テレビ解説者の木村隆志が、先週注目した“贔屓”のテレビ番組を紹介する「週刊テレ贔屓(びいき)」。第148回は、15日に放送された日本テレビのバラエティ特番『超無敵クラス』をピックアップする。

「誰も見た事のないスクール型トークバラエティ」のコンセプトで、MCにかまいたちと指原莉乃、ゲストに風間俊介と中川翔子を迎えつつ、事実上の主役は“超無敵クラス”を形成する10代たち。

その顔ぶれは、Popteen専属モデルから、シンガーソングライター、YouTuber、作家志望の開成ボーイ、ミス・ワールド2020日本代表まで多士済々。現在のテレビマンたちにとって必要な「10代視聴者の心をつかむ」という意味でも、「次世代スターのオーディション」という意味でも、業界内の注目度は高い。

『超無敵クラス』MCのかまいたち(左)と指原莉乃


○■テレビとスマホの両方で楽しませる演出

オープニングは、「怖いものなし! 超無敵の10代が世代の垣根を越え、人気芸能人と価値観をぶつけ合う」「10代を通して新たな自分と出会えるトークバラエティ」というナレーションで番組内容を説明。画面右上には、「かまいたち&指原MCの新番組」という文字が表示されていた。わざわざ“新番組”と掲げたのはレギュラー化への布石なのだろうか。

まずは「総フォロワー数1,000万超え」という生徒たちの紹介からスタート。指原から「このクラスの中で一番フォロワーが多いのが16歳の『おじゃす』ちゃん」と紹介された少女は、約270万人のフォロワーを持つ人気ティックトッカーだった。

次に「世界で活躍する10代」としてピックアップされたのは、ミス・ワールド2020日本代表の18歳・金谷鞠杏(まりあ)。さらに「クラスの最年少」として「10歳のころに天使のような美貌」と言われてバズった14歳の翔(しょう)を紹介したあと、ナレーションで「名門・開成高校インテリイケメンや、群馬の奇跡の歌声少女、カリスマJKモデルに、天才パルクーラーなど、超無敵な10代24人がクラスに大集結!」と紹介して期待感をあおった。

当然ながら、彼らのファン以外は「誰?」「1人も知らない」のだが、むしろそれが新鮮であり、興味をそそられる。出演者の偏りが顕著な昨今のバラエティにはない、いい意味でビックリ箱のようなムードが漂っていた。

ほどなく、スタジオにゲストである風間俊介が登場。開口一番、「ここにいる人たちが思い描いたジャニーズではないのではないかと……」と不安をこぼすと、その声に「うん」と大きくうなずく10代たち。なんと、風間の認知度は20人中10人のみだった。

ここで注目すべきは、画面左下に表示された「生徒の自己紹介動画を配信中 YouTube日テレ公式チャンネル」の文字。これは認知度の低い10代たちをフォローするものであるとともに、テレビとスマホの2画面視聴をうながす演出ではないか。とりわけ若年層に向けた番組は、このような「スマホを置いてテレビを見てもらう」ことにこだわらず、2つの画面を使って楽しませる演出を増やすべきだろう。

風間は気になる生徒として、全国高校生ボディビル選手権大会優勝の19歳・川中健介(けんすけ)をピックアップ。クラスメイトの女子たちが「脱いで〜」「脱いで〜」「見たい!」「見たい!」と盛り上がり、けんすけが上半身裸になると大歓声が起きた。

ここで風間が「俺の登場より盛り上がるのやめてくれ」と笑いを誘い、指原も「(10代女子たちが指の隙間から)こうやって見るの、古くない?」とツッコミを入れたが、10代たちはほぼスルー。バラエティ慣れした2人のトークは、テレビの視聴者層にこそウケるが、10代たちには通用しないのか。ただその直後、風間が「ぴえん」と「がびーん」のトークでジェネレーションギャップを引き出したのはさすがだった。

