医学研究の現場ではマウスをはじめとする多くの実験動物が使用されていますが、動物愛護団体は「動物実験は非倫理的だ」と非難する声を上げています。そんな中、オランダの研究チームが、「生物医学実験で使用される動物の多くが発表された論文の中で言及されていない」との研究結果を報告しました。

Publication rate in preclinical research: a plea for preregistration

(PDFファイル)https://openscience.bmj.com/content/bmjos/4/1/e100051.full.pdf

Millions of animals may be missing from scientific studies | Science | AAAS

https://www.sciencemag.org/news/2020/10/millions-animals-may-be-missing-scientific-studies

科学者らは長い間、「論文中で言及されている実験動物は全体の一部分であり、多くの実験動物は論文中で言及されていないのではないか」と疑っていました。たとえば、実験の結果が論文中で言及するほど興味深いものでなかったり、失敗に終わったりした場合、その実験に使われた動物について公の場で発表されないことが考えられるためです。

しかし、科学者が実際に何匹の動物を実験に使ったのかを調べ、その行く末を追跡することは困難だったため、論文中に表れる実験動物と全体数の差を調査することは困難だったそうです。もちろん、研究者らは無制限に動物実験を行えるわけではなく、一般的に倫理的承認を受けるための申請書に実験の詳細や使用する動物の数を記載する必要がありますが、この書類は機密として公開されないことが多いとのこと。

オランダの研究チームはこの問題を調査するため、ユトレヒト大学医療センターの3部門に所属する研究者らに対し、2008年と2009年に動物倫理委員会に提出された研究計画書をレビューする許可を求めました。研究チームはこの研究計画書を基にして発表された論文を医学雑誌で検索し、その内容を分析しました。



分析の結果、動物倫理委員会に承認された研究のうち46%が論文として発表され、学会の講演やポスター発表を含めると60%が成果を報告していることが判明。しかし、研究で使用された5590匹の動物のうち、公開された論文や講演で言及されたのは1471匹に過ぎなかったとのこと。割合にすると、実験に使われた動物のうち26%ほどしか公に報告されていないことになります。

論文などで言及される割合は動物の種類によっても異なっており、全体の90%を占めるマウスやラットは23%しか言及されなかった一方、ヒツジやイヌ、ブタなどの比較的大型の実験動物は、52%が言及されたそうです。

研究者たちは、このパターンが世界中の研究機関で類似している可能性があり、合計で数百万匹もの実験動物が言及されずに姿を消しているかもしれないと指摘。今回の研究に関与しなかったオックスフォード大学の医学統計学者・Michael Schlüssel氏は、「使用された動物について結果が公表された割合がこれほど低いのは、ひどいことだと思います」と述べています。



by Global Panorama

研究チームが「一体なぜ、実験動物について成果の中で言及しなかったのか?」と研究者に尋ねたところ、最も一般的な理由は「研究が統計的有意性を達成しなかったから」でした。また、実験そのものが正式なものではない試験段階だったことや、動物を使った実験モデルに技術的な問題があったことも、実験動物について報告されない理由として挙げられました。

しかし、研究の共著者であるラドバウド大学のKimberley Wever氏は、いずれの理由も実験動物を使った研究結果を公表しないための言い訳にはならないと指摘。「全ての動物研究は公表されるべきであり、全ての研究は科学コミュニティにとって価値があります」と、Wever氏は述べています。

Wever氏は、「失敗した研究」を科学者が公表しなかった場合、他の科学者が同様の研究を行って同じく失敗に終わり、時間やコストを浪費してしまう可能性があると主張。Schlüssel氏も、画期的な研究結果だけでは科学的証拠の基盤として十分ではないと述べ、より多くの研究結果を公表すべきとの考えを支持しました。