新型コロナウイルスにより、高速バスでは大きな影響が出ています。感染予防対策を万全にしたうえで運行してはいるものの、客足は伸びない状況。「ディズニーランドやUSJが再開すれば……」事業者からは、そのような声も聞かれました。

新型コロナ対策 4列シートには特別対応も

 高速バス業界にも新型コロナウイルスの影響が拡大しています。

 2020年3月以降、観光客などが減少したことを受け、高速バスは一部の便を運休したり、運行計画を変更したりする動きが相次いでいます。それでも大多数の便は通常どおり運行されており、たとえばバスタ新宿からは3月10日(火)も、750便以上が各地へ向けて発車しました。各事業者は、車内における感染予防対策を強化しています。

 乗務員のマスク着用、手洗い、うがいの徹底、健康管理体制の強化はもちろん、1台1台に乗客も使える消毒用アルコールなどを設置する事業者もあります。ブランケットの貸出を中止する動きは、2月の段階で多くの事業者に広がりました。

 また、車内の手すりや座席など乗客が触れる場所を中心に、1運行ごとに消毒を実施していることをアピールしている事業者もあります。換気の悪い場所での感染リスクが発表されていることから、エアコンを外気導入にして運行したり、車内に空気を浄化する「プラズマクラスターイオン発生装置」を搭載したりといった動きも見られます。


ジェイアール東海バスにおける車内清掃の様子(画像:ジェイアール東海バス)。

 なかでも、隣の人との距離が近い4列シート車について、特別な対応を取っている事業者もあります。ジェイアール東海バスでは3月14日(土)までに出発する一部の便を対象に、3月4日(水)時点で空席となっている通路側座席の発売を中止しました。このほか、青森県内と首都圏を結ぶ夜行バスを運行する岩手県北バス南部支社(旧・南部バス)などでは、4列シートの座席と座席のあいだに仕切りカーテンを整備し、飛沫の拡散を防止するとしています。

ディズニーやUSJの閉園は「大打撃」 運休は今後拡大か

 ジェイアール東海バスが一部の4列シート車で通路側座席の発売を中止したのは、東京ディズニーランド/東京ディズニーシーが2月29日(土)から3月15日(日)まで臨時休園するという発表を受け、キャンセルが相次いだためだそうです。「それならば、より安心して乗っていただけるようにしよう」と考えてのことだったといい、3月14日(土)出発分までとしているのも、その休園予定に合わせてのことだといいます。なお、東京ディズニーランド/東京ディズニーシーについては、3月11日(水)に休園の延長が発表されました。

 岩手県北バス南部支社も、「この時期は例年、卒業旅行などで夜行バスを利用して東京ディズニーランドなどへ向かわれるお客様が特に多いので、打撃は大きい」と話します。

 高速バス業界全体を見渡しても、3月11日(水)時点で運休している便の多くは、東京ディズニーリゾートやUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)といった遊園地に発着するものです。


未清掃車両には「車内清掃をお願いします」の札を掲げる(画像:ジェイアール東海バス)。

 ただ、こうした運休の動きは今後、より拡大していくかもしれません。ジェイアール東海バスは3月9日(月)、名古屋地区と中部空港を結ぶ路線や、東名高速沿線と東京を結ぶ「東名ハイウェイバス」についても、4月以降、一部の便で座席の発売を見合わせると発表しました。運行の取りやめは未定であるものの、「今後の情勢が見通せないなか、予約を受けてしまうと、逆にお客様へご迷惑をおかけしかねない」といいます。

運休拡大のなか「運行再開」決めた事業者の思い

 運休の動きが拡大するなか、3月に入って休止していた便の運行を、今週から再開する事業者もあります。

 大阪のユタカ交通は、東京〜関西線や関西〜長崎線の夜行バスを運休していましたが、3月12日(木)から関西〜長崎線の運行を再開します。これについて同社は次のように話します。

「ここ数日キャンセルが相次いだほか、事業者どうしで少ない需要を奪い合うことにもなるため、夜行便は運休としていました。ただ、東京線はいくらでも振替が効きますが、運行事業者の少ない長崎線については、お客様から『運休されると困る』という声が寄せられていることから、再開します」(ユタカ交通)

 なお同社も、乗務員のマスク着用や、車内の清掃・消毒など、できる限りの感染予防対策を行っているといいますが、マスクや消毒液の在庫が少なくなってきているそうです。「いま、我々は生きるか死ぬかの瀬戸際にいるといっても過言ではありません。今回の運行再開が吉と出るか凶と出るかもわかりませんが、それでも『がんばろうやないかい』という思いです」と話します。

 岩手県北バス南部支社も、高速バス新型コロナウイルス対策について紹介した報道用資料で、国全体で出控えが広まっていることもあり利用者が減少してはいるものの、「帰省や出張などの目的で、北東北と東京のあいだを移動するニーズをお持ちの方が多数おられます」としています。

 今回取材した複数のバス事業者は、東京ディズニーランド/東京ディズニーシーやUSJの今後の動向次第で、高速バスにおいても局面が大きく動くと予想しています。ある事業者は、「これらの営業が再開されるときが、『出かけられる』とみんなが思えるときでしょう」と話していました。