「速度超過によるハンドル操作の誤り」と報道されるが……

 テレビニュースにおける交通事故報道で、アナウンサーがひんぱんに口にする「警察によりますと、事故はワゴン車の運転手がスピードの出しすぎによりハンドル操作を誤ったことが原因とみて捜査を進めています」というフレーズ。

 あのフレーズを聞くたびに、筆者は強烈な違和感に襲われる。「今どき、ちょっとスピード出しすぎたぐらいで『思わずハンドル操作を誤ってしまうようなクルマ』なんてあるかよ? ほとんどねえだろ!」と。

 たとえば筆者が乗っている現行型のスバル レヴォーグSTIスポーツというクルマの場合、100km/h制限の高速道路を180km/hぐらいで狂ったように飛ばしたとしたら、さすがに「ハンドル操作の誤り」が原因で事故る可能性は高まるだろう(そんな速度、出しませんが)。

 だが、法規的には一発免停となる145km/hほどで走ったとしても(走りませんが)、さまざまなリスクが確実に増しこそすれ、「ハンドル操作を誤る」ことはほとんどないはずだ。それが、現代のクルマというものである。

 それゆえ、アナウンサーが例のフレーズを言うたびに「嘘くせえなぁ……」と思っていたのだが、やはりというかなんというか、少なくとも高速道路においては「スピードの出しすぎによるハンドル操作の誤り」云々は、事故発生原因としてかなり少ないようだ。

安全運転義務違反が全体の80%を占める

 警察庁交通局が発表した「令和2年中の交通事故の発生状況」によれば、2020年中の高速道路における事故原因トップ5(というかワースト5)は下記のとおりである。

●2020年中の高速道路における事故原因トップ5

 1位 前方不注意
2位 動静不注視
3位 安全不確認
4位 運転操作不適
5位 進路変更

 1位の「前方不注意」と5位の「進路変更」は説明するまでもないと思うが、2位から4位については若干の説明が必要かもしれない。

 2位の「動静不注視」というのは、「前方不注意」とやや似ているが、こちらは「見てはいたけど、相手の動きを自分で勝手に判断して、事故を起こした」というもの。「いや僕はちゃんと見てましたよ! でも、まさか前のクルマがブレーキをかけるとは思わず……」みたいな話である。

 3位の「安全不確認」は、一般道においては、右左折や一時停止の場所などで安全確認を怠る行為。高速道路では、合流地点や車線変更などで事故を起こすと、これに当てはめられる場合が多い。

 4位の「運転操作不適」は、それこそ「ハンドル操作の誤り」などのこと。ただしこれは、高齢者や免許取りたての若者以外は、そうそうやるものでもないだろう。

 まぁとにかく高速道路上での事故原因は、警察庁のまとめによれば約45%が「前方不注意」で、約24%が「動静不注視」、そして約12%が「安全不確認」であり、これだけで全体の80%以上を占めているのだ。

 で、肝心の「スピードの出しすぎ」に関しては、「最高速度違反」が全体の約0.8%で、「安全速度違反(制限速度内で走ってはいたが、状況に応じて安全な速度で走行しなかったという違反)」が約1%であるに過ぎないのである。

 そしてこの話の趣旨はもちろん、「だから皆さん、高速道路ではもっとガンガン飛ばしましょうね!」というものではない。

 そうではなく、「速度を出しすぎないっつーのはドライバーの当然の義務として、それと同時に(またはそれ以上に)気をつけるべきポイントは、ほかにもたくさんありますよ!」という話である。

 筆者は約30年にわたるドライバー生活のなかで、幸いにして交通事故を起こしたことも、もらったこともない。

 だが最近は、カーナビやApple CarPlayの画面をちらっと見てる間や、「ええと、飴ちゃんはどこに置いたっけ?」などと一瞬下を向いて探している間に、前方のクルマが実は減速していて「おっと!」となるヒヤリハットの機会が増えている自覚はある。これすなわち、高速道路での事故原因第1位「前方不注意」の予備軍である。

 筆者のヒヤリハットが増えている原因は、昔はなかったカーナビなどの機器の普及のせいか、それとも単純に加齢によるものかは、わからない(まぁ両方なのだろう)。

 いずれにせよ「クルマは凶器にもなる」ということを、ステアリングホイールを握っている間は片時も忘れず、安全運転に励みたいものである。いや、励まねばならないのだ。