PC用として登場したポータブル型MD DATAドライブ「MDH-10」:スイートメモリーズ File057

[名称] MDH-10
[種類] 光磁気ディスク
[記録方法] 磁界変調ダイレクトオーバーライト方式
[サイズ] 86×131×30mm
[容量] 140MB
[接続] SCSI
[電源] リチウムイオン充電池、6V ACアダプター
[登場年] 1995年頃〜

今や淘汰された懐かしの記録メディアたちに光を当てるこの連載企画では、ゆるっと集めているリムーバブルメディア・ドライブをふわっとご紹介していきます。

連載:スイートメモリーズ

「MDH-10」は、音楽で使われていたMDにデータ保存を可能とした規格、MD DATA(参考:MDを音楽ではなくデータ記録用に使う「MD DATA」)に対応したPC用ドライブ。容量は140MBと多くはありませんが、小さなディスクにデータを保存できるため、PCだけでなく音響機器や電子書類管理端末、デジタルカメラなど、いくつかの製品に採用されていました。

このドライブが登場した1995年頃はマルチメディアという言葉が流行し、テキストから画像、音声、そして動画へと、PCで扱うデータが巨大化しつつあった時代です。こういった巨大化するデータの保存に活躍してくれたのがリムーバブルメディアで、とくに、100〜200MB前後の容量をもつMOやZipが人気となっていました。

MD DATAの容量は140MBと、この時代における要求としては十分期待に応えてくれるものだったのですが、問題は150KB/sという速度。これはCDの等速と同じで、遅いといわれたパラレル接続Zipの半分程度しかありません。SCSI接続のMOやZipだと1MB/s前後だっただけに、その差は歴然です。

音楽用途であれば音が途切れない速度があれば十分ですが、データ用途だと、速ければ速いほど快適になるだけに、この遅さは致命的ともいえます。しかも、シーケンシャルアクセスがメインの音楽用に作られていたMDと物理的に同じため、ランダムアクセスに弱く、シーク速度も遅め。ある程度大きさのあるデータを読み書きするには向いていますが、大小雑多なサイズのファイルを扱うのは、少々難しいものがありました。

さらにいうと、SCSI接続でしたがHDDやMOのように接続するだけではドライブとしては認識されず、ドライバーが必須。にもかかわらず、当初DOS用のドライバーしか提供されず、Windows 95で使うと速度が遅かったという問題がありました。Windows 95の登場からほぼ1年遅れでドライバーが提供されたものの、速くなったところで最大150KB/sですから……。

MOやZipのように使うというよりも、MD DATAを採用した機器とのデータ交換を目的とした製品だったといえるでしょう。

ボディに「PORTABLE MD DATA」と書かれている通り、本体はコンパクト。横幅はMDよりちょっと大きい86mm程度しかありません。スロット部分は多くのMDプレーヤーがそうだったように、カパッと上蓋ごと開くシェルトップローディングなどと呼ばれる方式です。

本体は金属(たぶんアルミ合金)ですが、このスロット部分の側面だけは透明な樹脂となっており、中のMDが見えるようになっているのがこだわりですね。

左下に見えるヘッドホン端子は、音楽再生時用。そう、PC用MDドライブなんですが、音楽MDの再生も可能でした。

続いて背面、インターフェース側を見てみましょう。

こちらはカバーがしてあるのですが、これを外すと(一部の人には)見慣れたSCSIの端子が出てきます。50ピンアンフェノールハーフピッチというあたりに、古いSCSI機器であることが感じられます。

ポータブル機器だと省スペース化のため、独自コネクター+専用ケーブルという構成になりがちですが、標準的なコネクターが採用されているのはありがたいところ。

左にあるディップスイッチは、1番が内蔵ターミネーターのオン/オフ、2〜4番がSCSI IDの設定用。よく見ると、親切にもカバーの内側にその説明が書かれています。

本体左側面はその他のスイッチ類が集中しています。中央、緑っぽい色のスライドスイッチで、本体の動作モードを変更します。左に動かすと音楽再生、右だとPC用のドライブ、中央だと電源オフですね。

その右にあるAVLSというのは、音量を適切なレベルに自動調整する機能。音量の上げ過ぎによる音漏れ、周囲の音が聞こえないといったことを防いでくれるもので、MDウォークマンなどで搭載されていたものと同じです。

左側のOPENという文字がある部分は、バッテリーです。

こちらが、バッテリーを取り出してみたところ。この時代でリチウムイオン充電池を使っているというのは、ちょっと珍しいかもしれません。

バッテリーのカバー部分はプラスチックだけではなく、ちゃんと金属が使われたしっかりしたものとなっているあたり、高級感があります。

こちらは付属の乾電池用アダプターを装着したところ。ACアダプターの端子に挿し込み、手回しネジで止めるというものです。単3電池3本で動作するので、充電池が切れてしまった場合や、長時間使いたい場合の利用に向いています。

MD DATAは音楽MDのおかげで低価格にメディアを製造できること、140MBとそこそこの容量があったことを考えれば、タイミング次第でもう少し使われてもよかったのではないかと思ってしまいます。それだけ、遅さ、独自ファイルシステム、ドライバー必須という点がネックだったともいえますが。

もし、廉価なパラレルポート接続ドライブが登場していたら、多少使い勝手が悪くても普及したのではないでしょうか。そうすれば、リムーバブルメディアの歴史が少しだけ書き換わったかもしれません。

ちなみにこれらの弱点を克服し、大幅な高速化、ファイルシステムにFATを採用、USB接続でドライバー不要のドライブも登場した「Hi-MD」というメディアもありますので、そのうち紹介しますね。

連載:スイートメモリーズ

参考:

ソニー、記憶容量650MBの「4倍密度MD」を開発, PC Watch
MDH-10 Operating Instructions, SONY, WayBack Machine