地域ゆかりの渋沢栄一を主人公としたNHK大河ドラマ『青天を衝け』に沸く東京北区。その渋沢の旧居近くの3駅は、路線は異なりますが3つとも、23区屈指の閑散駅です。なぜ利用者の少ない駅が集中しているのでしょうか。

メトロ南北線、京浜東北線、上野東京L それぞれの駅なぜか利用者少ない…

 2021年2月14日(日)から放送が始まるNHK大河ドラマ第60作『青天を衝け』。吉沢 亮さん演じる「日本資本主義の父」こと渋沢栄一が主人公ということもあり、渋沢の旧邸があった東京北区の飛鳥山公園内には、23区初となる「大河ドラマ館」が設けられるなど、北区と渋沢の関係が大々的にPRされています。

 その大河ドラマ館から本郷通りを南に400mほど進むと、東京メトロ南北線の西ケ原駅があります。駅前には国立印刷局の工場や、総合病院(花と森の東京病院)がありますが、実はこの駅、東京メトロで最も利用者が少ない駅です。1日の乗降人員は8845人(2019年)となっています。

 さらに、地図上で西ケ原駅から直線を東へまっすぐ引くと、約400m先にJR京浜東北線の上中里駅、約900m先には上野東京ライン(宇都宮線、高崎線)の尾久駅があります。この2駅も23区内屈指の閑散駅で、1日の乗車人員(乗車のみの数字)は上中里駅が8041人、尾久駅が1万360人。それぞれ、23区内にあるJRの駅で2番目、3番目に少ない数値です(最も少ないのは江東区の越中島駅)。

 1km圏内に位置する3駅、なぜどれも利用者が少ないのでしょうか。簡単にいうと、地理的条件から「どの駅の利用エリアが狭い」ことが挙げられます。


1km圏内にある東京メトロ西ケ原駅、JR上中里駅、尾久駅はいずれも東京23区で利用者が少ない駅(乗りものニュース編集部撮影)。

 まず西ケ原駅は、地下鉄の駅とはいえ、小高い丘の上に位置しています。駅の北側には急峻な崖があり、京浜東北線はその下に位置しているため、上中里駅にかけて長い下り坂です。また南北線、京浜東北線とも、隣の王子駅で接続していることから、わざわざ上中里駅と西ケ原駅とで乗り換えるケースもほとんど考えられません。つまり、「崖下」からの利用はかなり少ないと思われます。

 一方、西ケ原駅の南側は住宅地が広がっているものの、駒込方面にかけて谷の地形になっています。近くを通る都電荒川線を利用する人もいるでしょうが、南北線で西ケ原の隣の駒込駅は山手線との接続駅ですから、谷間に住む人は、わざわざ西ケ原駅へ坂を上がっていくより、駒込駅へ向かうのかもしれません。

上中里と尾久は?

 上中里駅は前出の通り、駅の南北でかなりの高低差が存在しますが、京浜東北線を挟んで南北に上中里地区の住宅街が広がっています。しかし、北側の低いエリアの住宅地を歩くと、すぐにまた鉄道用地にぶつかります。というのも、新幹線の「東京新幹線車両センター」と、在来線の「尾久車両センター」というJRの広大な車両基地が2つもあるからです。

 地図上で見ると、上中里駅は南北線と上野東京ラインの中州のような位置にあり、さらに現地は、崖と車両基地に囲まれています。駅前は南北どちらも、大通りから奥まったところに位置しています。


上中里駅。駅の南側(奥)は崖が迫っている(乗りものニュース編集部撮影)。

 上中里地区から、尾久車両センターをくぐる200m近い地下道を抜けた先にあるのが尾久駅です。尾久は荒川区の地名ですが、駅は北区にあります。

 尾久駅の北側も住宅街が広がってはいますが、駅から北へ400m強進めば都電荒川線が通っており、さらに500mほど進んだ先は隅田川です。周囲を走るバスも、王子駅、あるいは田端駅への人の流れを形成しており、尾久駅の利用エリアはやはり狭いと言わざるを得ません。

 なお、2015(平成27)年に上野〜東京間の新線ができ、「上野東京ライン」として東京駅や品川、横浜方面へ列車が直通するようになると、尾久駅の交通の利便性が新築マンションの広告などでも謳われるようになりました。しかし、駅の周りはそれほど開発が進んではいないようです。

 冒頭で紹介した大河ドラマ館から、西ケ原駅を過ぎ、上中里駅へと下りて、さらに地下道を通って尾久駅まで歩いてみると、3駅周辺の表情は、それぞれ近いながらも全く異なることに気づくでしょう。