データがマネタイズに直結する時代になっている!

「いまどき高価なカーナビを買うなんて情弱、スマートフォンの無料ナビアプリで十分」という声を聞くことも少なくない。たしかに、Google Map、Yahoo!カーナビといった無料アプリを日常的に使っているというドライバーは少なくないだろう。

 その魅力は無料サービスというだけではない。地図データは随時更新されるため、既存のカーナビのように地図データが古くて新しいインターチェンジが載っていないだとか、橋のデータがないので道を走っているのに海上を走行していることになっているといったことも起きづらい。渋滞情報が利用できるなど機能面でも不満はない。

 さらに、スケジューラーとリンクして、シームレスに目的地設定ができるなど、スマートフォンユーザーであれば車載のスタンドアロン型カーナビよりも便利に使えると感じている人も多いはずだ。

 ところで、GoogleやYahoo!は、このような便利なアプリをどうして無料で提供することができるのだろうか。

 大きな話でいえば、「データがお金になる」からである。ナビアプリを提供することで、人の流れが可視化できる。人の流れであれば匿名情報であるため、個々の承認を得る必要もない。しかし、それは大きな価値を生み出す。

 そうしたデータを利用することで新サービスを立ち上げたり、また情報自体を売ったりすることも可能となってくる。いずれにしても、利用者が多いほどマネタイズにつながるデータを得ることができる。ならば無料で提供し、さらにサービスの品質を上げるというのはビジネスモデルとして正しく自然な流れなのである。

自社サービスとの接触時間を伸ばすためだった

 もうひとつ、Googleのように自社サービスのすべてを広告媒体として考えると、ユーザーがサービスを利用する機会を増やすことは、自社との接触時間を伸ばすことになる。前述したように、自社の他アプリとのシームレスな連携をすることも、そうした囲い込みにつながる部分で、媒体力強化としては十分に意味があるといえる。

 じつはGoogleが自律運転を開発しているのも、そうした理由。運転から解放されれば、ドライバーがスマートフォンを使えるようになり、自社サービスの利用時間が伸びる。そうした未来は、彼らにとってメリットが大きく、自律走行できる技術を開発するモチベーションになっているわけだ。

 これはクルマ社会であるアメリカだからこそ生まれた考え方といえるだろう。クルマは生活に欠かせないものだから、そのなかで過ごす時間も長い。そこで、どこまでユーザーとつながっていられるかは企業価値に直結するのである。

 最近、日本でも流行り始めている音声SNS「Clubhouse」も、もともとは運転しながらリアルタイムなSNSコミュニケーションをとることを狙って生まれたサービスだという。運転中という、残された領域を奪うことができるサービスだからビジネス的にも注目されているのだ。

 もっとも、Clubhouseを利用したことがあればわかるだろうが、運転しながら仲間の話を聞いたり、ときどき発言したりというのは、ドライビングの集中力という視点からは少々心配にも感じる。たしかに、ラジオを聞いていて、ときどきハンズフリーで会話をしていると考えれば許容範囲なのであろうが、安全第一であることを忘れずに利用してもらいたい。

 というわけで、GoogleやYahoo!がナビアプリを無料で提供するには、彼らなりのメリットがあるからだ。ならば、車載カーナビは消えてしまうのかといえば、そうともいえない。いわゆるスマホナビは電波が届かない場所では地図データを得ることができず、まったく道案内できなくなることもあるからだ。

 日産プロパイロット2.0やSUBARUアイサイトXといった高度な運転支援システムでは高精度マップが必須のため、専用地図データを搭載する必要もある。そうでなくともナビと連携した運転支援システムの制御は増えている。

 はたしてメーカー製ナビVSナビアプリという図式になるのか、はたまた共存共栄する未来になるのか。いずれにしても、ユーザー利便性が増していくのは間違いない。