「俳優は自分と異なるキャラクターを演じるのが仕事ですし、観る方にとっては本人の性格はどうでもいいことなんですよ。だったら、自分のことがわからなくても別にいいじゃないか、と思ったりもします」

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現在発売中の『婦人公論』7月14日号で、表紙に登場している女優の長澤まさみさん。自分に与えられた「役柄」については、自分なりに咀嚼してから演じるようにしてきたと語ります。しかし、今回公開の映画『MOTHER マザー』では、どうにも理解できない人物に出会ってしまったそうで――発売中の『婦人公論』から、インタビューを掲載します。(構成=平林理恵)

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手を動かすとなぜか落ち着く

近頃、生活をきちんと楽しみたいという気持ちが強くなってきました。時間があるときはよく料理をしています。料理本に書いてあるレシピ通りに仕上げると、いつもの自分の味つけにならず、飽きません。

食材は無駄にしませんよ。煮物を作ったらいくつかの料理にアレンジしますし、最後はカレーの具にするなど、しっかり食べきります。

器にもこだわりを持つようになりました。母が和食器を好んでいた影響なのか、和のものに惹かれます。好きな陶芸家の作品を少しずつ集めるのが楽しみです。

お裁縫や刺繡など、手を動かす時間も大切にしています。母方の祖母はお裁縫がとっても上手で、そばで見て育ちました。そんな時間が心に残っているのか、手を動かすとなぜか心が落ち着いてくる。

こんなふうに、毎日を丁寧に暮らしていくことは、お芝居にも響いてくるような気が、なんとなくしています。

素の自分がこぼれ出る瞬間

よくインタビューで「長澤さんって、どんな性格ですか」と質問されたり、演じた役柄について「自分と似ているところはどこですか」と聞かれたりするのですが、そのたびに困ってしまうんです。というのも、私はそもそも自分がどういう人間であるのか、はっきり言葉にできるほど、自分のことをわかっていないから。

それに、俳優は自分と異なるキャラクターを演じるのが仕事ですし、観る方にとっては本人の性格はどうでもいいことなんですよ。だったら、自分のことがわからなくても別にいいじゃないか、と思ったりもします。

だから「素の私」がどんなものなのかは定かではないものの、私がそのまんま出ちゃっているんだろうなあと思うのが、バラエティ番組です。オンエアを見て「うわっ」と思う(笑)。アタフタしちゃって、テンポ良くうまい言葉が出てこないんです。

決まったセリフを言うのとは大違いですね。ここでこう切り返していたら、もっとおもしろかったのに、といつも反省することになります(笑)。素の自分というか、人柄や性格って、本人に自覚があろうとなかろうと、ああいう瞬間にこぼれ出ちゃうものなのかもしれませんね。

一方、自分に与えられた「役柄」については、じっくり台本を読んで、その人物がどういう性格なのか、どうしてこんな行動をとるのかを理解して、自分なりに咀嚼してから演じるようにしてきました。これは基本だと思っています。

ところが、間もなく公開予定の映画『MOTHER マザー』で、どうにも理解できない人物に出会ってしまいました。この作品は実際に起きた事件に着想を得たフィクションです。私が演じたのは、自堕落で奔放で、その場しのぎの生活を送るシングルマザーの秋子。

秋子は息子の周平を自分の分身のように扱い、学校にも通わせません。一方、周平にとっては、どんなにひどい母親であろうと頼れるのは秋子だけ。社会から孤立していく母と息子の間には、特別な感情が芽生えていきます。

私は、台本をいくら読んでも、この秋子の考えや行動がどうにも理解できませんでした。なぜこんなひどいことを息子に言うのか、どうしてこんな振る舞いを繰り返すのか。でも、演じなくてはなりません。考えた末に、秋子ではなく物語に寄り添うことにしました。

感情に突き動かされるままに行動した結果、物事が悪い方向へ転がってしまうことって、誰の人生にも起こりえます。そして、一度歯車が狂い出したら最後、どんどん悪いほうへ進んでしまうことも。秋子と周平は、周囲の救いの手も届かないところまで転がり落ちてしまった──。

『婦人公論』7月14日号の表紙に登場している長澤まさみさん(表紙撮影:篠山紀信)

この物語が訴えたいことをそのように解釈し、そのうえで、場面ごとに秋子の胸に湧き上がる感情を受け止め、その瞬間を一所懸命生きるように演じました。心がけたのは、秋子に同情の余地を残さないようにすることです。彼女がしたことは許されない。「心の弱さゆえに」という解釈を成立させてはいけないと思いました。

人物像をつかめないまま演じたのは、実は初めての経験です。でも私自身だって、自分がどういう人間なのかよくわからないのです。秋子自身だってわかってはいなかったでしょう。秋子に限らず人間って、そんなに自分のことをわかっていないのかもしれません。この役に出会えて、演じることの奥深さにあらためて気づけたような気がします。

おばあさんになったらすごく小さいおうちでいい

13歳でデビューして、今年で20年を迎えました。この20年、舞台、ドラマ、映画と、すごくいいバランスで経験することができましたね。そして30代の今は、ありがたいことに、さらに楽しく充実しています。

若い頃との違いと言えば、以前は「もっとこうしたい」という欲が強かったですね。仕事に対しては、どこか不安を感じ、執着もあったと思います。それらをうまく手放すことができたのでしょうか、今は何においても「十分だな」と思えますし、満ちたりている自分がいます。

プライベートの時間も、肩の力が抜けたのか、すごくラクです。同世代の方から、将来についての不安を聞くことも少なくありませんが、私はたぶん大丈夫(笑)。不安に思うのは、目指す生活のレベルが高すぎるからだと思うんですよ。

おばあさんになったらすごく小さいおうちでいいし、食も細くなるだろうし、物欲もなくなっているはず。ミニマムな暮らしで充足している自分が思い描けるので、不安を感じないんです。

これからも、日々の生活を満喫しながら仕事も頑張って、楽しく生きていきたいと思います。