空自 森林火災オーストラリアへ輸送機C-130H派遣は「震災の恩返し」 深まる日豪関係
オーストラリアの大規模森林火災救援に派遣された自衛隊の空佐が現地メディアに対し、東日本大震災の恩を忘れていないと話しました。現地の反応や、震災時のオーストラリアによる献身的な救援活動にふれつつ日豪関係の現状を解説します。
オーストラリアの大規模森林火災救援に自衛隊派遣
自衛隊の隊員と輸送機が2020年1月15日(水)、オーストラリアにおける大規模森林火災の救援活動に派遣されました。
リッチモンド空軍基地に到着し、オーストラリア空軍のクルーの誘導を受ける航空自衛隊のC-130H(画像:オーストラリア国防省)。
オーストラリアでは2019年9月ごろから、南東部のニューサウスウェールズ州とビクトリア州を中心に森林火災が頻発していました。2020年に入ってもその勢いは衰えず、1月15日の時点で28人が死亡し、東京都の面積の50倍以上にあたる1000万ヘクタールが延焼する事態となっています。
オーストラリア国防省はこの事態を受け、オーストラリア陸海空軍の統合任務部隊を編成し、消火活動の支援と被災者の救助にあたる「ブッシュ・アシスト」作戦を開始。空軍はC-17A輸送機とC-27J輸送機による消火活動に必要な物資の輸送と、消防航空機の運用サポート、海軍は強襲揚陸艦「アデレード」などによる被災者の救助と物資の輸送、陸軍は消防当局と協力して消火活動や被災者の救助などを行なっています。
国際社会による支援の動きも広がっており、隣国のニュージーランドとパプアニューギニアは工兵部隊を派遣しているほか、シンガポールは陸軍の工兵隊に加えCH-47輸送ヘリコプターを派遣して、物資の輸送にあたっています。
冒頭で述べたように、日本も1月15日に開催された防衛会議で国際緊急援助活動の実施を決定し、同日編成された「オーストラリア国際緊急援助空輸隊」のC-130H輸送機2機と隊員は、同日中に航空自衛隊小牧基地を出発。リッチモンド空軍基地を拠点に、消火活動にあたるオーストラリア軍兵士などの輸送を行なっています。
空佐が話した「東日本大震災で受けた恩」とは?
自衛隊による支援はオーストラリアで好意をもって迎えられており、オーストラリアのニュースメディア「9News」は「本当の友人たち(Friends Indeed)が、日本から来てくれた」と報じています。
9NEWSはオーストラリア国際緊急援助空輸隊として派遣されている、太田将史1等空佐のインタビューも報じていますが、そのなかで太田1等空佐は「東日本で大震災が発生した際、オーストラリアからの支援をいただくことができました。我々はその恩を忘れません。全力を傾注して任務を遂行したい」と述べています。
C-130Hを前にメディアのインタビューを受ける航空自衛隊の太田将史1等空佐(画像:オーストラリア国防省)。
いまから9年前の2011(平成23)年3月11日、日本は東日本大震災という前代未聞の大災害に見舞われました。日本の被害を把握したオーストラリア政府は空軍のC-17A輸送機に救援隊を乗せて派遣し、同機は救援隊の輸送を完了した後も日本にとどまり、被災地で救助活動にあたる陸上自衛隊の隊員や救援物資の輸送を継続しました。
また3月22日には、東京電力福島第一原子力発電所事故の対策支援のため、中東で任務にあたっていたC-17A輸送機を呼び戻して、原子炉の冷却を行なう高圧放水システムを輸送しています。
オーストラリア空軍は2011年3月の時点でC-17Aを4機保有していましたが、その時点で運用できるC-17Aのほぼすべてを日本の救援のために派遣し、3月25日に活動を終了するまでの間に、450トンの物資と41両の車両、135名の人員輸送を行なってくれました。
太田1等空佐の言う「忘れていない恩」とは、東日本大震災におけるオーストラリアと同国空軍の貢献を意味しているものと考えられます。
深まる日豪関係のこれまでとこれから
今回の、航空自衛隊C-130H輸送機の派遣は、東日本大震災の時にオーストラリアが差し伸べてくれた救いの手へ恩返しをする機会であると同時に、オーストラリアとの防衛協力をさらに強化し深化する機会でもあると、筆者(竹内修:軍事ジャーナリスト)は思います。
東日本大震災の救援に3機が投入された、オーストラリア空軍のC-17A(画像:オーストラリア国防省)。
日本とオーストラリアは共にアメリカの同盟国であり、防衛部門での首脳部の会談も頻繁に行なわれてきました。また2003(平成15)年から2009(平成21)年まで、自衛隊がイラクの復興支援で派遣された際には、陸上自衛隊とオーストラリア軍が共にイラク南部のサマーワで活動したことで、2007年(平成19)年3月13日に日豪両国は安全保障に関する日豪共同宣言に署名しています。
その後も日本とオーストラリアの防衛協力は深まっており、2013(平成25)年1月にはアメリカ以外の国として初めて、共同訓練や国連PKO活動などで自衛隊が他国の軍隊と、物品や輸送などの役務を相互に提供しあう「物品役務相互提供協定」を発効させたほか、2019年9月から10月にかけてはオーストラリア空軍のF/A-18A/B戦闘機が来日して、航空自衛隊と共同訓練「武士道ガーディアン」を実施するなど、共同訓練も活発に行なわれています。
このようにオーストラリアはすでに事実上、日本の準同盟国となっています。今回派遣された航空自衛隊のC-130Hと自衛隊員が森林火災の対処に果たす役割は限定的なものかもしれませんが、準同盟国との絆を深めるという、目には見えないものの大きな役割も担っているといえるでしょう。