはできるが、直接、全角カタカナ入力モードに変更するという操作はキーボードからはできない。Mozcが有効になっているときにも、入力モードを変更するキー割り当てが利用できないため、Chromebookでは、入力前に文字種をキーボードから選択することは不可能で、ここでGUI操作を行うか、ひらがななどで入力し後変換でカタカナや半角英数などに変換する。ここは、他のプラットフォームの一般的な日本語入力とは違う点だ。
Chromebookの物理キーボード
Chromebookの物理キーボードとしてJIS配列キーボードが搭載されている場合、日本語入力に利用できるキーには「英数」、「かな」、「かな↔英数」の3つのキーがある(表03)。「英数」は、「英数字(日本語)キーボード」を選択するもので、「かな」は、キーボード言語の「日本語」を選択する。「かな↔英数」は、キーボード言語の「日本語」と「英数字(日本語)キーボード」を交互に切り替える。
Chromebookの「英数」、「かな」、「かな↔英数」は、USBでPC用キーボードを接続した場合には、「無変換」、「変換」、「半角/全角」に相当する。また、「かな↔英数」キーは、Windowsなどと同じくUS配列キーボードでは、逆クオートキー「`」が対応する。
Mozcの使い方
Mozcは、キーボード言語「日本語」または「日本語(US)キーボード」が登録さており、かつ有効になったときのみ起動する。同じ日本語のキーボード言語でも「英数字(日本語)キーボード」では、Mozcは有効にならない。Mozcが有効になった状態は、Windowsなど他の多くのプラットフォームで「IMEがオン」になったときと同じだ。
Mozcには、6つの状態がある(表04)。キー割り当ては状態ごとに定義されていて、同じキーでも状態により動作が違う。状態のうち、わかりにくいのは「サジェスト」(Suggestion。ソースコードではサジェスト表示中)と「サジェスト選択」(Prediction。同サジェスト選択中)だ(図02)。Google日本語入力として動作するとき、入力を開始すると、入力位置に表示されるのがサジェストだ。これは、インターネットなどからの情報を元にGoogle日本語入力が行うもの。カーソルキーの↓で選択状態に入ったときが「サジェスト選択」である。下矢印ではサジェスト選択状態に入ることはできるが、上矢印では入ることはできない。
「未入力」状態は、Mozcは有効になっているが、文字を何も入力していない状態、「入力中」は、文字を入力して、変換キー(スペース)などを押す前の段階だ。ここでは、文字種の変換が行える。「変換中」とは、入力中から変換キーや文字種変換キーを押して変換状態に入った段階だ。ここでは、入力文字列が変換され、文節単位での移動ができる。このとき標準のキー割り当てではダイヤモンドカーソル(図03)が利用可能だ。Mozcは「変換中」にEnterキーなどで文字列を確定させると、「未入力」状態に戻る。
Mozcの設定
Mozcの設定は、「設定ページ→詳細設定→言語と入力方法→入力方法」でキーボード言語「日本語」または「日本語(US)キーボード」の左側にある矩形と矢印のアイコンをクリックすることで開く(図04)。ここにはいくつかの重要な設定がある。
「ローマ字・かな入力」では、ローマ字変換入力と、JISカナ入力の選択が行える。「キー設定の選択」を使うことで、キー割り当てを標準の「Chrome OS」以外、「ATOK」、「MS-IME」、「ことえり」の3つのパターンから選択できる。前述のようにプリセットされたキー割り当てを切り替えることはできるが、個々のキーを変更することはできない。
入力補助にある「シフトキーでの入力切り替え」は、シフトキーを併用して文字入力を行ったとき、カタカナ入力にするか、英数入力にするかを指定するものだ。ひらがな入力のとき「A」キーをおせばローマ字では「あ」、カナ入力では「ち」が入力されるが、シフトキーを押しながらAキーを押したとき、それぞれ「ア」、「チ」になるのが「シフトキーでの入力切り替え:カタカナ」である。これに対して「シフトキーでの入力切り替え:英数字」では、どちらも全角の「A」が入力される。カタカナ語の入力が多いか、英数の入力が多いかで切り替えると便利だが、シフトキーを押すか、またはCapsLock(Alt+検索)をオンオフしながら入力する。
Chromebookでは、いまのところ、日本語入力中にキーボードショートカットで単語登録ダイアログを表示させることはできず、単語登録は、このページからしか行えない。開くのが面倒なので、ブックマーク登録するか、ラウンチャーにショートカットを登録するといいだろう。Mozcの設定ページは、ブラウザの中で開く。この状態でChromeメニュー(アドレスバー右端の点が縦に3つ並んだアイコン)から「その他のツール→ショートカットを作成」をクリックする。これでラウンチャーにこのページを開くショートカットが登録される。以後は、それを使えば、すぐにMozcの設定ページが開く。
その他のキーなど
その他、日本語を含むテキスト入力時に役立ちそうなキーボードショートカットを(表05)に示す。これらは、Mozcとは無関係なChromebookのキーボードショートカットであるが、日本語を含むテキスト入力時に役立ちそうなものをあげておいた。なお、Mozcのキー割り当て表のファンクションキー(F1〜F10)は、ここにあるように「検索」キー(虫眼鏡アイコンのキー)を押しながら数字キーを押して入力する。たとえば、「全角カタカナに変換」(F7)ならば、「検索+7」を押す。F10(半角英数に変換)ならば「検索+0」である。なお、Chromebookには、F11〜F12と同等のキーは存在せず、物理キーボードからは入力ができない。