○■10代に胸を貸し、イジられた風間俊介

その後も風間は、「『ZIP!』のとき、目の奥が笑ってない」と言われて「私、今まで光が差さない目を使ってさんざん犯罪者の役をやり続けてきた男なんです。役の中で言ったら前科28犯くらいあるんだから」、「何でジャニーズっぽさを出さないの?」と聞かれて「ジャニーズっぽくないのが武器になると気づいたからです」と、ふだん以上にトークの引き出しを開けて10代に対応。直後に「指原さんもその気(け)はありますよね?」と振りを入れて、「私は本来、王道でいきたかったんですけど、『文春』でこうなっちゃった」という笑いを引き出した。

次の「超無敵アドバイス」というコーナーでは、風間に対する10代たちの本音がさく裂。「西島秀俊みたいな香ばしさがほしい」「バカリズムと区別がつかないので髪形変えれば?」「ジャニーズ辞めてもよくない?」「ディズニーTシャツ着てキャラ出したら?」「暴言を吐いてみたら?」とサンドバッグ状態になった。

さらに、「超無敵クラス的大問題」という10代のお悩み相談コーナーでは、「フォロワー数が欲しくて何でもやっちゃう」「何もしてないのに加工顔って言われる」「女子とうまくしゃべれません」「今の10代 位置情報を簡単に教えすぎ」「メールではなく叫び声を送りつけます。変?」「病みモードに入りすぎて本当に病みそう」というリアルな問題が続出。その中で“病みモード”に関するトークがピックアップされた。

ここで、「10代が病みモードに入りたい時に聴く曲」のアンケートが公開され、その結果は3位がコレサワの「たばこ」、2位がRADWIMPSの「そっけない」、1位がback numberの「ハッピーエンド」。ゆるく、さわがしいトークバラエティに、データと歌の要素をしっかり入れ込む構成はいかにも日テレらしく、単調さを感じさせなかった。

風間はトーク終盤、SNSのつらさを訴えかける10代たちに「『SNSがなくなってもいい』と思っている人は?」と尋ね、20人中9人が「なくなってもいい」という意外かつリアルな声を演出。最後は10代たちに「1位を取れても、その後に激しい落ち方をする」「人生意外に長いから、過去の自分が足を引っ張ることがある」「しんどい目に遭ったとき、最後に支えてくれるのは頑張った過去の自分」という熱っぽいアドバイスを送った。

さんざんイジらせて、自虐もして、その上で最後は親身にアドバイスを贈る……この番組で、風間の評価はさらに上がったのではないか。

○■『さんま御殿』に送り込みたい10代たち

2人目のゲスト・中川翔子が登場すると、「かわいい」「ポケモン」の声が飛び交うなど、なごやかなムードに一変。しかし10代たちは、しょこたん語の「ギザ」や「バッカルコーン」を全く知らなかった。ちなみにテンション最上級を意味する「バッカルコーン」の現在版は、「やりらふぃー」で、これが『egg』の流行語大賞1位らしい。

10代たちは「35歳で独身。恋愛は今までどうしてきた?」「好きな男性のタイプは?」とド直球の質問を浴びせたが、中川がモテないトークに徹したからか、ほとんど盛り上がらず。それを察したのか、指原が「私は芸能人はない。芸能人同士はイヤじゃないですか。制作狙い」と笑いを誘ってフォローしていた。

その後、再び10代の悩みに答える「超無敵クラス的大問題」のコーナーに移り、「今でもお母さんと寝てる」「美人ばかりが得する世の中…私はどう生きれば?」「全然泣けない私って変?」「本当に好きな人には好きになってもらえません」「クズじゃないイケメンっているんですか?」「幽体離脱がどうしても成功しません」が表示された。

その中から、中川が「クズじゃないイケメンっているんですか?」をピックアップすると、10代女子たちは「クズとの付き合いは育成ゲームみたいで燃える」「生きてる実感が湧く」などと盛り上がる。指原が「お母さんで変えられなかったものは無理!」と言っても、彼女たちはまったく聞く耳を持たなかった。後輩アイドルをさんざん指導してきた指原と言えど、この日の10代たちを完全に持て余していた。ただ、それは指原の力量うんぬんではなく、「噛み合わないところを楽しむ」という番組だからにほかならない。

