新型コロナウイルスの影響が長期化しそうだ。それにあわせて家計へのダメージも懸念される。3月18、19日に実施されたある家計調査では、「薬・衛生用品」「内食・中食」「ゲーム・書籍・コミック」「動画・音楽の配信サービス」の支出額が増えた上に、収入も減少。家計へのWパンチでファイナンシャルプランナーの黒田尚子氏は「想定外の支出が増えて、一気に赤字転落する世帯が増えそうだ」という--。
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■コロナ騒動による収入減・支出増のWパンチに加え、4月から値上がり

新型コロナの感染拡大に歯止めがかからない。

連日、新型コロナ関連のニュースを見るたびに、明日はわが身かという不安な日々を送る読者も多いだろう。自分や家族が感染し、重症化した場合、死亡リスクもゼロではない。しかも、隔離されて家族と会えないまま亡くなる可能性だってあるのだ。

今回のコロナ騒動で影響が不可避なのが、日本経済へのダメージ、そして私たち家計への支出増・収入減のWパンチである。4月から、家庭用の食用油や缶詰なども値上がりし、スーパーなどのレジ袋の有料化も始まった。生活コストは確実にアップするが、コロナ騒動によってどのような影響があるかは各家庭で異なるだろう。

そこでファイナンシャルプランナーとして、特に家計に大きな影響を受けやすい世帯の特徴について考えてみたい。

■開店まで「5時間待ち」しないとマスクは手に入らない⁉

3月中旬のまだ肌寒い頃、関東近郊に住む田中弥生さん(仮名・30代)は、早朝の駅前で、がっくり肩を落としていた。

前日に、駅前の大手スーパーマーケット店でマスクが150個販売されるとの案内を見かけ、「もしかして買えるかも」と期待して、朝7時に家を出てきた。だが、10時開店前に店に到着したとき、すでに長蛇の列。しかも150枚の整理券の配布は7時には終わっていた。警備員によれば早い人は朝5時から並んでいたそうだ。

「開店まで5時間待ち。そんな早くから並ばないと、マスク1個も買えないなんて……」

ある程度、予想はしていたものの、これほどとは思っていなかった弥生さんは絶句した。

■コロナで非正規雇用の世帯の収入がさらに減ったら……

弥生さんは、小学生の子どもと2人で暮らすシングルマザーだ。近くの介護施設で契約社員として働いており、年収は350万円ほど。生活はカツカツだ。

この日はたまたま運よく、午前中休めたので、並ぶことができたのだが、平日は仕事や家事、育児に追われる毎日。週末もたまった家事や用事を済ませるのに手いっぱいで、マスク探しに奔走する時間も体力もない。

それならばと、ネットで、マスクを検索すると、「入荷に数週間から1カ月」や、在庫があっても「50枚入り3000〜4000円」というモノばかり。

弥生さんは、仕事柄マスクは必須アイテム。本来は、1日2枚は必要なのだが、在庫が残りわずかになってきた最近では、1枚でしのいでいる。

「ほんの数カ月前まで、近所の量販店で、1枚25円から30円くらい、50枚入り1500円程度で買えていたのに……。私にとって、マスクは必需品。とはいえ、子どもの小学校が休校になって、食費や光熱費、家庭学習用の教材費なんかもバカになりません。必要なものとはいえ、できるだけ安く買いたいんです」

しかも、弥生さんが勤務する介護施設から、新型コロナの感染者が出ようものなら、施設閉鎖の可能性もある。自宅待機で働けなくなれば、非正規雇用の弥生さんの家計は、一気に困窮してしまうだろう。

■今、困っているのは「時間」も「お金」もない人

この弥生さんと同じく、マスクを買い求めて大手スーパーに並んでいたのは、スーツ姿のビジネスパーソンや子連れの主婦、高齢者、学生など、さまざまな年代や属性の人だった。

今や、どの家庭でもマスク不足が深刻ということだろうが、ドラッグストアで働く知人に聞くと、毎朝並んでいるのは高齢者や主婦層が多いという。

実は「お金」と「時間」は密接な関係にある。お金のない人は、時間をかけて安いマスクや食料品を探し求めて、お金を節約しようとする。逆に時間のない人は、割高な商品で躊躇(ちゅうちょ)なく購入して時間を節約する。