Chromebookでシフトロック(CapsLock)を行う場合には「Alt+検索」を使う。ただし、このキーは、JIS準拠配列のChromebookでも「英数」にはならない。Mozcとは関係ないが文字入力に関連するキーとしては「Shift+検索+Sp」で絵文字入力パネルが開き、「検索+V」でクリップボード履歴が開く。
Mozcの利用でコントロールキーを多用するなら、設定→デバイス→キーボードで、「検索」キーと「Ctrl」キーを入れ替えると指使いがラクになる。
Mozcのキー割り当て
さて、冒頭に掲げたMozcのキー割り当てだが、基本的には、Chromiumのソースコードにあるキー割り当てデータを元にした。Mozcのソースコードは、githubで公開されているものと、Chromium(Google)のgitサーバーに登録されているものの2つがある。両方同じものと考えられるが、ここでは、Chromium側のgitサーバーに登録されていたものを利用した。
Git at Google chromium / external / mozc / b12a4f05daad3e72eebac485a027f8285159a175 / . / src / data / keymap
https://chromium.googlesource.com/external/mozc/+/b12a4f05daad3e72eebac485a027f8285159a175/src/data/keymap
ここにMozcの標準キー割り当てのファイルがある。このうち「chromeos.tsv」、「atok.tsv」、「ms-ime.tsv」、「kotoeri.tsv」が、Mozc設定の「基本設定→キー設定の選択」にある「Chrome OS」、「ATOK」、「MS-IME」、「ことえり」に対応しているようだ。ようだというのは、実は、ソースコードを全部読んだわけではなく、ざっと見て、おそらくこれだろうとアタリを付けただけだからだ。
このファイルは、タブ区切りファイルになっているので、エディターなどで簡単に見ることができる。中身は、Mozcの入力状態、キー割り当て、実行されるMozc内部コマンドの3つのフィールドをタブで区切ったものだ。内部コマンドの日本語表記は、前記ソースコードのものをベースにしたが、わかりにくいと感じたものがいくつかあったので筆者が独断で表記を変更している。このため、Windows版Google日本語入力のキー割り当てダイアログで表示される表記とは若干違う部分がある。
Mozcは、Chromebookのためだけに開発されたのではなく、Google日本語入力としてWindowsやAndroidなどでも動作するように作られている。このため、機能としては、Windows用のIMEと同等の機能を持っている。しかし、Chromebookでは、通常のPCキーボードに存在するキーの一部を持っていないため、機能が割り当てられたキーを入力できない場合がある。
たとえば、ソースコードを見ると、キー割り当てを「MS-IME」としたとき、「カタカナ/ひらがな」キーが「入力文字種」の切り替えに割り当てられているが、Chromebookには、「カタカナ/ひらがな」キーが存在しないため、Chromebookの日本語入力では、入力文字種の切り替えを行うことができない(外部キーボードを接続してもChromebookは、このキーを無視する)。そのほか、DeleteキーなどChromebookには存在しないキーやChromeOS側で先に処理されてしまうためにMozcには渡らないキー(Ctrl+Sp、Ctrl+Shift+Spなど)、ソフトウェアからMozcを制御するための仮想キーなどが前記のkeymapファイルには含まれている。
こうしたキーを排除したのち、実機上で動作を確認した。こうして利用できるキー割り当てのみを残して作成したのが冒頭の表である。データ上定義はされているキー割り当てでもMozcにキーコードが渡らず、キーが効かない場合があった。1つはChromebookのキーボードショートカットと重複しているためキーコードが渡らないと考えられる場合、もう1つは、アプリケーション側が原因でMozcにキーが渡らない場合がある。アプリによって同じキー操作ができるものとできないものがあったためアプリケーション側に原因があると判断した。Mozcが正しくキーを扱えるアプリや実行環境がわからないため、確認といっても正確なものになっていない可能性がある。なお、ATOK、MS-IME、ことりえにキー割り当てを変更したときのキーを表06、表07、表08に示す。
ChromebookのMozcは、変換効率などに関しては、問題のないレベルであり、日常的な利用で変換が問題で困ることはほとんどないと考えられる。しかし、Windowsなどで慣れたキー割り当てが必ずしも利用できるとは限らず、使い勝手や利用中に感じるストレスといった点で、不満を感じるユーザーもいると考えられる。Windowsなど他のプラットフォームで動作しているGoogle日本語入力/Mozcではキー割り当てのカスタマイズも可能なので、できれば、Chromebookでもこれを可能にしてほしいところだ。