最後に中川が「(浮気しないイケメンは)いない。浮気はみんなするかもしれないけど、尊敬できるところがあれば、その人はクズではない」と締めくくろうとしたが、「え〜でも、そんなこと言ってたら、次から言いよってくる変な男が増えちゃうかもしれない」と反論されてスンナリ終わらず。そこで中川が「うまくいきかけたと思っても男の人ってどっかいっちゃったりするじゃないですか」と語りかけて、「そうそう」「すぐいなくなっちゃいますよね」「気づいたらいないんですよ」と、この日一番の共感を得たところで番組は終了した。

番組の図式としては、「ゲストが10代たちに胸を貸すような形で、いけにえとなって自由にコメントさせて、さまざまな本音や笑いを引き出す」というもので、この点では一定の成果があったのではないか。それは、風間が「今日何が怖いって、普通のテレビでは言わないことを口走ってるんです。それがこの番組の怖いところ」と語っていたことが裏づけている。

ただ、「もうちょっと見たいかな」と思わせるトークの面白さがあっただけに、「編集でカットされたトークが本当に使えないものだったのか」、それとも「尺の問題というだけなのか」が気になってしまった。

ピンク髪のおじゃす、メガネ男子のふるる、『egg』のなにわギャル・ゆうちゃみ、幽体離脱のフシギ女子・九波あろなど、可能性を感じさせるキャラクターが目白押し。バラエティでもっと見てみたいタイプが多く、現実的には『踊る!さんま御殿!!』(日テレ系)あたりへの登場を待ちたい。

ともあれ、まずは日曜昼に「10代たちから元気をもらい、カルチャーを分け合い、できるアドバイスはしてあげる」という有意義な番組だったのではないか。既存の人気タレントばかりではなく、彼らのような個性あふれる10代をもっと積極的に起用するべきだろう。

○■次の“贔屓”は…『たけし城』を思わせる水上バトル 『超水上サバイバル オチルナ!』

『超水上サバイバル オチルナ!』の出演者たち (C)フジテレビ


今週後半放送の番組からピックアップする“贔屓”は、22日に放送されるフジテレビ系バラエティ特番『超水上サバイバル オチルナ!』(20:00〜21:54)。

同番組は「水に落ちたら即失格! 水上要塞を攻略して賞金50万円ゲットせよ」というシンプルなコンセプトの新たなゲームバラエティ。『逃走中』のスタッフが手がけるだけに、どんな仕掛けを用意しているのか興味深い。

出演者は、司令官・若林正恭、プレーヤーリーダー・春日俊彰のオードリーに加えて、安藤美姫、泉ひかり、川西拓実(JO1)、金城碧海(JO1)、久保田かずのぶ(とろサーモン)、黒木ひかり、佐野岳、須田亜香里(SKE48)、トム・ブラウン(布川ひろき、みちお)、中村静香、ハナコ(秋山寛貴、岡部大、菊田竜大)、ぺこぱ(シュウペイ、松陰寺太勇)、本並健治、丸山桂里奈、峯岸みなみ(AKB48)、宮下草薙(草薙航基、宮下兼史鷹)、森渉、ゆきぽよ(木村有希)、ゆん(ヴァンゆん)、四千頭身(石橋遼大、後藤拓実、都築拓紀)。

その大半が若手タレントだけに、ファミリーを含む若年層視聴への期待値は高い。この日はプロ野球・日本シリーズ中継で『世界の果てまでイッテQ!』(日テレ系)がないだけに、千載一遇のチャンスではないか。

かつての『痛快なりゆき番組 風雲!たけし城』(TBS系)を思わせるコンセプトの番組だが、テレビ番組に限らずコンテンツに単純明快さが求められる風潮の現在に合っているのかもしれない。

木村隆志 きむらたかし コラムニスト、芸能・テレビ・ドラマ解説者、タレントインタビュアー。雑誌やウェブに月20〜25本のコラムを提供するほか、『週刊フジテレビ批評』などの批評番組にも出演。取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーでもある。1日のテレビ視聴は20時間(同時視聴含む)を超え、ドラマも毎クール全作品を視聴。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』など。 この著者の記事一覧はこちら