金や銀の食器をこよなく愛するロジャーズ氏。金だけでなく、銀にも早くから注目していた(写真:Luxpho〈Takao Hara〉)

ファイナンシャル・プランナーの花輪陽子です。引き続き、『ジム・ロジャーズ 大予測:激変する世界の見方』(東洋経済新報社) から投資で成功をする方法をお伝えしたいと思います。もちろん、出版後に聞いたエピソードもいくつか追加しています。

天才投資家はコロナ禍で仕込んでいた

「コロナショックが起きている間、何かに投資をしましたか?」


「海運会社の株を少し買い始めた。そして大きく下落した金・銀をもうすぐ買う予定だ。そして売った株を一部買い戻し、近いうちに航空会社の株も買いたいと考えている」

実は、このロジャーズ氏のコメントは、コロナの影響が最も厳しかった期間と言っていい、2020年の3月中旬のコメントです。その後、7月、8月以降も取材をしましたが、ロジャーズ氏はすでに、金や銀や航空会社の株を購入しているようでした。

金や銀に関しては、急騰した後は一服の状態になっています。8月初旬に1トロイオンス(約31.1グラム)=2100ドルをうかがう勢いだった金の先物価格は、その後に急落。一時は1900ドルを割り込みました。現在は1900ドル前後で推移しています。

銀の先物価格もやはり1トロイオンス=30ドルを突破する勢いでしたが、一時は22ドルを割り込みました。その後は24ドル前後になっています。

貴金属暴落の際にロジャーズ氏はメディアに出演をし、「私は金・銀を保有しており、さらに下がれば買い増すつもりだ。10―15%の調整はどんな強気相場でも当たり前にあることだ。人々は下落を恐れるが、同時にそれは買いのチャンスも与えてくれる」と発言をしています。

ご存じのように、ウォーレン・バフェット氏がカナダの鉱山会社であるバリック・ゴールドの株を取得したというニュースが流れてきたのは金銀の先物価格が大幅に下落した後でした。金よりも株式投資の有効性を強調していたバフェット氏が金関係の会社の株を購入したのはサプライズでした。

私が本当に驚いているのは、ロジャーズ氏の先を読む力です。彼は今年1月と3月の取材の際から一貫して金と銀に注目をしていました。金のことを主に聞いていましたが、取材の際には「金も割安だが、銀は歴史的に見てとくに割安だ」と言っていました。

ロジャーズ氏が注目後、銀は一時3倍弱に急騰

実際、銀の先物価格は3月中旬には1トロイオンス=11ドル台にすぎませんでした。しかし、上述のように、その後は噴水のように上がり、3倍近くにまで急騰したのです。これには本当に驚きました。金も同じく3月中旬には1500ドルを割っていたのですから、その後の急騰ぶりにはやはり驚くばかりです。

くしくも、私が取材をした日は3月17日でしたので、このときに買って上手に利益確定ができていれば、いったいどれくらい資産が増えたことだったでしょうか。カリスマに会っているのに、早く行動をしなかったことが悔やまれてなりません。

ロジャーズ氏は、写真にもあるように、取材時には銀や金のカップや食器を見せてくれたりしました。ロジャーズ氏は来日の際は、東京・銀座の「ギンザタナカ銀座本店」に行くのも大好きなようです。

取材以来、私自身も銀を気にするようになり、フランスに本拠を置く有名ブティックのクリストフルのシンガポール店で食器を見たりはしていました。そうすると、先述のように、ずっと停滞していた銀相場が急騰したわけですから、本当に驚きました。

もちろん、多くの人は金にばかり注目をしていたでしょうし、銀相場には無関心だったのではないでしょうか。誰もが無視をしている投資対象にいち早く気づき、底値で取得するのが天才投資家なのだと、改めて肌身で感じさせられる出来事でした。

実は、銀相場は過去にも噴水のように吹き上がったことがあります。銀の先物価格は2011年4月には1トロイオンス=50ドルをつけるかどうかというところまで上昇したことがあります。現在の価格の約2倍弱の水準です。振り返ってみると、このときは2010年8月頃から上げ下げを繰り返しながら10カ月程度上がり、2011年5月以降は下落していきました。まさに噴水相場だったのです。