後述するが、弥生さんのように、「働かなくては食べていけない」「収入や預貯金も多くない」といった時間もお金もない大多数の国民が、今回のような不測の事態に陥った場合に、最も家計に影響が出る可能性が高い。

一方で、年金収入など毎月決まった収入があり、時間にも余裕のある高齢者は、「時間」も「お金」もある人の代表格だといえる。

もちろん、高齢者といえども、公的年金だけで生活できず、働いて収入を得ている方も少なくないし、時間やお金があっても、体力的に買い物に出られない方など、一様でないことは承知の上と前置きしておきたい。

いずれにせよ、今回の新型コロナのような予期せぬ事態に急に見舞われた場合、必要な品を探し求める時間があったり、それらをある程度、備蓄できたりする、時間とお金のある人あるいはやりくりできる余裕のある人は、マスク入手のために苦しまなくてもよいのだ。

■新型コロナの影響で家計が壊滅しかねない3つの家計とは?

時間もお金もない人が困っている可能性が高いが、具体的にどんな世帯が影響を受けやすいか考えてみよう。主に以下の3つのパターンが予想される。

その1:非正規雇用でマンパワーが不足するひとり親家庭

厚生労働省の調査(※)によると、シングルファーザーの場合、正規雇用が圧倒的に多い。父子家庭の場合、正規雇用87.1%(平均年収約426万円)、非正規雇用12.9%(同175万円)だった。

※厚生労働省「ひとり親家庭等の現状について」(平成27年4月20日)

一方、同じひとり親であっても、前出の弥生さんのように、子どもと母親からなるシングルマザー家庭は、非正規雇用の割合も高く、家計を持続させる体力が脆弱(ぜいじゃく)だ。

同省の調査では、母子家庭の場合、正規雇用43%(同約270万円)、非正規雇用57%(同約125万円)となっている。正規雇用就業率・収入いずれも母子家庭のほうが低い水準であることが歴然だ。今後、会社から自宅待機するように要請があり、その影響で収入が減るようなことがあれば、たちまち家計は火のクルマ、もしくは破綻するリスクもある。

■住宅ローン、教育費…「固定費が高い」高収入世帯もアブナイ

その2:住宅ローンや教育費など固定支出の負担が大きい

続いて注意したいのは、住宅ローンや家賃、子どもの塾代や教育費、生命保険料などの「固定支出」の多い世帯である。つまり、低収入層ではなく、比較的高収入を得ている世帯でもお金の使い方次第で家計は厳しくなる可能性がある。

2020年の3月18日〜3月19日に調査された「巣ごもり消費に関する調査」(株式会社カンム調べ)によると、休校やリモートワークなどで全体の66%が「生活が変わった」と回答している。

具体的には、消費支出について「増えた」と回答している割合が高いのが、マスクやトイレットペーパー、ティッシュペーパーなど「薬・衛生用品」(全体44%)。そして、デリバリー・テイクアウトなどの「内食・中食」(同28%)だった。「外食」の支出は減っているが、自宅へ持ち帰って食べる食事が増えているのだ。

これら日用品や食費は「変動支出費」に該当する。テレワークなどで自宅に閉じこもる時間が長いと、支出は自然とおさえられるかと思いきや、そうではなかったのだ。

また、一斉休校で休みが長期化した子ども関連の支出も増えている。これも変動支出費だ。同社の調査では、約3割の人が「ゲーム・書籍・コミック」(全体29%)や「動画・音楽の配信サービス」(全体31%)の支出が増えたと答えている。

■巣ごもりストレス爆発でネットで服を衝動買いする女性

一方、減った支出(変動支出費)としては、前述した「外食(レストランなど)」(全体36%)、「旅行やイベント(コンサート・観劇・美術館など)」(全体36%)が挙げられる。