「政府に対して、人々が不信感を抱くときに、金や銀などの実物資産の価格は上がる」とロジャーズ氏は繰り返し言います。また、当時もそうでしたが、米ドルが下がる局面で、金や銀が強くなる傾向があります。

「私は2019年の夏から金を買い始め、それ以降も連続して買い続けている。私はもっと多くの人が金や銀に投資すべきだと思っている。多くの人が医療保険や終身保険に加入しているように、資産全体の1つとして金や銀を持つべきだ。医療保険や終身保険は、できれば一生使いたくないものだが、それを持っていると安心できる。金や銀もポートフォリオの中で、そのような位置づけにあるべきだ。もちろん、タイミングが合えば大きな利益を生み出してくれる」

相場のサイクルを知る

金や銀が上昇する相場のサイクルは、約10年ごとに来るとも言われています。また、数式などでは説明できないアノマリーとして説明されてもいますが、1年のなかでは、ゴールデンウィーク後、相場は弱気になりやすいことが知られています。

さらに、今後に関しては、ロジャーズ氏は「アメリカの大統領選挙後の2021年の初めは気をつける必要がある」とも言っています。もし、あまりにも相場が加熱して爆発しそうになれば、(利益を確定するためにも)金や銀もいったん手放さざるをえないかもしれないと言います。「できるならば保険のように手をつけることがないことを願うのだが」ということです。

ロジャーズ氏に取材に行くと、繰り返し「歴史は韻を踏む」と言いますが、成功する投資家になるためには、過去のパターンなども記憶をしておく必要があります。自分の人生よりもずっと長い、人類の歴史から学ぶ必要が大きいからです。

もし、今後、個人投資家がある程度短い期間でキャピタルゲイン(値上がり益)だけを狙いにいくのであればETF(上場投資信託)を利用する方法があります。噴水相場のようなときは、積み立て投資だと取得までに時間がかかってしまうからです。ETFであれば素早く、上がり始めたら買い、下がり始めたら売ることも可能です。

国内の金銀ETFで少額から始めるのも一手

万々一、今回の上昇相場はいったん終了したとしたらどうすればいいでしょうか。すぐとはいえないものの、今後、10年後、20年後に似たパターンが起きる可能性は低くありません。

もし、今回は「大きな投資」をしなかったとしても、今から少額で練習をしておくなどしておけば、その経験が次に生かされるはずです。噴水相場の場合は短期に大幅に上がるので最初は驚くかもしれません。ドル建てでは、金のETFは「iシェアーズゴールドトラスト」(IAU)、銀なら「iシェアーズシルバートラスト」(SLV)などがあります。いずれも、日本の証券会社などを通して簡単に購入ができます。

ETFは先物価格に連動して動きますが、先物よりも値動きがマイルドになります。ただし、先物で価格がその日に大きく動くと、NY時間の寄り付き価格で前日よりも大きく価格が変わるなどのリスクがあります。慣れないと、短期でトレードをして高値づかみをすることにもなりかねないので、やはり十分注意が必要です。手数料が最も安いとは言えませんが、総合的に考えると、慣れている日本のオンライン証券を使うのが無難でしょう。

一方、円建ての上場信託だと、純金上場信託(1540)、純銀上場信託(1542)があります(いづれも現物国内保管型)。わかりやすい円建てを選ぶのも1つの手かもしれません。


ロジャーズ氏は10月16日の「秋のオンラインセミナー」にもゲスト出演する

ロジャーズ氏は金銀だけでなく、すでにアジアの航空会社の株式なども取得をしているようですが、皆さんは今後のマーケットをどうお考えになりますか。コロナの状況を予測するのは難しいですが、不動産関連、あるいは観光業や外食関連など、壊滅的な被害を被った業種は最悪期を過ぎたと判断して、お金を少し振り向ける検討をする時期なのかもしれません。

「ほとんどの時間は、ただ座って相場を見ている」とロジャーズ氏は言います。投資で成功をするには、徹底的に調べて、あとは上昇相場を待つという忍耐も重要なのです。

ジム・ロジャーズ氏は「会社四季報 秋のオンラインセミナー 米大統領選はどうなる?大統領選後のマーケットは? コロナバブルは持続か崩壊か?」(10月16日(金)20時開始、有料)に特別出演します。参加希望の方はこちらからお申し込み下さい)。