興味深いのは、「運動(ジム・プールなど)」は変わらないと回答した人が全体の4割を占めていたこと。さらに、「身だしなみ・美容(化粧品・洋服・ヘアカットなど)」に至っては、変わらないと回答した人が全体の7割以上を占め、特に学生は増えたと回答している人が15%、専業主夫・主婦については、変わらない人が4分の3もいる。

外出自粛で、外に出られなくても、身だしなみにはお金をかけたいのだろうか。いや、そうではない。多くの家計相談を受けていると、外出できない分、特に女性はネットで販売している洋服などの写真を閲覧する時間が急激に増え、巣ごもりのストレスからか衝動買いしてしまうケースが多いのだ。

以上の「変動支出費」の傾向を俯瞰すると、食費(中食・内食)や公共料金(光熱費など)、被服費などが増えた分は、外食費やレジャー費、交際費など減った分で相殺してやりくりすれば、直ちに家計が赤字化するとは限らない。

それに対して、より厳しくチェックしなければならないのが「固定支出費」だ。

住宅ローンや家賃、子どもの塾代や教育費、生命保険料など銀行の口座から引き落とされている「固定支出費」は、毎月一定額が必要となる。一般的に、夫婦と中高生の子ども世帯の場合、毎月の月収に対する占める割合は、住居費25%、教育費12%、保険料8%が、おおむね適正なバランスといわれる。世帯月収が40万円であれば、住居費は10万円以内が理想ということになる。

固定支出費に関して、もともとこの目安を大きく超えた支出をしている高収入世帯の場合、今回のコロナ騒動により、長期間の収入減という事態にまで発展すれば、家計に大きな打撃となるのは必至だ。簡単にコストダウンできない費目ゆえ、返済に困るなど、一気に赤字転落、家計破綻の危機が迫るケースも出てきそうだ。

■無計画な「キャッシュレス決済」や「ボーナス払い」が招く悲劇

その3:クレジットカードなど後払いのキャッシュレス決済を多用している

2019年10月の消費増税をきっかけに、クレジットカードやデビットカード、電子マネーなどのキャッシュレス決済を活用する人が増えている。

筆者自身も、生活費を含め、ほぼキャッシュレス決済に移行し、どの方法が最も家計管理に適しているかを実験中といったところだ。

コロナ不況到来ともいわれる中、問題となるのは、「キャッシュレス決済の多用」ではない。使うこと自体は悪くない。だが、おトクだからと無計画に利用するのはまずい。とりわけ、後払いのクレジットカードの場合、銀行口座からの引き落としは、利用日の翌月の中旬以降など、2〜3カ月後が多い。

新型コロナの影響がこれほどインパクトの大きいものになると予想せず、2月、3月にクレジットカードで高額な買い物やサービスを使用した人は、いま一度、いつ、どれくらいの引き落としがあるかを確認しておくべきだろう。

そして、今後しばらくはボーナス払いなどを控えたほうがよいだろう。仮に今は大丈夫でも、これから収入減となる可能性が否定できないからだ。

キャッシュレス決済は、便利でおトクな反面、現金よりも、お金を使い過ぎる点が最大の難点だということを肝に銘じておきたい。

■公的支援は「あったらうれしい」くらいの期待度にとどめておく

新型コロナの感染拡大に関する国の支援策として、「現金給付」「消費減税」「所得補償」など、さまざまな案が出ている。支援を切実に必要としている層を中心にできるだけ早く対策が講じられるべきだが、公的支援はあくまでも生活費の一部を一時的に補塡(ほてん)するものだ。よって、公的支援をあてにして過剰な期待を膨らませるべきではない。永続的な支援があるわけではない。

すべきは公的支援への期待度はほどほどにとどめ、「万が一、給与の低下などにより家計に深刻な影響が出たとしたら……」と想定して、その事態に今から備えることである。

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黒田 尚子(くろだ・なおこ)
ファイナンシャルプランナー
プレジデント誌でもおなじみのFP。お金の管理に関するプランニングや講演、メディア出演を行うと同時に、自身のがん経験を生かし、病気時の資金繰りサポート活動にも力を入れている。近著に『三大疾病ハンドブック(仮)』(金融財政事情研究会/2020年2月上梓予定)。
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(ファイナンシャルプランナー 黒田 尚子)